私的・研究集会開催マニュアル

 12月のクリスマス前に研究集会の会場責任者と相成ったので,個人的なメモ書きとしてこれを記す。Web上にはいくつかこの手のマニュアルの記載があるが,

  1. 責任者の個人的趣味嗜好
  2. 研究分野の文化的背景
  3. その他(参加者との人間関係,地理的問題等)

によってやり方が全然異なってくるので,ご自分が担当される時にはこれらの記事を丸パクリして実行するのではなく,あくまで参考程度にし,上記1~3の事情を踏まえて試行錯誤することをお勧めしたい。

何故ワシは会場責任者となったか?

 まず,この研究集会にはここ数年立て続けに参加しており,恩義を感じているからという事情が大きい。その上で,ワシが「専任」教員であり,そこそこ稼ぎがあって経済的余裕があるから引き受けることが「可能」な状態であったことも重要である(この理由は後述)。
 過去,数値解析シンポジウムの幹事団の一人として2回手伝ったことがあり,常微分方程式の数値解法関連の研究集会主催を2回引き受けているので,何が必要となるかということは大体理解しており,まぁ年齢的にもこの辺でやっておかないと,この先体力的にも無理になりそうな感があった。
 そんな時に,ワシが立地的に最高の場所にあるデカい大学に異動したことで,「やってよ」という研究会主査からの要望があり,「ハイ」と引き受けることに同意したという次第である。
 以上をまとめると

  1. ボランティアワークを厭わない程度に,その研究集会に恩義を感じていること。
  2. 経済的余裕があること(精神的余裕があることは当たり前の前提)
  3. 責任者としてなすべきタスクをある程度熟知していること(経験がなくても想像できる程度の参加経験は最低限欲しい)
  4. 会場立地が研究集会開催に適していること(無理するとロクなことがない)

となる。

タスク一覧

 今回はワシはあくまで「会場責任者」であって,研究集会主査ではないので,主査との相談の上で会場確保と懇親会の世話役だけやればいい立場である。従って,集会参加者募集とか予稿集発行のための原稿あつめとかプログラム作成・座長指名は主査のお仕事であり,ワシがやらねばならんのは

  1. 会場確保と運営に必要な作業諸々
  2. 懇親会の場所探しと会費回収
  3. 研究集会当日の会場運営

である。今回は懇親会参加者募りまで主査にやって頂いたが,これはなるべく自分でやった方が良い(後述)。
 以下,この3点について詳細を述べる。

会場確保と運営に必要な作業諸々

 12月の研究集会だし,大体5月ぐらいに相談して9月ぐらいまでには決まっていればいいやというのが毎年のスケジュールらしいが,楽しみにしている方もいらっしゃるようで,主査には日時の問い合わせが4月段階で来ていたらしく,日時を早々に確定すべく,ワシは着任したてで会場押さえに取り掛かることになる。
 今回着任したデカい大学は,デカいだけのことはあって,キャンパスが同一市内に二つある。一つはワシの研究室のある発祥の地,もう一つは新規に土地を確保して設置したメインキャンパスである。前者は古い建物が多く,会場としてふさわしい教室も多数あるが,交通の便がすこぶる悪い。特に今回のように土日開催となると,普段は1時間2~3本あるスクールバスが激減し,土曜日は1時間に1本,日曜日はゼロとなる。路線バスも1時間1本程度あるから,前任校のようにそれすらないド田舎よりはよほどマシだが,それよりは新しくてきれいなメインキャンパスの方が,主要幹線のJR駅から徒歩圏であり,会場としては俄然相応しい。
 とゆーことで考えるまでもなくメインキャンパスで会場確保に動いたのだが,せいぜい30名程度の参加者なので,小さめの教室で十分な所,土日はデカい教室とごく小さいゼミ教室しかない建物を使って欲しいという事務側からの要請があり,まぁ狭いよりは閑散としていても広い教室でいいかと200名教室を確保した。結果として,京都からも大阪からもほど近い主要幹線沿い+阪急路線からも近いということ,主査の人脈的に近畿圏に知己が多いということも手伝って,40名近い参加者に恵まれ,学生募集だけでなく,研究集会開催にも立地の重要性を認識させられた。また,デカいかと思っていた教室も,詰め詰めよりはだいぶマシで,ゆったりと過ごすことができ,広めの会場を用意しておいて良かったと思った次第である。
 ・・・とまぁ会場はいいとして,事務的には3か月前からの正式受理ということになるとのことで,会場の仮押さえはしてもらうとして,それ以外の手続き,特に荷物運びのための駐車スペース使用許可は早めにやっておくことととなった。従って,会場の正式予約前に,駐車許可証だけは発行されてしまうというチグハグな事態が展開されることとなった。これも,研究室のあるキャンパスとは別のところで開催することになったことによる余計な手数の一つである。

