[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-8211-0842-9, \1500
「オンリーユーフォーエバー症候群」から脱却し,「恋愛自由市場」に目覚めた人向けのケーススタディ(第一部 江川達也・大槻ケンジ・森永卓郎・倉田真由美との対談),理論とQ&A(第二部)を語り下ろしたオタキングの新刊。晦渋な記述もなく,200ページを越える分量がありながらあっさり読めた。
・・・んが,しかし,どーもなあ,ホントに著者はマジメに本気で「恋愛自由市場」を信じているのかどうか,かなり疑問に感じてしまうのである。
例えば,男性に対するQ&Aの中で,ギャルゲー好きの童貞オタク男性が,女性に縁がないことを嘆いているものがあるが,それに対する著者の答えは,「同世代の女子大生たちの間では,たしかに価値が低い」が「平均年齢45歳の熟女軍団のなかに行けば,23歳というだけで,あなたの市場価値は急上昇」するというものである。・・・まあ事実と言えば事実かも知れないが,同世代の女性に相手にされない悩みに対するマジメな回答とは言い難い。それならいっそ「救いようがないから諦めなさい」といってくれた方がまだすっきりする。私なら「数は少ないが,貴方のようなキモイオタクでも相手にしてくれる,美人ではないかもしれないが同じくオタクな女性をしかるべき場所で見つけ,恋愛のスキルを高めなさい」ぐらいのアドバイスはする。
第一部の対談は,著名人の恋愛観が読めるので価値はある。が,それ以降の記述には,人生を左右しかねない「恋愛自由市場」という大命題を扱っていながら軽薄さが感じられ,「あんた一体どこまで本気で語っているの?」という疑念が晴れなかった。大体著者自身,形式上は離婚していながら,実質的には普通の家庭をきちんと営んでおり,ラブ度もセックス度もそれほど高くなさそうである。そーゆー「普通の人」が「恋愛自由市場」を語るってのは,どーも,自身の経験が薄い分,軽くなっちゃうのではないか。それを埋め合わせるため,第一部でどちらの度数の高そうな著名人を引っ張り出しているのだろう。しかしこれも,実際は江川達也を除いてそれ程でもないようで,成功しているとは言い難い。
・・・とまあ,徹頭徹尾批判的なことを書いちゃっているが,それは多分,わし自身が恋愛なるものに興味がない,ということが原因だろう。わしはそれ程ワーカホリックではないが,それでも女性から「仕事と私とどっちが大事?」と迫られれば,迷わず「仕事」と答える(つーか,そう答えてしまったのだ,実際(笑))。まあねぇ,著者のように「恋愛」でメシが食えるなら兎も角,わしみたいな一市民は「仕事」しなければ日干しになってしまい,恋愛どころではないのである。勿論,その代償として,ある日アパートの一室で腐乱死体となって発見される末路を辿るぐらいのことは覚悟している。それがイヤで,ツマやコドモに看取られて安らかに死にたいと念願し,そのために「恋愛」に走ろうという向きには・・・まあ,本書はまるっきり向いていないな。むしろ,そーゆー人が努力して結婚した結果,うまくいかずに別れてしまった,その原因は何だろう・・・と考える時の手引きとして読むべきものである。
中島らもは恋愛を,避けようのない病に例えていたが,わしの見る限り,恋愛をするにも才能が必要で,それがある者だけが病にかかることができる。そして罹患した者が純愛至上主義に毒されたあげくの果てに「恋愛自由市場」・・・ですか。わしみたいな恋愛不自由者にとっては,「楽しいこともあるんだろうけど,しんどそうな世界ですなあ」と嘆息するしかない。さて,仕事でもしますか。
小熊英二・上野陽子「<癒し>のナショナリズム」慶應義塾大学出版会
[ BK1 | Amazon ] ISBN4-7664-0999-X, \1800
日記にも書いた通り,本書は小林よしりんの「戦争論3」と並んで平積みにされて販売されていたものである。まんまと三省堂本店店員さんの術中にはまって購入してしまった訳だが,いやあ買って良かった読んで良かった,面白くって一気読み。論旨がすっきりしているし,評論にありがちの難渋な言葉もない。何より,副題である「草の根保守運動の実証研究」という言葉が示す通り,第3章の「史の会」のレポートは実際に会に参加し,そこに集う人々に直接取材した結果を用いて傾向を分析した部分が一番興味深かった。
第4章では「不安なウヨクたち」として詳細にこの分析を行っているが,いやあ,自分が「不安なウヨク」であることをまざまざと教えてくれましたなあ。だからといって「サヨク」になるつもりもないんだけど。
