あき「歌姫」ゼロコミックス

[ Amazon ] ISBN 978-4-86263-088-9, \629
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 最近,ワシが購入するマンガが,既知のベテラン漫画家の作品に偏っているということに気がついた。ま,四十路であるし,小学校でコロコロコミックスの「ドラえもん」の単行本を買ってもらって以来,マンガ読み歴30年以上になるロートルであるから,選球眼が厳しくなった・・・というと聞こえはいいが,自分の好みががっちり固まって冒険をしなくなっただけなのである。
 つーことで,一時はさんざん読みあさっていたBLや女性漫画(少女漫画って言い方は今でも有効なの?)の,特に新人さんについてはさっぱりわからないというのが正直なところである。最近購読するようになった新人さんだと,大塚英志が発掘してきた群青ぐらいか。これではイカンと,なるべく財布と時間に余裕のある時には書店のマンガ売り場でジャケ買いに精出すようにしているのである。
 大体,書店員としては,売りたいもの=売れそうなもの・売れているものをプッシュするのが人情である。だから,今どんなものが売れているのかは,平積みになっているものをじっくり眺めていけば自ずと分かるようになっている。本書もそんな一冊を,表紙の絵だけ見て谷島屋書店で購入したものであるが,地味ながら,2006年の初版以来,2009年11月まで8刷を重ねていることを購入後に知って,地道に細く長く支持されているのだなぁと思ったのである。最近は重版しても部数は数千単位だったりするのが普通だし,なにせ出版元は一度潰れたのを別資本に拾ってもらった弱小であるから,ポピュラリティがどれほどものかは怪しい。それでも,回転の早い昨今の出版状況を考えると,根強い読者に支えられた漫画家であることは間違いない事実なのだろう。
 つーことで,ざらっと読み始めたのである。・・・ふ~ん,これが単行本デビュー作なんだ,それにしても絵が達者だよなぁ,すげえなぁ・・・というのが第一印象である。一条ゆかりは「絵に照りがある」という言い方をしていたが,ウマい絵というのとは別の「イキの良さ」を示す意味で使っているようだ。この著者の絵にはわかりやすいぐらいの照りがあり,もうテッカテカのピチピチで,眺めているだけで気持ちがいい。
 で,肝心のストーリーだが・・・うん,タイトル作の「歌姫」第一話は・・・新人らしい,シチュエーションの書き込み不足が目立って,「?」と思ったが,更に読み進めて行くと・・・なるほど,書き込まなかった理由がだんだんと明かされていくという仕組みなのか,と読者が逐次納得していける構成になっている。キャラクターの描き方は真摯で真面目,破綻した人物はおらず,エロ度ゼロ。歌姫と王が分業している国家システムの作り込みは面白くて,絵柄を現代っぽくした紫堂恭子的ファンタジーだなぁというのがワシの感想であった。
 ちなみに,本書の最後に納められた短編「ダリカ」の方が,ワシは好みである。どうも編集者があんまし干渉しないせいなのか,やっぱり今一歩,説明不足な点が見受けられるが,「ダリカ」を「世話」する優等生ロイの関係には,ウルッとくるものがあった。力量のある漫画家の作品には,細かいツッコミはいくらでもできるものの,それ以上に迫り来る迫力とかストーリーテリングの凄みが感じられて黙るしかない,ということがある。この「あき」という若い漫画家はファンタジー世界のシステムづくりが巧みで,説明の仕方には改善すべき点があるとはいえ,魅力的な照りのある画力も手伝って,非常にパワーの感じられる優れた作品をモノにすることができる,ということは間違いないようだ。
 この先,継続してこのマンガの作品を追いかけていくかどうかは不明だが,新人漁りはやっぱり楽しいな,ということを再確認させてくれた本書には感謝したい。今後のご活躍をお祈り申し上げてキーボードを置くことにする。

