Comic新現実 Vol.6(最終号) 角川書店

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-04-853888-8, \933

comic新現実 Vol.6
角川書店 (2005.8)
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 また楽しみにしていた雑誌がなくなってしまった。まあでも予定通り隔月6冊,1年で終わったのだから,見事な去り際である。一応,来春には「ふつ~の」コミック誌がこの連載陣を引き継いで登場するそうなので,それまではこの分厚い6冊を読み返しながら待つことにしよう。
 最後なので,気になっていたことを箇条書きにしてみる。

  • 大塚英志という人間が良く分かった・・・というか,大塚のツバキを全身に浴びたような読後感であった。シュートな対談というか叱責をかまされた森川嘉一郎はその後,おたくの「ダメさ」について言及するまでに影響されていて笑った。奥さんの白倉由美に言わせると,大塚はホリエモンと同種の人間だそうだが・・・そのうち立候補するんだろうか?
  • 吾妻ひでおは,この雑誌がなければ,かの名作「失踪日記」も読まずに済ませていたかもしれない。ワシは失踪直前の吾妻ひでお作品に嵌ったクチで,題名は忘れたが,セミの幼虫が少女とSEXする作品が一番「萌えた」覚えがある。その頃の吾妻が描く少女は肉付き具合が尋常ではなく,大根足が物凄くセクシーに思えたものである。それが復帰後は一転,スマートな足になってしまい,どーにも読む気分にならなかったのである。「失踪日記」ではそれが大分元に戻ってきており,その後連載が始まった「うつうつひでお日記」「地を這う魚」は,作品全体の雰囲気は軽くなったが,大根足の肉付きが元に戻ってきた感があり,喜ばしい。
  • この雑誌でデビューした群青の「獏屋」は,異様な雰囲気の作品(そこがいいんだが)が多数を占める中で最もフツーに読むことの出来た作品であった。連載はこれでおしまいのようだが,今後の活躍に期待をしたい。

夏目房之介「おじさん入門」イーストプレス

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-87257-577-6, \1200

おじさん入門
おじさん入門

posted with 簡単リンクくん at 2005. 8.18
夏目/房之介??著
イースト・プレス (2005.8)
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 夏目房之介という人をどう捕らえていいのか,少し前まではちょっと迷っていたところがある。
 ワシはしょーもない(ホメ言葉です為念)漫画が好きである。「しょーもない漫画」とは,メジャー志向ではないショートギャグ漫画で,メッセージ性皆無,脱力系ギャクが満載で,作者本人は楽しんで描いているものの,一般的人気は取れそうもないな・・・という,ワシが勝手にカテゴライズしたジャンルである。横山えいじ竜巻竜次がしょーもない漫画の2大作家であり,ワシはこの二人の作品が大好きで単行本が出るたびに買っているのだが,困ったことに人気がないのでなかなか出版されず,店頭にも並ばないから入手しづらいというファン泣かせのジャンルなのである。ワシにとっての夏目房之介像の一つは,このしょーもない漫画を長く描いていた作家,というものであった。多分,純粋漫画作品としては「偉人でんがく」が最後だったと思うのだが,ワシはこの掲載誌を休刊になるまで購読していたので,そーゆーイメージを持っていたのである。
 しかし,ワシが最初に嵌った夏目房之介作品は「手塚治虫はどこにいる」という,シリアスな漫画家評論集だったのだ。これに感動したワシは次から次へと漫画評論集を読むようになって,自分のblogで読了した本の感想文を書き連ねるパンピーになってしまったのであるが,ワシにとっての夏目房之介像もこれによって完全に分裂して今に至ってしまったのである。文章が硬く,論理的な説明を丁寧に積み重ねた評論と,しょーもない漫画とのギャップが激しすぎて,ワシの脳内では同一人物としての一致を見ていないのである。
 本書は前著「これから」に続くエッセイ集であり,文に添えられているカットを本人が描いているという体裁も版形も,老化していく自身やその周囲を観察し恬淡と思ったこと書いているという内容も全く同じで,違うのは出版社だけである。
 ワシは現在三十路半ばを過ぎた人間ドックおじさんであるが,そのぐらいの年齢になってくると,世間と自分との折り合いのつけ方は当に心得てしまっているので,本書で述べられている考え方は「まあ,そんなところだろう」と全面肯定できる。逆に言えば,意外な考え方が示されているわけではないので,あんまし年を取ってから読むものではない本かもしれない。社会に飛び込んだばかりの二十歳代ぐらいに読んでおくと,世間との軋轢に悩んだ時には参考になることが多いんじゃないかなぁ。そう考えると,今は難しいだろうが,熟年離婚に至った経緯と理由を語ってほしい,というのが無責任な第三者の正直な感想である。
 しかし一番面白かったのは,ワシが抱いている2重の夏目像が,硬い文章と,説明過多のしょーもない漫画タッチのカットのそれぞれに重なったことである。おかげで,カットはカット,文章は文章で別個に眺めることで2回しゃぶることが出来る,ワシにとってはお得な本になっているのである。

