加藤唯史(画)・光瀬龍(作)「ロン先生の虫眼鏡 1」秋田文庫

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-253-17881-2, \657
 いやあ懐かしい懐かしい。週刊少年チャンピオン黄金時代の良心的漫画作品がついに文庫化された。原作者は逝去されてしまったが,わたしゃこの人の名ををこの作品で知ったので,つい最近までSF作家という認識がなかったぐらいである。
 ロン先生という渾名(本名は如何に?)のビンボー学者が主人公の地味な作品であるが,脇役に元太というコメディリリーフと,洋子という色気のあるヒロインを配置して,生物にまつわる知識を織り込みつつ,オチのある質の高いユーモア短編になっている。コドモだったわしは楽して知識を得られる学習漫画が好きだったが,これは「学習」という意識を全く持つことなく,純粋なエンターテインメントとして楽しんだことを覚えている。
 惜しむらくは,時代を先取りしすぎていて,相応しい評価を得られずに連載が終了してしまったことにある。岡崎二郎がきちんとした科学知識を織り込んだ短編でそれなりにヒットしたことを思えば,漫画の人気が絶頂期を終えた1990年代後半あたりに登場していれば,楽にどっかの漫画賞を獲得していただろう。
 前述の通り,原作者は逝去されているから,今となっては作品を継続することは不可能である。んでも,こうやって文庫化されて,旧作といえども復活したのであるから,是非ともここでこの作品の先見性を評価してやろうではないか。日本にも誇るべき「ファーブル昆虫記」に匹敵する漫画があったのだ,と。