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[警告]以下の文は,相当なネタばれが含まれますので,これから見ようという方は読まない方が得策です。
自民党の一国会議員・稲田朋美が騒いだせいでかえって前評判が高まった,という皮肉な効果を生んだ映画である。ただそれだけならワシもDVDが出るまでは待っていようかと思っていたのだが,どうも見た人の反応を聞くと,左寄りの方々の評価が高いのは当然として,右寄りの方々の評価も悪くない。ほほう,それならウヨクなワシも楽しめそうだな,と,出張(旅費は自腹だよ言っとくがな)の帰りに渋谷の小さな映画館,シネ・アミューズで本作を見てきたのであった。
で,率直な感想だが・・・なるほど・・・血沸き肉踊るという類の面白さとは真反対の,静かにジワリとくる荘厳さが感じられる作品になっていた。荘厳さの一因はバックグラウンドミュージックに重苦しいクラシック音楽が使われていたためだろうが,それ以上に,この映画が説明を極力排し,ノンフィクション映像を積み上げることだけで成立している,という事情が大きいと思われる。
あ,いや,左右の方々,ちょいと「靖国論争」をする前に,映画の説明をさせてくれ・・・だめ? おっ,ちょっと暴力はいけません。手を出す前に,まず口で。じゃ,先に,えらく本作に対してご不満な様子の右の方から。・・・え,何? 映画の最後に長々と挿入される戦前・戦中・戦後のスチール写真の羅列は日本(軍)人の残酷さばかり強調していて偏向している? これも含めて後半は靖国反対論者の意見ばっかり集めて後味が悪いと。なるほど。
左の方,何か言いたいことはありませんか? ・・・え,全体的にはいいと思うが,不満もある,と。もっと靖国神社の恐ろしさを延々と語れ,日本の将来の禍根はここにあるのだ,もっとマイケル・ムーアのように監督自身が出張って主張して突撃取材を敢行したっていいぐらいだ・・・あ~あ~分かった分かった,そのぐらいにして下さい。
・・・・何が言いたいかというと,本作前半に靖国神社を支持する人々の主張が,本作後半にはそれに反対する人々の主張が,バランス良く配置されている,ということなのである。もちろんこれはワシが映像をワシなりに「解釈」した結果,そう思ったというだけのことで,映画では何のナレーションも入らない。淡々と事実を伝えているだけなのである。
そうなると,これらの映像からはまた別の解釈も可能となる。本作を貫くのは,靖国神社のかつての刀匠のカットであるが,所々に監督自身による刀匠へのインタビューも入る。これがまた黙して語らずというものが殆どで,監督の質問に明確な回答をしていないのだ。それをあえて使った監督の作意としては,戦争には反対だが靖国神社の存在は暗黙のうちに支持する,という日本人が結構な割合で存在している,ということを示したかったかな?・・・というように,この部分だけでなく,あのパトカーに乗せられた左翼青年の行動の意義はどうなんだとか,徒党を組まず一人夜中に参拝する軍服姿の兵隊さんの真意はどこにあるんだとか,ありとあらゆるカットについて,映画を観終わった後にあれこれ想像を膨らませることができるのである。
これはつまり,反日とか反靖国という主張とは別に,映像そのものに芸術的価値があるということを示している。フィクションの映像が皆無な本作にして,多様な解釈を可能ならしめるものを作り上げた,ということは,何はともあれ右も左も国籍も関係なく,監督の力量を褒め称えるべきであろう。稲田朋美は,補助金をつけた文化庁にイチャモンをつけるのではなく,何故かような映像を中国人に撮られてしまったのか,芸術的な右翼映画を撮ることのできる日本人監督を養成すべきだったと嘆くべきであったのだ。
ウヨクなワシとしては,まあ本作に日本の税金がつぎ込まれて成立の手助けをし,紆余曲折はあれ,本作が日本全国で公開され,こうして見ることができた,というところにちょっと愛国的に誇らしげなものを感じて満足しちゃっているのである。こんなワシ,非国民ですかね,稲田先生?
Posted by tkouya at May 21, 2008 3:00 AM