小林よしのり「新ゴーマニズム宣言スペシャル 沖縄論」小学館

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-09-389055-2, \1600

新ゴーマニズム宣言SPECIAL沖縄論
小林 よしのり
小学館 (2005.7)
通常24時間以内に発送します。

 「わしズム」と「Comic 新現実」を併読している人ってどれぐらいいるのかなぁ,と考える。「自由民主」と「しんぶん赤旗」を併読している人に比べれば,多分,たくさんいるだろうとは思う。後者に当てはまる人は,恐らく,政治に興味を持つ研究者やジャーナリストが大半だろう。しかし前者に当てはまる人の多くは,どちらにも「面白い漫画」がたくさん載っているから買っているにすぎない,と,ワシは勝手に解釈しているのである。
 これらの雑誌(というより形態としてはムックなのだが),どちらも編集責任者が強烈な個性と思想の持ち主が就いており,「わしズム」は小林よしりんが,「Comic 新現実」は大塚英志が仕切っている。更に,この二人は物凄く精力的に,しかも面白くて売れる作品を自分の雑誌のかなりのスペースを割いて掲載している,という点も恐ろしく似ている。そのため,どちらの雑誌も読み終わると物凄く疲れる。声がでかくてあたり構わず説教をかます教祖様に付き合っているよーな,それでいて話す内容は結構面白いのでつい聞いてしまう,そんな感じでこの二誌との付き合いを続けているのである。どちらも今年中に大幅なリニューアルを控えているようであるが,ワシは今後もお付き合いを続けさせて頂く予定でいる。やっぱり,脂の乗っている作家の活動は,見ていて飽きないもんねぇ。
 本書はその片方の教祖様のご執筆された,ゴーマニズム宣言スペシャルの最新刊である。タイトル通り,米軍基地に多くの土地が占領されたままの沖縄について描いたもので,SAPIO紙の連載分(1章~17章)に書き下ろし(18, 19, 最終章)を加えて400ページを越える分厚い単行本になっている。反米愛国自主独立を熱く語る論調は相変わらずで,長年付き合っている読者としては繰り返しが過ぎて少々退屈に思える記述も多いが,沖縄取材のエピソードは結構笑える内容が織り込まれているし,書き下ろし分の,特に瀬長亀次郎についての伝記は感動的ですらある。
 エンターテナー小林よしりん,未だ健在,どころかますます盛ん,なのである。

小谷野敦「帰ってきたもてない男」ちくま新書

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-480-06246-7, \700

帰ってきたもてない男
小谷野 敦
筑摩書房 (2005.7)
通常24時間以内に発送します。

 うーむ,他ならぬ小谷野先生の新刊であるから何を置いても買うのであるが,しかし,それにしても,この帯の文句は,書店の平積みの中でも目立つ。

もっともてなくなって再登場!

 いや,そんな,開き直られても・・・お気持ちは,同じく(いや,もっと,だな)もてない男であるワシには良く分かりますが,いちおう,世間体って奴も考えて,ねぇ・・・。と言いたくなってしまうぐらい絶好調の小谷野先生。×イチ経験は執筆活動の一助となったのかと,オスの負け犬としては舌打ちしたくなる程である。 前著を知らない,読んでいない人でも,「賢くない」「懲りない」人種である方にとっては身につまされつつも共感できところの多い本書は,結論において到達した一種の「悟り」によって感動的な作品になっているのだ。
 世のもてない男どもよ,小谷野敦を手本とし,未だに負け犬のアガワサワコに振られ続けよ!

