July 1, 2006

鶴田謙二ほか「日本ふるさと沈没」徳間書店

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-19-770132-2, \1200

日本ふるさと沈没

徳間書店 (2006.6)
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 1973年に一度沈没した日本がこの2006年7月15日に再び沈没するというのである。この未曾有の大惨事を目前にして,世界に冠たる書籍文化を支える大手出版社が手をこまねいているはずもなく,音羽グループ・一ツ橋グループはもちろん,日本より先に沈没しかけている徳間書店までが,日本を代表するカルト漫画家を緊急召集し,アピールを行うに至ったのである。
 それが本書だ。
 鶴田謙二がカバーイラストを担当した関係上その名前だけが表紙にでかく印刷されているが,それ以外の執筆人が多すぎて載せ切れなかったらしい。これは,日本が保有する全船舶・航空機を動員しても全国民を退避させるには大幅に足りず取り残される国民が多数出る,ということを象徴させているものと思われる。なんて憎らしい演出なのだ。徳間康快亡き後,迷走しまくった出版社とは思えない緻密な営業戦略である。
 それはともかく,文字数制限のないこの場所を使い,鶴田以外の執筆陣もここで紹介しておくことにする。

 吾妻ひでお,あさりよしとお,唐沢なをき,遠藤浩輝,伊藤伸平,西島大輔,恋緒みなと,米村孝一郎,ひさうちみちお,トニーたけざき,空ヲ,いしいひさいち,寺田克也,TONO,宮尾岳,安永航一郎,ヒロモト森一,幸田朋弘,ロマのフ比嘉,とり・みき(敬称略)

 これだけの豪華ラインナップを取り揃えて,自身の出身地がどのような沈没の有様を呈するのかをシミュレーションさせようという壮大な試みが今,開始されたのである。ワシは書店で本書が大量に平積みされているのを発見し,感動を抑えきれず,残り少ないSUICAをはたいてレジに直行したのであった。

 読了したワシが満足したことはいうまでもない。しかし,部分的には不満が残る。一番問題なのは恋緒みなとが執筆した名古屋沈没編である。
 今や名古屋といえば,日本の製造業の中心地である。総売上高21兆円,純利益1兆円を誇るトヨタ自動車が本社を構える地域の沈没を描く重責を与えられたにもかかわらず,トヨタのトの字すら出てこないのはどういうわけだ。なぜ「トヨタ沈没」ではなく,「赤味噌沈没!?」なのだ。名古屋人の赤味噌志向は日本の七不思議の一つに数えられるものであるが,トヨタを差し置いて赤味噌を取り上げるとは,お好み焼きの焼き方一つで殺人が起こる大阪人並みの非合理精神である。瀕死の徳間が健気にも編んだ本書という大舞台で,このような重大なミステイクが発生したことは万死に値する。

 徳間書店はこの責任をどのように考えているのか,ワシとしては猛省を促したい・・・のだが,実は既に多数の読者から同様の非難が寄せられたと見え,「日本ふるさと沈没 Vol.2」の代わりに,伝説の漫画雑誌「リュウ」が2006年9月19日に復活させるという知らせが本書に挟み込まれていた。今頃「リュウ」というブランドに頼るぐらいなら,ワンマン社長の暴走を食い止めて「キャプテン」を続けていればよかったものを・・・と今更ながら嘆息してしまうのだが,何にせよ,この知らせは喜ばしい。
 願わくば,日本沈没前に発行してほしかったが,贅沢は言うまい。せいぜい沈んだ後にじっくり楽しませていただこうではないか。

 なお,本レビューに関しての論理的情緒的短絡的常識的なご意見は黙って消去させていただくものとする。

Posted by tkouya at July 1, 2006 10:35 PM