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武田徹「「隔離」という病」中公文庫

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-12-204492-8, \838
 いやぁ,濃い内容の本である。が・・・ちょっと高くないか,中央公論新社さんよ・・・高々280ページの文庫本にしてこの値段である。「武田徹」というネームバリューに対する対価なのか,それとも売れ行きがあまり期待できないからなのか。多品種少量生産しなければならない出版社としては,台所事情も苦しいのだろうが,それは読者も一緒である。ご一考願いたい。
 値段はともかく,本書は大変エキサイティングな内容となっている。つい先日,ようやっと法律的には解決したハンセン病患者の強制隔離問題を媒介として,全ての伝染病の罹患者に対する「隔離」の是非とその有様を検討する,という重厚な評論が展開される。しかしこれはアームチェア・ディテクティブ的な机上のものではなく,綿密な取材と資料探索に基づいて行われたジャーナリストの仕事なのだ。
 ハンセン病問題を丹念に追っていくことでどのような論理が展開されるのかは,本書を丹念に読んで(著者に言わせると取材に費やした年数はかけて欲しいそうだが,そりゃ無理だ(笑))確認して頂くとして,一つだけ強調しておくとすれば,著者が問うているのは伝染病患者を隔離することの善悪ではなく,社会が「排除のメカニズム」を発揮しない隔離はどのようなものなのか,ということである。感傷的,あるいはイデオロギー的な信念とは別の位相で冷徹に「理想的な隔離」を追求しているのである。
 香山リカの解説も含めて本書を読了して感じたのは,21世紀の現在においては,いわゆる「専門家」に対する疑いの目が「排除のメカニズム」に組み込まれており,それについての言及を武田も香山もしてないなあ,ということである。ハンセン病患者の強制隔離が積極的に行われた戦前ならばいざ知らず,薬害エイズ問題やオウム事件を経験してきた日本社会は,科学的言説を「権力」として振り回す専門家に対して距離を置いた見方が出来るようになっている。センセーの言うことはなんでも鵜呑みにしてしまうよりは良いこともあるが,いくら科学的に正しいことを主張しても簡単には受け入れてくれない,という状況は怖いところもある。個人的にはその点についても答えて欲しかったところである。
 何はともあれ,力作であることは変わりないので,新刊で購入するには価格的にちょっとためらわれる向きには,是非ともしばらく待った後にBook offを探索されては如何であろうか。

T.Kouya

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