内田樹「日本辺境論」新潮新書

[ Amazon ] ISBN 978-4-10-610336-0, \740
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 今(2010年2月28日(日) 午後11:30過ぎ),Amazonで本書の順位を確認したら45位。発行日が昨年の11月だから,もう発売から3ヶ月は経とうかというのにこの順位を維持しているのはすごい。トータルの販売数ではひょっとすると「国家の品格」を抜くんじゃないのかなぁと感じる勢いである。しかしまぁ,「品格」と本書が並んで販売される新潮新書といい,それだけ売れる日本という国といい,なんだか面白いなぁ,いい状況だなぁ・・・つくづくいい国に生まれたと,嫌味抜きでありがたいとワシは思うのである。
 今更,本書のようなベストセラーについて言及するのもアレだが,せっかく新書大賞を受賞したということもあるので,ワシが感心した箇所についてだけ,引用を交えてコメントしたい。
 本書は「日本は辺境にあり,辺境人としての性癖を持っている」ということを主張する。それ自体は新しい知見ではなく,丸山真男はじめ,様々な識者が繰り返し語ってきたことであり,坂の上の雲を目指して上っていた一時期ですら,辺境人のスタンスを維持していた,とゆーか,そうであったからこそ,先の大戦についても「強靭な思想性と明確な世界戦略に基づいて私たちは主体的に戦争を選択したと主張する人だけがいない」(P.56)と指摘する。被害者意識に基づいてしか,軍事的な主張をしないと言うのである。そして,日本人の特殊な「ナショナリズム」をこう解説する。

本来のナショナリズムは余を以ては代え難い自国の唯一無二性を高く,誇らしげに語るはずであるのに(注:ヒトラーの思想に近いもの),わが国のナショナリストたちは,「自国が他の国のようではないこと」に深く恥じ入り,他の国に追いつくこと,彼らの考える「世界標準」にキャッチアップすることの喫緊である旨を言い立てている。(P.93)

 あ~,そ~いや,欧州ではあ~だの,アメリカではこ~だのって言い方しか,ワシら,聞いたことがないもんなぁ・・・と思い当たること多数である。これが辺境人のメンタリティであり,そーゆーものを骨の髄まで染み渡されたワシらは開き直って,辺境人としての自覚を以てそのメリットを生かそうではないかと主張するのが本書の目的である。いわば,「国家の品格」でオーバーヒートしたナショナリズム脳細胞に冷水を浴びせ,活性化のレベルと適度に保とうという,新潮新書のバランス感覚がもたらしたのが本書の存在意義なのであろう。
 構造主義者と一口に言ってもいろいろな立場があるようだが,内田樹が主張するそれは(「寝ながら学べる構造主義」参照),我々が生きているこの社会や歴史を「構造」という俯瞰的な立場から見直し,それをベースに自己のポジションを適宜変化させていくことを可能にする「思考」を持つことの重要性を指摘していた。本書の主張する日本人の辺境的メンタリティは,そのような構造主義者でなければ語られることはなく,辺境人の多面的な彩りを表現することも出来なかったに違いない。その意味では,ふさわしい人物に相応しいテーマを適度な厚み(薄さ?)でまとめさせた新潮社の編集人の有能さに感服すべきなのかもしれない。

2/26(金) 掛川・?

 あや~,日をまたいでしまった~。って,その割には全然仕事は進まず,Twitterのみ更新されていくと言う体たらく。明日こそ,じゃない,今日こそ頑張らねば・・・と宣言したときには大抵進まないんだよな。四十路だってのに学習しない奴>ワシ
 あ,そうそう,Twitterにも書いたけど,6月19日(土)にウチの職場の公開講座で御大層なテーマの講演をします。いいのかワシがWebの歴史を総括してさ。The Internet赤軍派からブチのめされるかも。
 いまんところ,この簡易ポスター(PDF)しかできてないけど,もうすぐワシの顔写真入りの正式ポスターが刷り上がってきて,袋井全戸に配布されるという恐ろしいことになるのだ。ま,誰もワシの顔なんぞ見やしねーだろーとは思うが,職場付近でワルいことが更にできなくなりそうな予感。やっぱり関西方面で○欲を発散してこなきゃダメか。
 しかし,おんなじ職場なんだから,外部講師の方用の書類作るついでとはいえ,こんな委嘱状なんて御大層なものくれなくてもいいのに。
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 つーこことで,ワシの現実逃避Twitter活動は,情報収集の一環なのよんっ!・・・と何でも言えそうなテーマにしておいたご利益をワシは享受しているのである。
 風呂入ったら寝ます。

あさりよしとお「アステロイド・マイナーズ 1」リュウコミックス

[ Amazon ] ISBN 978-4-19-950146-3, \562
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 やぁっと出たか,待ちに待ったこの単行本,当初は昨年(2009年)に出るはずだったものが,伸びに伸びてようやっとこの2月に発売となった。入手してみると,帯にもある通り,書下ろし部分が70ページを越えているというから,まぁ遅れるのも当然である。本書に収められている3作品「宇宙のプロレタリア」「軌道上教習」「ゆうれいシリンダー」は全てComicリュウに掲載された作品だが,ワシはリアルタイムでこれを読んで感動し,単行本化を待ち望んでいたのだが,焦らされただけのことはある。以下,どの辺にワシの感動ポイントが有るのかを縷々述べていきたい。
 あさりよしとおの代表作,「宇宙家族カールビンソン」について,大塚英志は次のように述べている(Comic新現実 vol.5,P.384~385)。

