[ BK1 | Amazon ] ISBN 978-4-480-42310-8, \580
本書は,瀬戸内が私淑していたロシア文学者・湯浅芳子(1896~1990)に関する短いエッセイをまとめたものである。ワシは「ちくま」連載中からちょくちょく読んでいたが,このたび文庫化されたので早速買い求めて再読したという次第である。
湯浅という人は,まあインテリにはありがちではあるけど,レズビアンだったということを差し引いても,相当変わった人である。彼女の人生全体を貫いた姿勢こそ,確かに本書のタイトルになっている「孤高」という形容詞がぴったりであるが,その性格はかなり「狷介」,つまりキツイのである。ストレートに他人の論評をするところなぞは,まあ何と言うか,「図太い」瀬戸内のような人だからこそ耐えられたのであって,日和見的に生きている一般人にはとうてい付き合える相手ではない。
ただ,そういう人に限って,どういうわけか,そのようなキツイ自分を受け入れてくれる度量のある人間をかぎ分ける嗅覚が発達するらしく,湯浅は最晩年に至るまで,かいがいしく自分の面倒を見てくれる友人知人に事欠くことはなかったようだ。このあたりは,破滅型の人間にはない,本能を抑えきるインテリジェンスを感じさせる。周囲にとってははた迷惑ではあるが,一本筋の通った哲学を護持できたのはそれ故なのであろう。
文学史に疎いワシでも知っている作家らと親交のあった湯浅の人生と恋愛遍歴の一端を教えてくれる貴重な資料であると共に,「何故こんなメイワクな人がこの世に存在するのだろう?」という疑問を解消する一助になりそうなエッセイ集である。瀬戸内の法話が今も人気を博しているのも,湯浅のような人との交友の蓄積があるからなんだろうな,きっと。