藤臣柊子「日本一 食べまくり&遊びまくり編」幻冬舎

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-344-00792-1, \1400

日本一 食べまくり&遊びまくり篇
藤臣柊子著
幻冬舎 (2005.6)
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 初めて読んだグルメ本は「恨ミシュラン(上)」である。フジオミの新刊である本書を読んだ時,「何故,ワシは,恨ミシュランではなく,これを最初に読まなかったのだろう」と後悔したものである。それぐらい,恨ミシュランは強烈であったのだ。
 それまでにも食を扱う漫画は読んでいた。「クッキングパパ」はたまーに荒岩一家の近況を知りたくて買ったりするし,歯医者の待合室に置いてある「美味しんぼ」に手が伸びたりするし,子供の頃に読んだ「包丁人味平」は結構ドキドキしながらラーメン対決を読んでいたりしたものである。これらの作品に登場するキャラクター達は,料理に対して真剣に取り組んでいたものである。うまいものはうまいと言い,まずいものはまずいと言う,真面目な求道者を扱った作品群である。
 恨ミシュランには,その名の通り,高級品に対する恨み,怨念こそあれ,食を極めるなどという高尚さはまるでない。「へー,あんたがたこーんなまずいモンをこーんな高い金取ってるわけ?いーショーバイしてんねー」ってな感じで,少なくとも客としてそれなりにきちんと遇されたであろう取材先の店を,気に入らない時には容赦なくコテンパンにけなしまくるのである。この著作以後,西原理恵子は税金をめぐって国に喧嘩を売るぐらいの大家となり,神足裕司はマイルドに物事を語る評論家としてブラウン管(この表現も通じなくなるな)の中から見事な頭部のテカリをお茶の間にお届けするようになった。いわば出世作なのであるが,さてグルメ本としてはいかがなものであったか。
 何せ,池袋のスナックランドが高評価なのである。対して神田の老舗がケチョンケチョンの低評価。まあ確かにスナックランドは安いしそこそこ食えるし,老舗の時代がかった対応は癇に障るかもしれない。しかしそこにはどー見ても,恨みというバイアスが掛かっているように思えて仕方がないのである。作品としては最高であったが,アンチグルメ本と捉えるべき本であろう。
 本書は「恨み」の全くない,スタンダードなB級グルメ・観光ガイド兼用のエッセイ漫画である。これは別段,著者が訪問先に対して気遣っているわけではない。気に入らないところはそう書いてあるし,しょぼいものはしょぼいと言う。しかし,サイバラとは異なり,フジオミには世間に対するルサンチマンというものがまるでなく,目を皿のようにして「まず貶してやろう」という姿勢は全く見られない。折角出かけるのだから,精一杯楽しんでやろうという至極善人的な観光者として,フジオミは大方,ポジティブに面白がっているのである。
 まっすぐな観光を楽しみたい向きには本書をお勧めする。
 「けっ,構造改革だか郵政解散だかしらねーが,むしゃくしゃするっ」という向きには,是非とも「恨ミシュラン」を読んで,「人が良かれと過ごしている所にやってきてクソたれる」(by パッポン博報堂さん)快感を味わって頂きたい。