「不安なウヨク」であるわしとしては,当然丸山眞男の影響大な小熊に対して反論したいことは当然あるのだが,それはいずれ書く(かな?)「戦争論3」のレビューにて述べることにしたい。が,本書はわしや上野を含めた現代日本人にシンパシーを感じさせずにはおかない「新しい教科書を作る会」の運動をかなり正確にスケッチとして描き出した優れた研究書である。「いやぁ一本取られたわい」という気持ちを込めて,断言しておきたい。
大塚英志「キャラクター小説の作り方」講談社現代新書
[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-06-149646-8, \760
小難しいフィクションは苦手であるが故に,この著者原作のマンガは読んだことがない。評論も敬遠していたので,本書が大塚英志初体験ということになる。
そんなわしが何故本書を購入して読もうという気になったのか。これは題名がHow toもののように思えたからである。大塚英志の作品の作り方が分かりやすく述べられているものと誤解してしまったからである。
確かに著者はあとがきに「ハウツー本としてきっちりと書かれています。その点のみを期待して読んでいただいでも一向に構いません」と述べているが,それはちょっと難しげの「コミック原作者兼ノベルズ作家の大塚英志」個人にとってのものであり,果たして万人受けするHow to本かと言えば,明らかに違う。かなり分析的な評論家としての記述が多く,門外漢が「スニーカー文庫のような小説」全般の傾向を知る上ではこの上なく役に立つのだが,実作者が自分の内なるコスモを燃やして本書片手に突っ走っていけるかと言えば疑問だ。
それ故に,ジュブナイルなんぞ鼻でせせら笑ってしまうオヤジ・オバハンにはこの上なく面白い「評論」であった。現代新書として発行する決断をした編集者は,「ハウツー本としてきっちりと書かれ」ていることは承知しつつも,著者が本気で書いたらきっとオヤジ・オバハンに受ける評論要素が強くなることを承知の上で依頼を出したに違いない。これがオトナの世界ってもんさ。
では本気で「スニーカー文庫のような小説」を書きたい若人はどうすればいいのか? 簡単なことである。手近にある,自分が面白いと思った小説やマンガやゲームのシナリオをパロディ化し,自分のキャラクターとして咀嚼できるようになったら,そこで新たな物語を紡いでいけばよろしい。但し方法は自分で見つけること。ここが肝要。そこでのたうち回って苦しめばしめたものである。全ての経験は肥やしになるのだ。
そうして出来上がった物語を,冷静な目で見ることができるようなった頃,本書をもう一度読むと良い。どのようなパターンに類別されるのか,キャラクターの目的は大塚が言うところの「欠落を埋める」ことになっていないか,ストーリー作りの過程の思考方法は大塚のものと類似してはいないか。もしかすると目から鱗が落ちるかもしれないよ。
筒井康隆「小説のゆくえ」中央公論新社
[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-12-003382-1, \1800
岩波講座に連載していた文学論から,断筆宣言解除に至るまでの書簡や断章,同業者の単行本の推薦文, 三島賞・谷崎賞選評,作家の評論や解説,自作のあとがき,日常の食事や筒井家に関するエッセイ,演劇論めいたエッセイを全て納めた,332ページの分厚い単行本。装丁があまりにチープで素人臭くて目立たないものであったため,書店で平積みになっていなければ絶対に見逃していた。題字は著者本人によるものだが,装丁したのは中央公論新社デザイン室となっている。もちっと目立たせても良かったんじゃないか。
それぞれのパートはそれなりに読み応えがあって,この分厚さで1800円はお買い得。特に断筆に関する経緯が全部まとまっているところは資料性が高くてありがたい。それだけに装丁の地味さはちと残念。文庫化される時には改善されるだろうことを期待したい。
平田大治「Movable Typeで今すぐできるウェブログ入門」インプレス
[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-8443-1812-8, \1800
このWeblogを作るにあたり,参照させて貰った本。Movable Typeの日本語化にも携わった著者だけあって,内容の的確さはさすが。記述も分かりやすく,すぐにインストールできる。最も,日本語化パッケージは本書の内容から既に変更がなされており,Patchを当てる必要はなくなっている。
まだ全部の機能を触った訳ではないのだが,カスタマイズについての記述もあって,これからも暫くお世話になりそうである。価格1800円というのは結構お買い得ではないかと思います。はい。