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快楽亭ブラック「借金2000万円返済記」ブックマン社

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-89308-639-1, \1238

快楽亭 ブラック著
ブックマン社 (2006.4)
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 自堕落なGW(NHK的には大型連休)を過ごしてしまったので,ワシより10以上も年上なのに更に自堕落な人生の一時期を過ごしてしまった噺家の本を紹介したい。ここでも昨年の借金&立川流除名&心臓発作騒動を取り上げ,そのことに触れ憤っている吉川潮の本もぷちめれした,快楽亭ブラック師匠の半生記(反省記?)である。題名の通り,最高2000万円の借金を抱えて立川流を除名され,心臓発作で倒れて病院に担ぎ込まれて九死に一生を得,高座に復帰するまでのことを,自分の生い立ちや生き様を交えて包み隠さず語っている。さすが噺家としてよりは映画評論家&風俗レポーターとして活躍してきただけあって,文章は至極読みやすい。
 ワシがブラック師の落語を聞いたのは一度きり(日記によれば2002年3月らしい)だが,確かに危ないネタ(○室・シモネタ・エロ・○別)が満載ではあるものの,その使い方はきわめてストレートであったことを覚えている。社会風刺を気取ってやろうという意図はまるで感じられず,優れた芸人の感性で「これは誰もやっていないからベタにならないし,受けるから使おう」と選択した結果,かような内容になってしまったのだ,とワシには思えた。実際,far right peopleの乱入だけは恐れたが,ワシは素直に笑えたのである。逆に言えば,彼が取り上げる対象に対して普段我々が感じていることを素直に掬い上げている,ということなんだろう。従って,彼を「アブナイ噺家」たらしめているのは,ワシらの心に救う拭いがたい,そして拭うつもりもない感情であると言える。
 そんなストレートなブラック師であるから,本書で語られている内容はかなり赤裸々なのに,乾いているのである。うーん,ワシが思い描く多重債務者のイメージって,自分のだらしなさ・至らなさを棚に上げて,徹頭徹尾,自己弁護に努めるって感じなのだが,これは全く違う。
 例えば,原稿料収入が減って複数のサラ金から借金をしまくり,その返済に行き詰った時に彼が取った方法は,かの吉川先生を憤らせた,自分の弟子にカードを作らせて借金を代替わりさせる,というものだったのだが,それに関する本書の記述はこんな感じである。
 「しかしパニックになっている時は人間悪い判断しかしないものだ。」
 「この方法,かつて全日本プロレスが資金繰りに困った時,女子プロレスラーや小人レスラーにサラ金から借金させて支払いしたと,(略)以前聞いた話を思い出してやってみたのだが,二度も倒産し,遂には自殺者まで出した会社の真似をしたんだからうまくいくはずもない。」(P.28-29)
 冷静に分析している。騒動がおさまった今だからこういう記述ができるんだろうが,それを差し引いても,普通,自己弁護の一つや二つは挿入したくなるのが人情ってもんだろうが,それが一切ないのは潔い。もちろん,この潔さは,「借金を友人だと思い,開き直って借金ネタを自虐的なギャグにしたら,面白いように客席がわいた」(P.158-159),という芸人の感性も手伝っているのだろう。危ないネタを選択してきたブラック師の真骨頂である。
 世間的には「困った人」という存在は,ワシも含む普通人に対して踏み絵となる。困った人を身近に持ってしまった場合,どの地点までは付き合い,どの地点からは突き放すか。これは困った人との距離のとり方で随分違ってくるが,基本的にはワシらの「度量」というもので決まってくる。単なる聴衆としてブラック師と付き合う分にはCD代込みの毒演会入場料を支払うだけで縁が切れるが,借金に直接巻き込まれた奥さんや弟子とその親,吉川先生も含む立川流関係者にとっては,かなりの度量を要求される踏み絵であったろう。ブラック師は自身の甘えのあらわれとして,奥さんや吉川先生(本文中ではY先生)には非難がましいことをちらっと書いているが,見放されても仕方ないな,と納得しているところが見られる。反面,毒演会に来てくれる聴衆や友人らには感謝しているものの,これから自分が芸人としての人生を全うしなければ彼らも見放すだろう,ということは覚悟しているようだ。まだ1500万円以上残る借金はそのカタとして返済し続けます,という決意宣言。それが本書刊行最大の,本人にとっての目的であることは間違いない。
 とゆーことで,ブラック師は借金返済ために毎月毒演会を開催しCDを販売し続けねばならなくなった。おかげで彼を遠くから応援する聴衆は毎月3000円の踏み絵を踏まされることになったが,ワシ自身は殆ど駆けつけられない。で,せめてここで本書を紹介し,印税分ぐらいは踏み絵さんに援助をしたいと思っている次第なのである。
オマケ(声のぷちめれ) -> MP3 file(2:32)

T.Kouya

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