懇親会の場所探しと会費回収

 さて,会場はJR駅からほど近い(つっても徒歩20分は要する)所にあるとはいえ,最大20名程度の客が入れる居酒屋があるような繁華街は直近の駅前にはない。従って,JRか阪急での移動ができる,ほど近い盛り場を探すことになるが,会場責任者の利便性も考慮させて頂き,チェーン居酒屋の雄である「〇〇の舞」(一つ隣のJR駅直近)でよろしかろうと神さんに報告したところ,「止めなさい私が探す」との御託が下り,ぐるなびを探しまくってワシの利便性が良く,料理も良さげで飲み放題付き(必須)の小さい店を教唆された。
 なんせワシは下戸であり,外食もしない手弁当派であって,店の良し悪しは全く分からない。神の御宣託により,予約は直接店に出向いて行い,何ならそこで一食食ってから決めてはどいう有難い指導もあったのだが,飲まない奴が一人で出かけて何を食えというのか。ましてや飲食代は自腹である。ここは一つ,失敗したら神の御宣託のせいであるとの言い訳を用意してファイト一発いきなり本番で使ってやれと開き直って最大25名の可能性もあるかもという,いい加減な予約をしにその店に出向いたのである。一見見たところ雰囲気は悪くないし,常連さんが一人飲みしているところも目撃したので,まぁ大丈夫だろういう感触は得ることはできた。ちょっと安心。
 さて問題は参加人数の確定である。予約日三日前には確定人数を教えて欲しいという店からの要望があり,じゃぁ火曜日に知らせるかと主査から伝えられた人数はなんと14名。ありゃま少ないなぁ,仕方ない,実は14名しかいなかったんですすいません~と店に懇親会3日前に電話連絡したところ,実は1名多かったという連絡が後から入り,2日前に平謝りで15名お願いしますと詫びを入れて安心して名簿を見たところ16名分ではないか。これはマズいとやっぱり16名ですぅと再度連絡して「ホントに16名ですね最終ですね」と念押されて確約したところ,16名のうち1名がダブって入力されており,ホントは15名だったとの由。もう最終確定と言っちゃったし,うわぁこれはワシが被るしかないと覚悟したのだが,開催当日に同僚の若手の人に参加を無理強いお願いして16名分確保できたのは不幸中の幸いであった。
 この一件により,懇親会の責任者は自分でフォーム作っていつでも自分で参加者の確認ができるようにしておく必要がある,という教訓を得たのである。
 ということで領収書の一部をここに張り付けておく次第である。ところで「災谷」って誰や。確かに「さいわいに谷」とは言うたけどなぁ。うるさくて聞き取れん状況じゃなかったと思うねんけど,よりによって「わざわいに谷」って聞き間違いするんか。こういう間違いしてくれるとはこれこそ災難じゃ。

 あと,領収書の準備もしておいた方がいい。小規模研究集会では必要のないこともあろうけど,組織によっては経費扱いにできたりするので,こんな感じの簡単なフォームで準備しておくとbetterである。印鑑は不要というのが昨今の流れだが,シャチハタでもいいので,氏名の横に押しておくと説得力が違う。上下両方に押印しておき,どちらか片方を切り離して相手側に渡し,もう片方はこちらで保存しておくこと。言った言わない,記録がないある,みたいなつまらんトラブル防止のためである。

