December 29, 2006

高千穂遙・一本木蛮「じてんしゃ日記」早川書房

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-15-208774-9, \1000

じてんしゃ日記
高千穂 遥著 / 一本木 蛮著
早川書房 (2006.11)
通常24時間以内に発送します。

 ここんとこ真面目に仕事に励んでいるためか,腹回りの芳醇さは目を見張るほどである。・・・いやゴマカシはよそう。そうだよ,太ったんだよ,典型的なメタボリック症候群,つまり内臓脂肪が溜まって成人病予備軍になっちまったんだよチクショー。ダイエットをしたいなと思いつつ,ストレスを散らすための間食が止められず,しかも酒もタバコもやらないので,食うことでしか発散できないのだ。このままでは恐らく,平均寿命はおろか,定年退職前に複数の生活習慣病に侵されて死んでしまうに違いない。恐らく日本の学術研究にとってはワシなんぞ早死にしたところで何の痛痒もないばかりか,かえって厄介払いができて清々するのであろうが,そんなことはワシにとってはどーでもいい。別段,100歳まで生きたいとは思わないが,仕事があるうちは目一杯やるだけやって,糸井重里が常々言っているように「ああ面白かった~」と言って定年退職の日を迎えたいと念願しているのである。従って,せめて運動ぐらいは続けたいと,ろくに通えていないスポーツクラブの会費を払い続けているのだが・・・やっぱりこれじゃダメだよなぁ。

 SF作家・高千穂遙も同様の悩みを抱えていたそうである。まあ座業している時間の長い職種であれば誰しもメタボリ体型になるのは避けられないことではあるが,「運動しなきゃ・・・でも仕事しないとおまんまの食い上げだ」とズルズル現状を引きずっていられるのもせいぜい40代後半まで,それを過ぎると老化現象とのダブルパンチで死がずいぃいっと近づいてくることになる。高千穂先生は体の不調を訴えて医者に行ったところ,中年諸氏なら誰しも思い当たる警句を大量に頂いて帰ってくることになったが,それを身に染みて痛感させられたのは,同年輩・同業種の知人の死や入院がぽつぽつ聞こえてくるようになったからだそうである。そりゃそうだ。三十路後半のワシだって,同級生の腹回りの見事さにわが身のそれを思い知らされたりしているんだからな。

 で,誰しもそうであるように,高千穂先生,様々なダイエット法や健康法に取り組んでみるものの,なかなか長続きしない。水泳やスポーツクラブは通うのが面倒になるし,せいぜい散歩に毛が生えた程度のウォーキングが性に合うということが判明したぐらいだそうな。いや,それでも立派。ワシなんぞ,電車+徒歩通勤すら面倒で続けられず,デブった腹を抱えながら自動車通勤が止められないのだから,既にこの時点で高千穂先生に負けている。
 ともかく,自宅玄関前からすぐに修練が始まり,しかも自分の体に負担のかからない運動で,外の景色を眺めながらできる運動であれば続けられる,ということを高千穂先生は発見したのだ。その結果,自転車漕ぎにたどり着き,修練の結果,知人から「えっ,なに,ガン?」と言われるぐらいの劇ヤセを達成し,現在も体脂肪率一ケタ台の体型を維持するまでになったのである。

 本書はその経緯と,ツーリングのための薀蓄が詰まった,一本木蛮との共著によるエッセイ漫画である。一本木蛮も高千穂パパに誘われて(だまくらかされて?),ツーリング仲間として巻き込てしまったので,漫画そのものは大部分,一本木主導で構成されたもののようだ。従って,エッセイ漫画の構成は自然なもので,ガチガチの原作をそのままなぞったものでは全くない。一本木蛮と言えば本人のコスプレの方が漫画作品より有名なぐらいであろうが,漫画家としての力量は高千穂が言うようにかなりのものであり,しかも女性的な色気とかわいらしさを兼ね備えた魅力的な絵も手伝って,情報のみっちり詰まった作品であるにも拘らず,スムーズに読むことができる作品に仕上がっている。

 あの吾妻ひでおをして,「じてんしゃに乗りたくなった」と言わしめるほど,読者を乗せられるパワーを秘めた本作品であるが,残念ながら,早川という健康やスポーツとは縁のなさそうな出版社から出されたこともあってか,あまり配本数は期待できそうになく,田舎の小さな本屋で見かけることは多分ない。従って,ワシみたいな田舎暮らしの人間が購入するとすれば,高千穂のWebページに張ってあるオンライン書店を頼ることになる。本書を読む限り,一本木蛮は「じてんしゃ日記」第二段に意欲を燃やしているらしいから,その念願を達成させるべく,あなたがSF者であろうとなかろうと,自分がメタボリ男(女も可)でなくても近くにかようなデブがいれば,本書を薦めて頂きたいものである。

Posted by tkouya at December 29, 2006 3:00 AM