小林よしのり「新ゴーマニズム宣言スペシャル 沖縄論」小学館

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-09-389055-2, \1600

新ゴーマニズム宣言SPECIAL沖縄論
小林 よしのり
小学館 (2005.7)
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 「わしズム」と「Comic 新現実」を併読している人ってどれぐらいいるのかなぁ,と考える。「自由民主」と「しんぶん赤旗」を併読している人に比べれば,多分,たくさんいるだろうとは思う。後者に当てはまる人は,恐らく,政治に興味を持つ研究者やジャーナリストが大半だろう。しかし前者に当てはまる人の多くは,どちらにも「面白い漫画」がたくさん載っているから買っているにすぎない,と,ワシは勝手に解釈しているのである。
 これらの雑誌(というより形態としてはムックなのだが),どちらも編集責任者が強烈な個性と思想の持ち主が就いており,「わしズム」は小林よしりんが,「Comic 新現実」は大塚英志が仕切っている。更に,この二人は物凄く精力的に,しかも面白くて売れる作品を自分の雑誌のかなりのスペースを割いて掲載している,という点も恐ろしく似ている。そのため,どちらの雑誌も読み終わると物凄く疲れる。声がでかくてあたり構わず説教をかます教祖様に付き合っているよーな,それでいて話す内容は結構面白いのでつい聞いてしまう,そんな感じでこの二誌との付き合いを続けているのである。どちらも今年中に大幅なリニューアルを控えているようであるが,ワシは今後もお付き合いを続けさせて頂く予定でいる。やっぱり,脂の乗っている作家の活動は,見ていて飽きないもんねぇ。
 本書はその片方の教祖様のご執筆された,ゴーマニズム宣言スペシャルの最新刊である。タイトル通り,米軍基地に多くの土地が占領されたままの沖縄について描いたもので,SAPIO紙の連載分(1章~17章)に書き下ろし(18, 19, 最終章)を加えて400ページを越える分厚い単行本になっている。反米愛国自主独立を熱く語る論調は相変わらずで,長年付き合っている読者としては繰り返しが過ぎて少々退屈に思える記述も多いが,沖縄取材のエピソードは結構笑える内容が織り込まれているし,書き下ろし分の,特に瀬長亀次郎についての伝記は感動的ですらある。
 エンターテナー小林よしりん,未だ健在,どころかますます盛ん,なのである。

小谷野敦「帰ってきたもてない男」ちくま新書

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-480-06246-7, \700

帰ってきたもてない男
小谷野 敦
筑摩書房 (2005.7)
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 うーむ,他ならぬ小谷野先生の新刊であるから何を置いても買うのであるが,しかし,それにしても,この帯の文句は,書店の平積みの中でも目立つ。

もっともてなくなって再登場!

 いや,そんな,開き直られても・・・お気持ちは,同じく(いや,もっと,だな)もてない男であるワシには良く分かりますが,いちおう,世間体って奴も考えて,ねぇ・・・。と言いたくなってしまうぐらい絶好調の小谷野先生。×イチ経験は執筆活動の一助となったのかと,オスの負け犬としては舌打ちしたくなる程である。 前著を知らない,読んでいない人でも,「賢くない」「懲りない」人種である方にとっては身につまされつつも共感できところの多い本書は,結論において到達した一種の「悟り」によって感動的な作品になっているのだ。
 世のもてない男どもよ,小谷野敦を手本とし,未だに負け犬のアガワサワコに振られ続けよ!