研究集会当日の会場運営

 本年度は卒研生も院生もいないので,一人で無理のない範囲で飲食コーナーのセッティングと,プレゼン設備の準備を行った。前者については,お菓子の持ち寄りが毎回付きものなので,湯沸かしポット二つと,3種のお茶(玄米茶,ほうじ茶,紅茶)のティーバッグ,インスタントコーヒー+ミルク+砂糖+マドラー,ペットボトル2本はセッティングした,結果としてこんな感じになった。

 湯沸かしポットのうち一つは研究室で使っているもの,もう一つはワシの自宅の持ち出しである。こういう時のために,卒研室・院生室にポットを常備しておくと流用できてよい。あとこれは好みの問題であるが,最近多いドリップ式のコーヒーは避けたい。ゴミが増えるし,何よりドリップ時間がもったいない。あれは暇な個人が楽しめばいいものであって,ここは「研究」集会であり,喫茶室ではないのである。インスタントが不満なら自分で買ってきて貰えば済む話。以前の集会で,エスプレッソマシンを持ち込んだ迷惑なオヤジがいたが,完全な自己満足で若手が迷惑するのでやめて頂きたい。コーヒーメーカーも業務用でない限りすぐになくなるかドリップ後に長時間の沸かし状態になるだけで,何にしろ邪魔くさいので避けるべし。今なら自販機のない会場の方が珍しいぐらいだし,無理して喫茶コーナーを作らなくてもいいかもしれんが,まぁ年寄り趣味として,温かいコーヒーは飲みたいなぁとは思うのでこうなった次第である。
 経費は?との疑問が湧いた向きに声を大にして言いたいのだが,この程度のサーブが自腹でできないようなら研究集会の会場責任者を引き受けるべきではない。菓子類はなるべく参加者に持って帰ってもらうようにした上で,余ったティーバッグやコーヒー類は自分のものとして後々まで使い続けるのである。下手に他人からの援助を受けると私服肥やすようで気分が悪い。ティーバッグやコーヒー類は自分への先行投資として,なるべく自腹切って揃えた方が良い。従って薄給の若手の方が責任者の時には,当然しかるべく上司が全額支払ってくれるはずである。ま,ワシが講師・准教授だった時には一銭も支払わずにのうのうと参加だけした高給取り上司がいましたがねぇ,と積年の恨みが噴出するのを抑えきれない昨今なのである。

 プレゼン用の準備だが,アナログ的な指し棒の準備がなかったので,同僚の若手の先生にご提供頂いた。ワシはレーザーポインタを提供したが,昨今は大体PowerPointのポインタか,iPadのペンを使うことが多いので,アナログ指し棒は前職場に置いて来てしまったのである。結果的に,何割かの方はアナログ指し棒を使っていたので,やっぱりあったほうがいいかなと思い直すこととなった。

 どういうことか,教壇の真ん中にあるデカい教卓には,電源プラグはあってもHDMIの差込口がなく,HDMI以下AV昨日は向かって左側の机に集約されている。演者としては,2枚のスクリーンの真ん中で喋るのがやりやすいので,研究室で使っている無線HDMIを持ち込んで事なきを得た。こういう微妙な使い勝手の悪さをフォローできると誠に気持ちが良い。
 そういや,教室の出入り口が引き戸になっていて,ドアストッパーがないつくりになっていた。プレゼン中はいいとしても,インターミッション時に開けっ放しにしたいときには不自由感があったな。椅子を置いて代わりにしたが,出入り口をふさいでしまうので,ドアストッパーを探しておかないといかんと反省した。
 あと,電源プラグも5本,事務方から借り受けて設置したが,壁側に電源が複数あり,充電が必要な方はそれを直接使うぐらいで,利用率は高くなかった。今は半日ぐらいバッテリーが持つマシンやタブレットが多いからかなぁと想像しているがどんなもんだろうか。ワシは欲しい。
 おっと,会場案内の看板設置を忘れていた。会場入り口までの道順に会場への案内矢印を,雨にぬれても大丈夫なようにファイリングして貼り付けておき,会場の入り口にも看板とプログラムを張り付けておくと良い。