いい話だったりギャグとかしてオチがあるし(ママ),あさり君なりのドロドロしたものも,分かる人には分かる程度に描いてあるし,おたくっぽい連中には「これはあのパロディーだな」って了解できるように描いてある。彼は三層か四層くらいに読者の水準を設定して,全部に対応しているから割と誰でも読めますよね。で,まんがとしての基本的な部分を押さえてるから,ぼくはまんがに対して意外と保守的だから彼が好きだったんです。

 どうもワシはあさりよしとおの作品を愛読しながらも,物足りなさを感じていたのだ。特にカールビンソンや「るくるく」は・・・どちらも擬似家族を扱い,結構背景には大きな物語が隠れていることを匂わせ,時にはそれを部分的に見せてくれるものの,そのものズバリを出してくれない。星野之宣なら,長々と登場人物たちに「くどい!」というほど雄弁に語らせるのに,あさりよしとおは「最下層のバカは気づかないでよろしい」とばかりに隠すのだ。これはあさりの趣味なのか性格なのか含羞がなせる技なのか判断がつかないのだが,まぁ達磨大師のような風貌の奥底には複雑なものを抱えているのだろうと思うしかない。大塚が言う「三層か四層ぐらいに読者の水準を設定」していると評している,この隔靴痛痒的な描き方が意図的なのかそうでないのかはともなく,あさりよしとおという漫画家作品の一番の特徴であることは疑いない。
 しかし,「まんがサイエンス」を全巻読み,「なつのロケット」にブチあたってからは,へ~,藤岡弘みたいなアツさを前面に出してくるようにもなったんだなぁ・・・と,正直感心した。本書は一応「空想科学マンガ」とは銘打っているものの,作品の系統は間違いなく「なつのロケット」に連なる,熱血宇宙マンガであり,藤子・F・不二雄のSF短編と同じテイストを感じたのだ。
 本作の舞台は,21世紀末の太陽系,それもせいぜい小惑星帯までの範囲の太陽系,地球の庭先のようなところである。ワープ航法も光速ロケットも存在しないから,小惑星と地球との往復は旧来の,とゆーか,今現在使用されている液体燃料ロケットそのものが使用される。民間会社が宇宙開発に乗り出しているところが,現在よりちょっと未来っぽいという程度の,「空想科学」というにはリアルすぎる世界である。リアルであるから当然,現代社会の「ひずみ」がそのまま宇宙にも持ち込まれ,「宇宙のプロレタリア」では島流しのような状態で小惑星で働くハメになる男や,「軌道上教習」「ゆうれいシリンダー」では見て見ぬふりの出来ない「廃棄物」処理が扱われることになる。・・・こう書くと,夢も希望もない面白みのないシニカルなだけのマンガと受け取られそうだが,そこは全く違う,ということは強調しておきたい。詳細は本書を読んで確認して頂きたいが,限りなくリアリティのある設定でありながら,ひずみも含んだ「リアル」があるからこそ,そこから一歩一歩,進まなければならないという断固とした熱い決意が刻まれるのである。
  Comicリュウという雑誌の購読年齢層は,ワシも含めて相当高めなようであるからして,本作で語られる,あれもできないこれもできないと断じてしまう科学的知見にショックを受けるようなことはないだろうし,むしろ中高年ならそんな制約条件下でどのように物事を進めていくべきかという方法論を考える前向きさを持っているのが普通だ。困難の続く日々の生活になじんだワシらおっさんおばさん連中は,馬齢を重ねているが故に,あさりよしとおの描く小惑星開発労働者たちの姿をてらいなく理解できるはずなのである。

2/23(火) 掛川->熱海->掛川・晴

 本日は,本年度最後のHPC研究会最終日なので,
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運営委員会のみ参加すべく,マガリ太郎で熱海に向かう。・・・ところが間の悪いことはあるもんで
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・・・だったのだ。まるでワシの熱海行きを妨害するためのメンテナンスである。何のために秋の東名集中工事をやっているのかと小一時間C-NEXCOを問い詰めたい。おかげで行きも帰りもめちゃくちゃな渋滞に巻き込まれてしまった。往復7時間,あ~疲れた~。
 でもまぁ,おかげで渋滞中の車内から春の富士山の美観をゆっくり堪能できたからよしとするか。
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 有給休暇が余ってたので,本日は休日のはずなのに,なんかいっぱいメールを書いたような・・・気のせいであろう。
 風呂入ったら寝ます。