December 29, 2011

内田麻理香・高世えり子(絵)「理系なお姉さんは苦手ですか?」技術評論社

[ Amazon ] ISBN 978-4-77414753-6, \1480

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 のっけから苦言で申し訳ないが,本書のタイトルはもう少し何とかならなかったのか。このタイトルのままではエロマンガの棚に置かれると間違ってフェチな男どもが妄想コミで買っていきそうである。いや,それをあえて狙ったというならいいのだが,表紙の高世えり子によるグラマラスな内田のカット(美・・・いや余計なことは言うまい)が載っている分さらに誤解されそうなので,一応言っておく。・・・ワシの頭が腐ってるだけかしらん。

 ワシ自身,男女偏見のない人間かどうかは定かでないのだが,多分,数学科としては珍しい部類だと思われるので,まずはワシの大学院(修士・博士)の指導教員が女性だった,ということは申告しておきたい。女性だから指導教員に選んだということではなく,流れ流れて数値解析を専門としている先生を探していたらたまたまぶち当たって受け入れてくれた,ということである。一応,著作があるのは知っていたが,それを読んで感動して弟子入り,という美談は一切無い。むしろ,その内容がワシにとっては優しすぎて専門的には(?)を付けていた(失礼な話だが事実だから仕方ない),ということもあり,大学院の6年間(間1年開くので実質7年)はワシの好きなようにやらせて貰った。おかげで色々あったが(特に博士号取得直前の,名目上の指導教員とのいざこざは思い出すだけでもイヤ),今のワシがあるのはこの先生のおかげであって,足を向けて寝られない。今でも齢90になろうという先生の所に迷惑も顧みずお邪魔して駄弁らせて頂いているのだから,縁というのは不思議なものである。
 その先生は自由闊達な方で,誰とでも気さくに打ち解けて話してくれる。人見知りの多い理系人間の中では特筆すべきコミュニケーション力を誇っているのだが,その先生ですら,随分と大学内では辛酸を嘗めたらしく,たまに愚痴っぽいことを漏らしていた。実際,都立女専(首都大学東京の前身)を出,日大に助手として着任してから長いこと助手に留めおかれてろくに論文も書かせて貰えなかったとのこと。ワシからすれば信じがたいが,連名でもない単著論文も投稿するに当たっては教授の許可が必要だったという時代があったらしい。そのせいもあってか博士号取得も遅く,教授に昇進したのも定年の何年か前ということになってしまった。・・・しかしワシは思うのだ。それでも同年配,あるいはその後輩に当たる女性研究者の中でもまだマシな部類ではなかったか,と。

 ・・・という女性受難の時代が長かった以上,今頃「理系にも女子を!」と唱えてもそう簡単には方向転換できるはずがない。偏見だってなくなっていないし(悲しいことだが「女性は理系には向かない」と公言して止まないバカどもがいるのは事実だ),何より教員に女性が圧倒的に少ない。文科省も慌てて女性理系研究者のインタビュー集などを作ったりしているが,ワシから見るにあれは全体としては逆効果なんではないかと思えてくる。女性にとって居心地の悪い世界でピカイチの業績を上げて勝ち残ってきたエリートばかり集めても,普通の女性にとっては眩しすぎて,自分の見本とは思って貰えないのではないか。もう少し普通の仕事をしている普通の人に「理系女子」を語って貰った方がいいのではないかと思っていたのである。

 で,本書が出たのである。まさにタイトル以外は理想的。ワシの出身大学のSF研の方も出ていて,ひょっとして本人とどっかですれ違っているのではないかと思われる方もいらっしゃる(コミティアとかでも・・・)。職業も様々で,高校教員,大学教員,イラストレーター,プロデューサー,デザイナー,パーソナルヘアカラー講師(そーゆー職業もあるんですな)・・・と,よくもまぁこれだけ集めたなぁと感心する。カフェ・サイファイティークのコネクション(「応用化学科の逆襲」は大好きな同人誌だ)もあってのこととは言え,やっぱり労作であることは間違いない。文科省も見習って頂きたい。

 個人的にはほっといても理系女子は増える傾向にあるし,あまり無理強いするのもどうかと思っているのだが,ICT系には随分女性が増えているから,分野ごと,まだら模様的に男女比率は等しくなってくるのだろうと楽観視している。それでも,「女のことだからやっぱり文系に」というアドバイスを親類縁者,高校教員からされることはしばらく無くならないだろうし,男が圧倒的に多い学部・学科に進んでしまうと,ワシの指導教員ほどではないにしろ,どうしてもマイノリティ的扱いになることもあるだろう。そんな時,本書のように人生の先の先に明るい未来があるのだと指し示す文献は絶対に必要だ。是非とも「理系」への興味のあるなしにかかわらず,全ての女性並びに頭の固い年寄りに読んで貰いたい一冊である。

Posted by tkouya at December 29, 2011 3:00 AM