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杜康潤(とこうじゅん)「坊主DAYS」ウィングスコミックス

[ Amazon ] ISBN 978-4-403-67086-2, \740

 著者の兄が臨済宗(禅宗)の僧侶になるための修業話が中心のエッセイ漫画だが,読了後,ワシは爽やかさを感じたのである。正直言って,絵はお世辞にもウマいとは言えないし,シリアスな顔もはっきり言って古臭い。イマドキもっと画力のある同人作家は山ほどいるというのに,どうも本書は新書館の編集者の慧眼によって拾われただけあって,画力以上の魅力があることは間違いないようなのだ。以下,その魅力がどこにあるのか,縷々考えていきたい。
 上品なマンガ,というものがある。手塚治虫は矢口高雄の作品を評して「上品だ」と言ったそうだが,画力はともかく(シツコイね,ワシも),杜康のマンガも矢口と同様の上品さがある。ベタなギャグは下手に受けを狙ってないだけに適度な親しみやすさを産み,嫌な気分を読者にもたらす悪人は出てこない。「ユルい」とも言えるが,矢口の作品がストーリーテリングでぐいぐい引っ張っていくのに対し,杜康の本作は禅宗といえど,現代日本に住まう人間が携わっているのだから,厚い伝統と現代社会とのせめぎ合いがとても興味深く,ワシらを飽きさせないのだ。
 杜康の家族は姉妹二人に兄一人という構成であるため,自ずと住職を継がねばならない運命にあったとのこと。子供の時に得度しているだけあって,大学卒業後はスパッと髪を剃り,直ちに僧堂に入って2年半の禅の修行を行い,住職となって実家の寺を継ぐことになる。この辺の潔さも本作の上品さに寄与しているのだろう。落語家の前座は大体2~3年だが,封建時代以来の師弟関係を維持するための修行は,例外なく「型」通りの,理屈より行動という,現代では理不尽とも思えることをあれこれやらされるもののようだ。本書で語られる禅宗の修行もそんな感じで,大変だとか嫌だとか言っているうちに,過ぎてみれば・・・ああ,そういうことなんだと,伝統に根ざした「合理性」があることを,後天的にしか理解できないものなのだ。
 覚悟を決めて,与えられる修行の数々をこなしていく杜康の兄や修行を共にする同僚たち,そして厳しく指導する先輩僧たち・・・みんな爽やかに描かれている。現代社会とは相容れない伝統との確執,肉体を酷使する,若くないととても耐えられそうにない臘八大接心なども,何だかんだ言っても歴代の僧たちは皆これをクリアしてきたわけで,それを可能にしてきたのも伝統の厚みとがあったればこそである。その大きな厚みをバックグラウンドにしているという,一種の安心感が,指導の行き過ぎや,修行の過度な辛さを抑えているのだろう。本書で披露される仏教や臨済宗に関する豆知識を知るにつけ,僧堂を現代に成立させている「おおらかなマユ」がジワッとワシにしみてくるような気がするのである。
 結局,真面目に伝統に根ざした修行をし,真面目に檀家や地域と生きていく覚悟をした住職である兄と,彼を支える杜康をはじめとする家族の物語が本書なのであるから,下品になりようがないのである。読了後にワシが感じた爽やかさは,結局のところ,まっとうな伝統的宗教と,まっとうな家族が持つ,ごく普通の,それでいて大切な雰囲気がもたらしてくれたものだったと,ワシは確信しているのである。

T.Kouya

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