得能史子「まんねん貧乏2 年収19万円編」ポプラ社

[ Amazon ] ISBN 978-4-591-09915-5, ¥1000
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 まさか第二弾が出るとは思わなかったのだ。昨年,閉店間近のなにわ書房本店で第一弾と邂逅し,「貧乏の悲しみ」を白い簡素な絵で描いていることに感動したことをここに書いたのだが,それが何と,今でもググるとトップページの上位に表示されているのである。
 マイナーだ。
 マイナーの証拠である。平均以下のページランクしか与えられていないこのblogの記事がトップに来るなんてありえね〜。しかも発売から一年以上もたっているのにこの記事の少なさ。第二弾が出るぐらいだから,それなりに読者はいると思うんだが・・・みんなWebに記事を書かないのね。
 以前,BSマンガ夜話で「事件屋稼業」を取り上げた時,夏目房之介さんが,「これ(事件屋稼業)好きな奴はアンケート出さないんだよ」と言っていたが,どうやらこの「まんねん貧乏」ファンも同じことが言えそうである。出版社に感想文は送るのに(得能がそれを読んで喜んでいることが本書に描かれている),それ以上の主張も広報活動もしない奥ゆかしい人々。それが本書のターゲット層たる女性たちなのであろう。恐らくは得能と同じように,旦那を送り出して家事をこなし,午後のゆったりとした独り身時間にごろんとソファーに体を横たえ,本書を紐解いて「そーなのよねー」と共感したり,くすくす笑ったりしているだけで幸せなご仁たちが多いのであろう。
 平和だ。日本のこの自堕落なまでに平和な日常の象徴,それが得能のまんねん貧乏生活なのである。ワシはこの事実を,数少ないオスの負け犬読者として,Web広報活動家として声を・・・まあ普通程度の音量にして,ボソボソとお伝えしようと思うのである。
 第一弾はビンボー負け犬生活を送っていた頃の得能の回顧録みたいなもんであったが,第二弾はラブラブ新婚生活ビンボーだけど幸せです的なほのぼのライフの紹介がメインである。ワシはこう見えても新婚生活に憧れを抱いており,結婚したての奴が不幸せそうな表情をしていると「もっと幸せそうにしやがれ!」とカツを入れてしまう悪い癖があるのだが,得能にはその必要はなさそうである。いわゆる「等身大の幸せ」という奴の模範生であり,旦那(New Zeal人)の給料が合算されてもボロアパートに住み続け,毎月の千円単位のやり繰りに腐心し,チマチマとささやかなイベントのための予算を積み立てることに喜びを覚えている得能は,多分,一人で暮らしていた頃よりも幸せなのだ。特に生活が豊かになった訳ではないが,一緒に暮らしていくこと,それだけが唯一の喜びの源泉であり,それさえあれば,飢えない程度の稼ぎで充分なのだ。
 二人で暮らしていくことの大切さ,という大変ベタなテーマを,軽やかでシンプルな描線でユーモラスに描いている本書は,負けただの勝っただの上流だの下流だのといった格差論を軽やかに受け流す強さを持っている。残念ながら得能は前作と今作の原稿料と印税で,少なくとも中流以上の所得を得ることになってしまい,下流の悲しさで勝負することは今後できないだろう。そのことは得能も充分承知した上で,本作を「らぶらぶ」路線にしたのだろう。結果,「下からの目線」による勝負はできなくなったが,人間社会を包括する,ベタだが大切なテーマを獲得することができたのは幸いであった。しかも得能の「らぶらぶ」は肩肘張らずに受け取ることがきるまったりしたものである。安心してご購入され,くすくす笑ってそれを自然に受け取って頂きたいのである。