会場責任者を引き受けることのメリットとデメリット

 最後に,こういう研究集会の会場責任者を引き受けることのメリットとデメリットを書いておく。つーか,デメリットは既に書いてきた諸々も手続きのメンドクサさだけであって,それ以上に,メリットの方が大きいような気がする。参加者のメンタリティも分かってくるし,会場責任者の大変さが理解できるようになると,今度は参加者になった時に,責任者の方への感謝の気持ちが湧いてくる。まぁ世話になった分の恩返しのつもりで,複数参加している研究集会なら,一度ぐらいは会場責任者ぐらいはやった方がいいし,やるべきである。

7/15(土) 駿府・曇時々晴

 今週中には、少なくとも東海地方は梅雨明けではないかという予想もあったが、日本列島を横断する長い梅雨前線が消え去るに至らず、夏の太平洋高気圧が北陸・東北地方まで押し上げるだけで終わってしまった。今日は秋田で大雨というニュースが流れている。流石に来週には梅雨が明けるのではという予報が出ているが、なんせ自然現象だからなぁ、当たれば良いがさてどうなりますやら。

 

 昨年度から、コロナ感染に鈍感な立ち向かうHPC研究会は対面研究集会を開催したが、どういうわけかJSIAMは慎重な方々が多いようで、昨年度末からようやく対面集会を開始したらしい。ということで、伸び伸びになっていた第49回数値解析シンポジウムが3年ぶり(?)に開催され、当方、13日の1コマ授業、2コマ実験、1コマ卒研終了後に終電間近のトーホグ新幹線に乗って盛岡に22時30分過ぎに到着した。

 なかなか綺麗なホールで、全席に電源が備えられており、Eduroamも使えて快適。ワシの公演は亡くなられたS田先生のお名前から始まる漫談で、まぁ何とかなったと思うことにする。終了後に参加者全員で記念写真撮ったので、そのうちJSIAMのサイトに記事が出る事でしょう。次年度どうなるかは未知数だが、お世話役の苦労が大変で引き受け手がないらしいが無理もない。次年度と言えば、本学・静岡駅前の御幸町キャンパスができているはずだが、駅から地下で直結の場所でできたらいいなと思うがいつになるやら。

 帰りはA大の先生方と盛岡冷麺。確かにゴムみたいな硬さだが食い応えはある。主催者の方からの情報では「辛味(キムチ)」は別に注文しておき、好みに応じて加えていくのがお勧めだそうで、確かにそうしたら適度な味に調整できて大変よろしかった。先立はあらまほしき事也。

 帰りの新幹線、三連休前の金曜日の午後ということで、東京までの指定席が全然空いておらず、みどりの窓口の長い列に並んで窓口の係の人にねじ込んで何とか確保できた。

 東京駅から乗り継いだひかりも指定席満席。自由席は阿鼻叫喚・・・かどうかは知らんが、立ち客が出たらしい。今日からap bank 2023がつま恋で始まることもあって、静岡・掛川・浜松あたりで宿泊する人も多かろう。三連休とはいえ、7/17は本学フツーに講義があるんだけど、朝イチで出発、終演後に帰宅せんとえらいことになるなこりゃ。

 ということで今日はまったり過ごしまする。次の論文締め切り2週間後、そのあとは25年間の業績調書かんといかんしぃ、書類ばっかり書かされる五十路半ばの身の上なり。

BNCmatmul Version 0.21 released!

We have released BNCmatmul Ver.0.21. That dose not provide comfortable compilation but faster DD, TD, QD and MPFR prec. real BLAS functions.

遅くなりましたが,とりあえずBNCmatmul Version 0.21リリースしました。コンパイルには苦労すると思いますが,動けばそこそこ早い多倍長精度BLAS(現状は実数のみ)にはなっているかと思います。

BNCmatmul Ver.0.21リリース延期

 すいません,3月中をめどにリリースしたかったのですが,ドキュメント整備が全然できておりませんで,4月GW前後ぐらいになりそうです。
 待ちかねている人がいるとは思えませんが,「3月中には何とかしたい」と公言した手前,ここで一応はお断りしておきます。

Delay of releasing BNCmatmul Ver.0.21

We had planned to release the BNCmatmul library (Optimized MPBLAS) at the end of March, but since the documentation is not ready at all, it will be around the end of April.
I don’t think there are many people who are waiting for it, but since I have publicly stated that I would like to open it by the end of March, I would like to say tentative release plan of it here.

