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石浦章一「東大教授の通信簿」平凡社新書

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-582-85263-7, \720
 以前,高校の教員集会とやらに引っ張り出されたことがある。学生(高校生の場合は「生徒」と呼ぶのが普通らしい)による授業評価について,高校よりも先行して実施している大学としてコメントして欲しい,ということのように記憶している。
 現在の小中高校教育の現場は良く知らないが,全ての授業,あるいは全ての教員が行った授業のどれか一つを対象として,受講学生にアンケートを取っるようなことはしていないのが普通だろう。しかし,大学の場合,特に私立大学は,少子化の進展によって学生数を確保することが難しくなることもあって,授業評価に積極的に取り組んでいるところが多い。今では国公立大学でも,講義終了時にアンケートを取るのが普通である。
 その集会では事前に出席者へ質問項目を聞き取っていたようで,当日その場で「これについて答えて下さい」と質問をまとめた書類を渡された。その中に「アンケートを取って学生におもねる姿勢を取るのはいかがなものか」というものがあり,当時はまだ気弱な三十路ニューカマーだったワシは,「おもねるというのはどういう意味か分からない」と戸惑いつつ,「まあ確かにひどい言葉を投げつける学生も居ますが,それは適切に無視できるようになってきてますよ」と答えたのであった。
 返す返すも残念である。
 考えても見よ,学生はサービスを受け取りたくて安くない学費を支払い,それを糧として我々センセーどもは日々の生活を送っているのである。こちらの力量に差があるのは仕方がないが,それなりに良い「サービス」を講義を通じて返すのは当たり前のことではないか? それを「おもねる」とは何事であるか! てめぇらこそ力もないくせに自分のプライドだけ擁護したがっているアマちゃんなのであって,アンケートにあれこれ書かれるのが怖いなら,実のある講義をしてみろよっ!
 ・・・と,今ならこーゆー文意を真綿にくるみつつ,でも所々に棘は突き出ている,というような答え方も出来たであろう。残念である。
 うーむ,のっけから熱くなってしまったが,しかし,日本のセンセー方は概して「打たれ弱い」存在である。いーじゃねーかよ,メガネが変とか,ヒゲ剃ってこいとか,ブサイクとか馬鹿とか死ねとか書かれたってよ。こっちはいい年した大人だぜ? 勝手に言ってろよ,こちとらこれで金とって生活している立派な社会人,親の脛かじって自分の至らなさとまともに向き合えないボンボンと一緒にするんじゃねーよ,ぐらいのオヤジ的開き直りでどっしり構えていただきたいものである。
 そーゆー授業アンケートの自由記述欄に書かれた極端なご意見は,ワシがコメントしたとおり,「適切に無視」すればいいのであって,問題はその他の,統計的指標がはじき出される所にある。講義内容の難易度,板書の使い方,配布資料の量と内容,受講生への講義参加促進努力の有無・・・,と「良くて当たり前」と思われそうな項目は数値で答えることになっているから,全体の評価値が一目瞭然となる。ワシら教員にはその結果が全体の平均値に比較して高いか低いかも分かるようになって返ってくる。ワシの場合は,全体として中の下,というところで,ちょっと手を抜いた講義を続けると下がり,頑張ると上がる,という,まあ「いいところもあるが悪いところはそれを若干上回る」平均的な教師なのではないかと自己評価しているのである(甘い?)。いや,こーゆー評価はワシにとってはありがたいものである。変に自己肥大して「ワシの話が分からんのは受講生が悪い」となることもなく,頑張れば平均レベルにはなる,という自意識をアンケートなしで得られたかどうか,甚だ疑わしい。
 という訳で,本書は天下の東京大学で実施された授業評価の結果を分かりやすくまとめたものである。生命科学を専門とする著者が書いたものであるが,本書には専門に関する記述は殆どない。東大教員の仕事の内容や教育システムの解説,著者自身の論文成果の経年変化,等々,大学内部の仕組みに疎い人が読んでも誰にでも分かるようになっている。そして授業評価の結果も「まあ,そんなもんだわな」と納得させられるものであって,ワシが知る限り,まともに教育を行っている大学ならば,似たような統計結果が出ているのであった。その結果を知りたければ,本書を買って読んで下さいませよ。
 さて,大学のセンセー方の評価については大体出揃った昨今,著者もちょろっと述べているが,次の課題は「受講結果の精査」である。多少学生さん達からの評価は悪くとも,脱落者が増えない程度のものであれば,学生さんの「不満」よりは「得たもの」が多い方がいいに決まっている。大体,教師に対する評価なんて,社会人になって数年すればガラッと変わってしまうものである。それよりは成果,そう,「評価よりは成果」を重視するような授業評価が行われれば,打たれ弱いセンセー方もその真価が分かってくるのではないかしらん?

T.Kouya

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