西原理恵子「毎日かあさん カニ母編」毎日新聞社

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-620-77054-X, \838
 ご本人のサイトからリンクが張ってあったので,毎日新聞連載のこの作品はチラチラと読ませて貰っていた。今回,その一年と2ヶ月分がまとまったと予告があったので,早速購入したという次第。
 子供を産んだ女性の漫画家は皆,育児マンガを描く。これは日本の漫画文化が根付きつつある証左である。内田春菊が自らの繁殖家庭(変換ミスに非ず)を赤裸々に書くかと思えば,青沼貴子はぽよぽよする怪獣としての息子の日常を描き,アニメ化までされてはた迷惑な子どものキンキラ声をお茶の間に届けるという暴挙に荷担した。・・・と,もう固有名詞を挙げればキリがないほど,多くの漫画家が子どもをネタにしている。少女漫画に続き,育児マンガも女性によって確立したジャンルと言える。他にも,自分のペット自慢をしまくるネコマンガ・トリマンガ等があるが,こちらはグレたり離婚したり犯罪を犯したりというスリルに欠ける分,ものすごく甘々で,大量に食すると胸焼けがするという欠点がある。やはり,人間が一番である。特に,責任を放棄した負け犬にとっては。
 で,サイバラと言えばどうなるか。まあ,息子がバカで(男は大概バカである),娘が上手く(今の世は女が珍重される),元々母性溢れたサイバラの営む家庭はかなり平凡に見える。離婚というスパイスもない訳ではないが,今時,身近でこれだけ別れた事例を見せられると,もうスパイスにもならない。むしろ,離婚後もちゃんと定期的に夫と面談している辺りに,サイバラの土着的常識人ぶりを観る思いがする。
 と言う訳で,ギャグも面白いし,シンミリさせる所もいつも通りではあるが,読了感はいつにも増してホノボノである。重松清が最近のサイバラを評して,優しい物語が増えてきたような気がする,と書いていたが,まあねぇ,子供を持って優しくなれないようではdomestic violenceまっしぐらでございましょう。サイバラがかように優しくなった,その理由を本書ではたっぷりと語ってくれている。負け犬としては,やはり「育児真理教は強かった」と思わざるを得ない。ぐぞ。

3/24(水) 掛川・曇時々雨

 肌寒い日が続く。桜も戸惑っていることであろう。
 午前中,トチ狂った犬の鳴き声が聞こえてくる。しかし,耳を澄ませて良く聞いてみると・・・怒鳴り散らして喉が枯れきった男の声なのである。日本語なのだろうが(うちのアパートにはFilipinaやBrazilianもいる),何を言っているのか判らない。恐る恐る台所の窓を開けて除いてみると,わしの棟の斜め向かいの棟の一階で,若い男とおぼしき輩が玄関ドアをドカドカぶん殴っていた。うーむ,生サイバラを目撃できるとは。時々,甲高い女の声が響くところもナイスであった。安アパートならではの風情である。

3/23(火) 掛川・曇

 灯油の最後の備蓄分を消費しまくったところで,寒い日が続く。っつっても,東京の方は雪もちらつく程だというから,こっちはまだまし。何だかんだ言っても遠州は暖かい。
 完全休養日。長さん死去の衝撃から覚め,ぼけらーっとして過ごす。食料品は買い込んであるので,自炊生活を楽しむ。先ほど,アサリのみそ汁に水菜のサラダ,ホッケの干物を食したところ。久々のまともな日本人的夕食である。明日の便通が楽しみである。どーも,肉食は胃腸に良くないようで,ステーキやハンバーグを食った翌日は必ず便秘気味となる。それでなるたけ自宅では一汁一菜メニューを作っているのである。わしの自堕落な学生時代を知っている友人どもは「お前が自炊?信じられん!」とほざきよるが,こちとらもうええ年の負け犬である。メシぐらい作るわい。
 とはいえ,折角なので完全復活した鈴本にも行きたい。ちょうど良い具合に,Grid Forumの報告会があるそうなので,木曜日に日帰りで出かけることにする。六本木ヒルズ内にあるアカデミックヒルズが会場なので,ちょっと楽しみ。帰りに鈴本に寄って帰る予定。ふふふのふ。

一條裕子「すてきな奥さん」フリースタイル

[BK1 | Amazon] ISBN 4-939138-13-5, \980
 もうあちこちで話題になっていたので今更ではあるが,貯まった本のお蔵出し第一弾として,これは外せないのである。
 本書は,アフタヌーン誌で連載されていた「蔵野夫人」をベースに,かなりの分量の書き下ろしを加えて一つのまとまった物語に紡いだものである。連載当初はさほど目立たない扱いであったが,読むと,これがまた何とも言えない独特のユーモアがあって,いっぺんに好きになってしまった。トーンもベタもカケアミも少ない,かなりすっきりとした白い絵なので,あのごっついむさ苦しいアフタヌーン連載陣に混じると,どうしても見落とされがちになるのか,9ヶ月で連載終了と相成った。そのうち講談社で単行本になるのかな~,と思っていたら一向に書店では見かけず,昨年12月になってようやっとフリースタイルという私好みの本を刊行しつつある小さい出版社から発行されたのが本書である。講談社も惜しい作家を逃したものである。その後,一部のウルサガタには好まれて話題になったのだから。
 この作品集,読めば読む程,とり・みきを連想してしまう。白い空間の使い方といい,ロッドリング(ミリペンか?)を使っているところといい,連載時の原稿に思いっきり手を入れて,単行本内で一つの物語を紡いでしまうところといい,全く,とり・みき的な作家である。それでいて,あまり先鋭的なギャグ指向でない,三浦しおんにも繋がる妄想的世界を作り上げているところに,この作家のオリジナリティが光っている。
 ほのぼのではない,でも,ほっと肩の力を抜きたい時にはお勧めの作品集である。