幸谷智紀「Python数値計算プログラミング」講談社

紙版 [ Amazon ] ISBN 978-4-06-522735-0, \2400 + TAX
Kindle版 [ Amazon ] \2400 + TAX

Python数値計算プログラミング

 そーです,ワシが講談社刊行の自著に,「白泉社の少女漫画サイコー」と書いた大バカヤローでございます。だってホントのことだからしょうがないじゃん,少女フレンド系でハマれたマンガがなかったんだから(以下小一時間のオタク語り省略)。

 それはともかく,とうとう2021年3月に出た出た出ました長年の便秘に悩んでいた末の脱糞のごとく出ましたよ旦那。前書きにも書いたが,これも偏に編集人の忍耐のシロモノなのである。こちとら,額縁ょ~の第1次任期に完全にかぶってしまい,2年目からはコロナ禍の中での対応を迫られ,おまけに科研費も当たっちまったモンだから査読付き論文の方に注力せねばならず,どーしても精神的にも時間的にも伸ばせる〆切の方を後回しにせざるを得ず,大分お待たせをさせてしまったところ,諦めもせずに待ち続けて頂いた結果,何とか「工学基礎」という極めてニッチなジャンルではあっても「ベストセラー1位」という称号を得たのだから,多少はお返しができなのかなと勝手に悦に入っているのである。まぁ出版社的には第1刷分を売り切らない限りは利益回収ができないのだから,本来は第2刷が出てから成果を誇るべきところ,どーせ初刷売り切り実績が少ないワシとしてはそんなの待っていられないので(2021年5月6日現在,Amazonのみで売り切れ状態であるとはいえ),背後に家事に勤しむ神さんの白い視線を感じつつ,まずは本書に収められなかった雑感をここに書きつけておくことにしたのである。

2021年5月5日Amazon在庫切れの証拠画像

 前書きにも書いた通り,本書は元になる原稿があるにはあった。主として静岡大学で非常勤講師を務めていた時に書き足し書き足ししながら使用していたもので,最近は本学でも使うようになったが,いかんせん近年では古い記述が増えてきたことに気づいてはいたのである。そうなると,本学でも使うようになったMATLABをベースに書き直すかなとツラツラ考えていたものの,あんな高額なライセンス料を取りくさりよってと今一つ好感を持てず,取り掛かれないまま深層学習ブームやってきてPythonが流行りになってきたところ,元原稿を基に当方を突き止めた酔狂な編集者の方が「Pythonを取るかJuliaを取るか」という二択をワシに迫ったのである。後者は権威の方が大阪大学におられるので遠慮することにし,多少は心得のあって何とかなりそう&流行には乗りたいというスケベ心が相まって,本書が出来上がったという次第なのである。

 とはいえ,書き直しの必要性があることは承知していたから,章の最初に掲げた歴史的文献からの引用以外は頭から見直しをかけざるをえず,思いのほか面倒な作業であったことは前書きに書いた通りである。記憶を頼りに具体的な所を書きつけていくと,下記のようになる。