竹宮惠子「平安情瑠璃物語」中公文庫

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-12-204528-2, \552

平安情瑠璃物語
平安情瑠璃物語

posted with 簡単リンクくん at 2005. 6.25
竹宮 恵子
中央公論新社 (2005.6)
通常2~3日以内に発送します。

 最近は教育者として熱心に学生さんを指導しているためか,読み応えのある長さの作品をめったに描かなくなってしまったK子たんであるが,幸い,旧作が次々と文庫化されている。本書もその一つで,ブライトシリーズだけでは飽き足らないワシのようなファンにとってはありがたい。
 ワシは所謂24年組の熱心な読者ではない。少女マンガの入り口は70年代後半~80年代前半の「りぼん」だったので,最初の洗礼は乙女チック路線であり,有閑倶楽部開始前の一条ゆかりですら,ワシにとってはちょっと古めかしく感じられたのである。そんな人間であるから,いくら世評が高くても,絵柄が今風(当時の)ではないマンガを読む筈もなく,大島弓子は「サバタイム」で,K子たんは「紅にほふ」で,共に1990年代に入ってようやく初邂逅を遂げたのであった。
 そんな遅まきながらのK子たんファンなので,「天馬の血族」以降の絵が一番好みである。ちょっと古めかしいが,それが土俗的な凄みを感じさせ,現実から遊離しない雰囲気を醸し出すのに成功しており,「吾妻鏡」や本書のような歴史物を描くには最適である。
 それにしても,この物語の主題である主従関係の,なんとまぁ退廃的なことか。解説の村上知彦さんは「絵から発するオーラ」を感じたそうだが,ストーリーからもただならぬものを感じる。主人である廣信を抱く左中太は,性欲・愛欲に加えて,幼い頃に別れた母親の面影も主人に重ねている。人間の欲望を三つ巴にしているのだから,ものすごく重苦しい物語なのに,目が離せず一気読みしてしまった。
 お気楽なボーイズラブに飽き足らない向きにはお勧めである。

夢路行「夢路行全集19 柔らかな冬」一迅社

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-7580-5145-3, \552

夢路行全集 19
一迅社 (2005.5)
通常24時間以内に発送します。

 以前にも書いたように,ワシは律儀に全集を買い続けている。完結するまでコメントはしないようにしていたのだが,本書に収録されている一本の短編が妙に気になったので,それについてのみ,うだうだと書いてみたい。
 それは3本目の短編「海の花」である。
 こんなストーリーである。
 主人公は,地方都市に住む女性で,あまり売れていないモデルとして生計を立てている。現在進行形で付き合っている男性がいて,物語は彼からプロポーズされるところから始まっている。が,同時に主人公の悩みも始まってしまうのである。「仕事を取るか,結婚を取るか」。
 こういう説明をすると,ごくありふれたストーリーとも言えるのだが,問題はこの主人公の「悩み方」にある。
 実は彼女には双子の妹がいるのである。その妹は,主人公よりモデルとしては素質があり,将来を嘱望される存在であったのだが,普通のサラリーマンと結婚してさっさと引退してしまい,今は二人の子持ちのお母さんとして幸せに過ごしている。二人は今も昔も仲が良く,夜中に携帯で語り合ったりしている。が,主人公にとっては,この妹の存在が引っかかっているのだ。
 モデルとしては二流いや三流どころの存在である自分。でも仕事は楽しく,引退はしたくない。彼と一緒にいたい気持ちは強く,結婚はしたい。
 片や,自分より素質がありながらも,結婚してすっぱり引退してしまった妹。モデル業への未練など全く持っておらず,家庭の切り盛りに幸せを感じている。
 さて,自分はどうすべきか・・・身近に気になる比較対象物がある主人公の悩みが伝わってくるモノローグをいくつか引用してみる。
 「でもあたしは自分がどの程度か知っている」
 「自分の実力も知らずに夢見ていられるころはすぎちゃった」
 「どっちかな・・・どっちだろう 香織(妹)は幸せみたいだけど」
 「(仕事だって)いっそ全然ダメならきっぱりやめられるのにな・・・」
 「ハンパな才能なんてないほうがいい」
 淡々とした日常の風景描写の中に,ポツポツとこのような悩み節が刻み込まれてくると,かえって「ハンパな才能」で日々悶々としているワシに突き刺さってくるのである。いや,もちろん自分なりに生きていくための結論は出てはいるのだが,改めて,フィクションとはいえ日頃意識の片隅にあるヒリヒリ部を刺激されると,もうどうにも気になってしまうのである。
 夢路行,恐るべし。

床井浩平「GLUTによるOpenGL入門」IOmook

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-7775-1134-0, \1900

GLUTによるOpenGL入門
床井 浩平著
工学社 (2005.5)
通常24時間以内に発送します。

 3DCGド素人のワシが,本年度からOpenGLを使った実験を始めるにあたって,資料を渉猟した結果,どうやらこのWebページが高評価を得ていることが分かった。読んでみると,なーるほど,Global変数を必要最小限度にとどめ,codingスタイルもキレイ,説明も簡潔でわかりやすく,最後の演習課題は歯ごたえがあってナイスである。
 で,実験が始まってからも時折眺めていたのだが,今回それがオマケも加えて一冊にまとまったのである。これを買わずにおらりようか。ああ,ワシみたいなオヤジには,やっぱり本が一番読みいいわい,と実感することとなったのである。いい機会である,ひそかに床井先生のページで勉強してた輩は,是非ともご恩返しのつもりで本書を買いなさい。
 ふーん,GLUTにゲームモード切替関数なんてのがあったのか(付録C)。今回はじめて知りました。やっぱどこの世界も,奥が深いんだなぁ,勉強することは多いや。早速,次年度の実験で使わせて頂くことにしようっと。