December 30, 2007

雅亜公「シークレット・ラブ」I, II, III,芳文社コミックス

シークレット・ラブ I [ Amazon ] ISBN 4-8322-3058-1, ¥552
シークレット・ラブ II [ Amazon ] ISBN 4-8322-3071-9, ¥552
シークレット・ラブ III [ Amazon ] ISBN 978-4-8322-3094-1, ¥552

secret_love_I_II_III.png

 いや〜,エロ特集をすると予告しておきながら,年末に入ってしまうとテンションが落ちてしまい,殆どらしいことが出来なかった。だもんで,最後に書きたいことを全部書いてしまうと共に,これだけは紹介しておかねばらならないという3冊をご紹介することで,お詫びに代えたいと思う。

 最近の2次元フェチな若者どもがどんなエロマンガを読んでいるのかを知るため,それなりにこの分野のマンガを渉猟し,何冊かは買って読んでみたのだが,いや〜,なんつ〜か,やっぱこの分野,進化が早いというか,もはや中年親父のワシには付いていけない所まで逝っちゃっている。SEX中の男が透明人間になるとか,巨乳女性はもはやホルスタインの化け物のような肉の塊になっちゃっているとか,性器の露出が殆ど欧米並みになっているとか(秘宝館が廃れる訳だ),ともかく凄い。一体どうやったらこんなホラーみたいなマンガを夜のおかずにできるのか,おじさんにはさっぱり理解不能である。Web上では全世界規模で実物が拝めるので,フィクションの世界では極端に走らないと刺激が足りないのかしらん? 中には完全なラブコメ&スポ根マンガの構成でありながら,スポーツの代わりにSEXをしているというものもあって,著者の意図とは別に大爆笑しながら読ませて貰ったが,おっさんとしてはもはやこの分野,トンデモ的な楽しみ方をしないとついて行けない所まで逝ってしまっているのだ。
 ただ,この極端な変化は男性向けのエロマンガに限られるようである。女性漫画家が担当することの多い女性向けエロマンガの方は,そこまでファンタジック(と言っていいのかどうか?)な進化は遂げていないようで,まだ何とか「実用」に耐えうる程度に留まっている(BLは別ね)。つーか,今時,恋愛の中にSEXが登場しないというのも不自然である上に,女性にとってのSEXはどうしても妊娠という可能性を孕むものだから,幻想の上に乗っかって射精だけしていればいい男とは違う,生々しい現実を伴うものなのである。それ故に,化け物同士のくんずほぐれつなんぞ見せられても困るのであろう。
 従って,同じエロでも男性よりは女性の漫画家が描いたものの方が現実離れしていないのではないか。徹底して男向けに描いたとしても,どこか違和感を抱えてしまうのではないか,と思えるのである。で,その違和感に誠実であればある程,男性奉仕のための作品からは離れていくのが自然の成り行きなのであろう。男性漫画家でも,エロから入って徐々に普通のマンガへシフトしていった一群としては,吉田戦車,山本直樹,陽気碑などが挙げられるが,彼らもどこか単なるエロには飽き足らなくなっていたのではないか。女性ならばなおのこそ,と,ワシには思えて仕方がないのだ。
 そんな一人がこの「シークレット・ラブ」というベタベタなタイトルの短編集を描いた,雅亜公(まあこう,と読む)なのだとワシは勝手に確信しているのである。もし男性だったらごめんなさい。女性同士が使うあだ名のようなペンネームと,単行本の著者コメントで判断する限り女性と思われるので,以下ではそう仮定してぷちめることにする。

 さて,この3冊の単行本の表紙を見て(写真参照),これがエロマンガではないと思った人はいないだろう。ワシもそのつもりで(どんなつもりだ)買ったのだが,その期待は半ば裏切られたのである。半ば,というのは,確かに本書に収められている作品にはSEXが描かれているのだが,ストーリーが面白いため,SEXが単なるお色気成分に成り下がっているからである。つまり本書はSEXを見せることではなく,SEXにまつわる男女の物語を描くことが目的の作品群だったのである。
 特に感心したのは,女性キャラの心理描写が巧みなことである。まあ女性が描いている(たぶん)のだから当然と言えば当然なのだろうが,掲載誌は「別冊週漫スペシャル」である。小汚いラーメン屋に置いてあるマンガ雑誌に,SEX後に雨の音を聞きながら男と語らう行きずりの女性を描いたり(第6話「雨宿り」),既婚女性が男からコートをかけて貰ったことに「こんなことしてもらうの何年ぶりだろ」「女の子扱いしてもらったみたいで何か嬉しいな・・・」と少しジンとしたり(第26話「アイ・ニード・ユー」)というような繊細な女性の心理描写が描かれている作品が掲載されているなんて,時代も変わったものだと思わざるを得ない。絵柄はデビュー当時の金井たつおを思わせる,端正なデッサン力と可愛らしさを伴ったもので,確かに男臭い雑誌に載っていても違和感はないレベルである。しかし,単行本3冊になる作品を描き続けられたのは,絵柄だけではない,ストーリーの持つ魅力があったからこそなのであろう。そして,その魅力は女性心理描写の巧みさがあったればこそなのであり,今はそれを週漫の読者が支持する時代になったのである。

 この作品群は3冊の単行本にまとめられているが,1巻よりは2巻,2巻よりは3巻に感心させられるストーリーが増えている。女性心理描写が巧みなのは全てに共通しているのだが,その上に構成させるシチュエーションが段々凝ってくるのである。
 ワシが一番感心したのは,3巻巻頭の第21話「言えなかった言葉」である。これは電車の中で痴漢行為を働いてしまった男が主人公で,その男が好きになった相手が実は痴漢の相手だった・・・というものである。男にとって一方的に都合のいいエロマンガばかり読んでいる輩には少し苦いものを残すかもしれないが,それ故に,ワシはマジにこの作品,道徳教材として使えるのではないかと思っている。純粋エロを求めて買ったワシにとっては意外だったが,マンガとして楽しめたのに味を占め,この漫画家の作品を全部買ってしまったのは当然の成り行きと言えよう。

 雅亜公の最新作「ラビリンス Vol.1」は,「シークレット・ラブ」の一短編を拡大したような不倫ものの長編であるが,ベタなタイトルが相変わらずなのはいいとして,今のところは間延びした作品という印象が強く,切れ味という点では短編の方がお勧めである。まだ始まったばかりなので,これについては今後に期待することにして,今は在庫がある「シークレット・ラブ」3冊で楽しむことをお勧めしたい。

Posted by tkouya at December 30, 2007 10:51 PM