瀬戸内寂聴・横尾忠則(画)「奇縁まんだら」日本経済新聞社

[ Amazon ] ISBN 978-4-532-16658-8, \1905+税
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 静岡に移って以来,新聞は取っていない。日々のニュースを知るだけなら新聞社のWebサイトを常時チェックしていれば事足りるし,最近ではVistaの標準ガジェットとしてニュースサイト向けのRSSフィーダが提供されているので,こちらからブラウザを立ち上げなくとも自動的にニュースは入手できるようになっているから,ますます紙媒体としての新聞はワシにとっては必要がないのである。
 それでもたまーに紙の新聞が読みたくなることがある。そんな時は決まって日経を購入する。駅売りのものを買うと他紙より20円高いのは玉に瑕だが,読み物が他紙より面白いのでこれを選択してしまうのである。たまーに読むと,普段はWebで読めないコラムがあったりして新鮮だ。
 そんな折り,おっと思わせる連載が登場してきたのである。それが瀬戸内寂聴の「奇縁まんだら」であった。瀬戸内の人間観察は程よく距離があり,それでいてちょっと下世話な好奇心も満たしてくれるものであることは「孤高の人」でよく分かっていたので,見かけると必ず読み通していたのである。連載はまだ続いているようだが,本書はそのうち2007年に執筆・掲載されたものが収められている。
 しかし,ワシは挿画を添えている横尾忠則の作風が派手なペンキ絵のようであまり好きではないので,その画力の確かさと技量の豊かさには敬意を表しつつ,「邪魔な絵だな」と思っていた。本書にはその「邪魔な絵」が殆ど全部収められているのだが,これはこれで独立した画集にしてもらった方が,ワシとしてはありがたかったな。地味な白黒の本文に比して,目がちかちかしてくるぐらいの強烈カラー作品なのである。
 本書では,瀬戸内が女学生だった頃に学校で見かけた島崎藤村から始まって,正宗白鳥,川端康成,三島由紀夫,谷崎潤一郎,佐藤春夫,舟橋聖一,丹羽文雄(亡くなったのは最近だが),稲垣足穂,宇野千代,今東光,松本清張,河盛好蔵*,里見弴,荒畑寒村*(おお,「坊っちゃんの時代」!),岡本太郎*,壇一雄,平林たい子,平野謙*,遠藤周作,水上勉まで,実際に縁のあった著名人について,自分が見聞きし,調べた範囲のことだけを短くまとめている。*を付けた文化人・政治家・学者・評論家を除くと他は全て小説家であるが,まあこれは作家・瀬戸内の本分を考えれば当然である。しかし,孤高を保って殆ど他と交わらない作家も多い中,瀬戸内のこのような交流範囲の広さはちょっと珍しいのではないか。人間そのものに文学のネタを追求してきたという作家としての姿勢もここに影響しているように思われるのだが,どうだろうか?
 個人的には,稲垣足穂のヒモ生活ぶりが興味深かった。なーるほど,自己模倣を徹底して排除したストイックな寡作ぶりは,奥様の献身的な働きが支えていたのか,と得心したものである。本連載が終了した暁は,ぜひタルホから譲り受けたという小机を含めて,展覧会でも開いて欲しいものである。それとも,もうとっくにやってたりするのかしらん?