September 18, 2005

西島大介「ディエンビエンフー」角川書店

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-04-853890-X, \1000

ディエンビエンフー
西島/大介??〔作〕
角川書店 (2005.8)
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 さーて困った。
 何がって? 西島大介って,今お前が一押ししている漫画家じゃん,その最新作を紹介するのに何が困っているのか分からんというのか? いや,何と言ったらいいのか・・・つまりこれは物語の体をなしていないんだよ。じゃあ面白くないのかっていうと・・・うーん,これが難しいところなんだな。読者を選ぶ作品なのかって?・・・うーん,そうとも言えるだろうし,そうではないかもしれない・・・我ながら,じれったい,もどかしいんだけど,すぱっと言えないんだ。まあ,聞いてくれよ。

 漫画の基本は起承転結っていうじゃない。・・・こんなことを言うといしかわじゅんから今時何を古ぼけたこと言っているんだって怒られそうだけど,物語を読者に分からせるためのフレームワークの一典型であることは間違いない。まず「起」。核となるキャラクターや物語の背景が説明される部分だ。そして「承」→「転」と事件が次々に起こって物語が展開していって〆,つまり「結」となる。もちろん現代のフィクションではこの順番をずらしたりひっくり返したり,ということはザラ。だから承転起結とか結起承転,承と転がくっついてしまっている・・・etc.という物語も珍しいもんじゃない。
 で,ものすごく乱暴に言ってしまうと,この西島大介の新作は「結」「起」・・・あとはせいぜい「承」の取っ掛かりまで。それで単行本は完結してしまっているんだよ。Comic新現実の最終号で,西島は「ディエンビエンフー特別編」を描いているんだけど,それは「起」の更に前の話なんだ。だからエンターテインメントとして一番肝心の,血沸き肉躍る展開部分がすっぽり抜け落ちていて,西島はそこを描くつもりは今のところない,ということは既に分かっている(今後描くつもりはあるみたい)。

 俺がComic新現実をVol.1から購読していることは知っているよな? この単行本に納められている#1~#5のエピソードはそこに連載されていたものに少し加筆訂正が加えられたもので,Prologueと#6が単行本用に書き下ろされた部分だ。
 連載されていた部分はリアルタイムで読んでいて,かなりワクワクさせてもらった(悪趣味かなぁ?)。だもんで,新現実がVol.6で終了して連載が尻切れトンボで終わってしまった後は,単行本化が待ち遠しくて仕方なかった。著者のインタビューが連載の最後に載っていたのだけど,書き下ろしをするって発言していたしね。当然,主人公の日系人・ヒカルと,姫と呼ばれるベトナムの殺人娘,そして米国兵に鍛えられた人間兵器・ティム・セリアズ,この3人のその後がきちんと描かれるものと思うじゃない? それがどうだ,#6ではヒカルとティムのジャングルクルーズが延々と続き,姫は育ての殺人婆さんと畑を耕し続けることしか描いてくれていない。「結」であるPrologueではヒカルの持っているニコンが爆風で飛んでいき,結局最後にヒカルと行動を共にしてたのは誰なのか(まあ見当はつくけど),何も説明してくれないんだ。あーもー,俺の靴下痛痒感,分かってくれる? 最初に単行本を読了した時には,ふざけんな西島!って不貞寝しちゃったよ。だーれがこんな訳の分からん物語を推薦するかってんだっ。

 ・・・いやだけど,問題はその後なんだ。
 ・・・気になって仕方がない・・・Prologueがね。ネタバレになるからこれ以上は言わないけど,とにかく,単行本を全部読んでしばらくすると,Prologueの持つニュアンスが頭の中で熟成されてくるんだな。
 ・・・いや,省略された「承転」部分を自分なりに想像して埋め合わせる,って訳じゃない。逆なんだ。そこはなくても良かった部分なんじゃないかって,何だか勝手に分かった気分になってくるんだよ。俺だけかな?
 ・・・だから,これは面白い「物語」じゃないんだ。西島描く架空のベトナム戦争に配置された3人のキャラクター,彼らを取り巻く環境,そしてその底流に存在する見えない「物語」の醸し出すニュアンス,そーゆーものを眺める・感じる作品,ということになるんじゃないかな。
 ・・・そうなんだ,俺はそーゆー素直に楽しめない作品を持ち上げる輩の鼻持ちならなさが大嫌いなんだよ。分かりづらいから面白い,なんてのは邪道も邪道。漫画はインテリのお飾りじゃないんだ。・・・だからこの作品を「面白い」なんて称揚するつもりは全くないし,そんなことはしたくない。・・・でも,やっぱり気になるんだ,ひっかかるんだよPrologueが,今でもさ。

 俺が困った理由が少しは分かってくれただろうか? 前作はしっかりした起承転結物語だったので,この作品との構成のギャップには驚かされるよ。
 でもまぁ,この作品が理解できるのは俺だけさって感じの文章がWebに氾濫するのは見えているから(何せサラブレット西島だからね),「困った」と発言する奴が一人でもいるってことを知らせるべきとは思っている。

 そうね,「不思議な作品」と総括しておこうか。面白いかどうかは保証しないけど。ま,今後続編出るまで待ってもいいかもね。何時になるか分からないけど,それまではやっぱり「不思議な作品」のまま,なんだな。

 読む?

Posted by tkouya at September 18, 2005 10:47 PM