  • 「第3章 Pythonことはじめ」は,もともと特定の言語を想定しての記述ではなかったので,2/3以上は書下ろし。書いてから「あ,if文の記述がなかったな」と気が付いたあたりが迂闊である。ま,プログラミング言語の素養のある人向きの書籍であるし,実装の事例は随所にあるのでそちらを見ながら補って頂きたい。
  • 「第4章 丸め誤差の評価方法と多倍長精度浮動小数点計算」は,多倍長計算の章を丸ごと書き直した。下敷きにしたのはワシの紀要原稿であるが,書籍用としては記述をそのまま使うわけにもいかないず,更にリライトしてある。何せ,数多ある数値計算テキストとの差別化を図るためには丸め誤差と多倍長計算を外すわけにはいかず,とはいえワシの「多倍長精度数値計算」並みの記述を行うわけにもいかず,この長さに収めるのに苦労した。「著者の書き過ぎによる暴走」が起こらなかったのは,本章の記述を前提に紀要原稿を書いておいたおかげであろう。ワシ偉い。
  • 「第6章 基本線形計算」は,計算量・ノルムの解説と,NumPyとSciPyのBLAS機能の説明をマージさせつつ,計算時間とノルム相対誤差をコードを使いながら理解できるようにした。この辺,第4章の技法を使っての検証ができるような演習問題が追加できれば申し分なかったが,サンプルプログラムを弄りながらの手すさびみたいなものになるのでキリがないのでカット。まぁ締め切り間際の強行スケジュールで無理に入れてミスを増やしかねなかったからいいか(と勝手に納得)。
  • 「第8章 連立一次方程式の解法2 ―疎行列と反復法」は本来2章の分量を今の視点でまとめ直した。理論的には疎行列も密行列も違いはないが,計算量の観点からは全く違うものとして実装してあるので,まずは疎行列の解説から入り,今ではあまり見かけないSOR法系統の解説はベクトル反復が可能なJacobi反復法だけにとどめ,CG法とKrylov反復法,前処理のやり方がSciPy.sparseで簡単にできることをスクリプトとSuitSparse Matrix Collectionの実例で示すようにした。ざっくりした紹介になってしまっているのは,この辺りを詳細にやるほどの知見が著者にないせいでもあるが,この辺のまとめをちゃんとやってこなかった数値線形計算研究者らの啓蒙努力の怠慢も問題である。いくつか日本語のまとめっぽい書籍が出ていることは承知しているが「敷居が高ぇな」「門外漢には訳が分からんな」「理屈は分かったからコードにして公開してくれない?」というのが偽らざるワシの感想である。
  • 「第10章 非線形方程式の解法」も2章分まとめ,ニュートン法の説明を中心に据え,代数方程式の解法はコンパニオン行列の固有値問題に帰着でき,NumPy.roots関数で簡単に解けることを示すにとどめた。減次して解くという古典的な方法も好きではあるが,まぁ現代的とはとても言えないので割愛。
  • 「第12章 関数の微分と積分」と,この辺りから便利なパッケージを使うことをお勧めするように軌道変更している。微分についてはAutogradパッケージは外せないし,SciPy.integrateは次の常微分方程式との絡みが出てくるので,使い方を示すのは重要・・・と言いつつ,しっかりと等間隔分割によるニュートン・コーツ公式とガウス型公式の違いは解説しておく必要があるなと,この辺りの記述はそのまま元原稿から流用してある。二重指数積分法の説明に踏み込むと複素積分まで考えないとまずいので,今回は割愛。今の仕事が一段落したら,ロンバーグ積分と組み合わせて面白いことができないかなと夢想しているが,ここに踏み込んだら暴走が始まるので,この判断は良かった(でないと〆切が無限に伸びる)。
  • 「第14章 偏微分方程式の数値解法」は,元原稿にない放物型・双曲型・楕円型PDE全部の実例と解説を付加した。参照した本がいずれも古くて,疎行列ライブラリが存在していない時代のシロモノで,はてさてもう少し効率的なやり方はないものかと,自分なりに咀嚼してスキームを組み立ててスクリプトを作成。疎行列以上にPDEの世界は応用分野が広いので,分野ごとに様々な独自手法が存在し,とてもじゃないが一人ではまとめきれない。ということで,せめて前章の応用としての時間発展問題ぐらいフォローしたかったが時間切れであえなくチョン。詳しい人にはPDEだけでPython本を書いてもらえばいいんじゃないかなと思うが,大規模化のためにはコアの計算部分の並列化と高速化が欠かせず,PythonじゃなくてC/C++によるMPI/OpenMPによる並列化の話になるので,もう「入門書」とは呼べないレベルになること必定である。

・・・とまぁ,このぐらいにしておくが,数値計算に限らず,プログラミングが重要な役割を果たす分野の入門書は時代の流行に合わせて言語やソフトウェアを変えながら新刊本として登場するのが常である。本書も,FORTRAN→MATLAB→BASIC→Pacal→C/C++→Pythonという流れの一つとして出たもので,類書は今後も出続けるであろうから,読者の方々は自分と相性の良いものを選んでいただきたい。本書がその一つとしてどなたかの琴線に触れることができれば,著者としては望外の幸せというものである。