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鳥嶋和彦「ボツ」~「少年ジャンプ」伝説の編集長の”嫌われる”仕事術,小学館集英社プロダクション

[ Amazon 単行本 Kindle ] ISBN 978-4-7968-7447-2, \1600+TAX

 ビジネス書ってのは忙しい(?)サラリーマン向けに売らなきゃいかんという目的があるせいか読みやすくできている。読みやすさの理由としては

  1. 活字がでかい&行間が広い
  2. 文章が短く,意味を取りやすくなっている
  3. 「成功する」ための「身近な」ノウハウが詰まっており実践しやすい

というところが挙げられる。1,2は当然としても,3については凡人が「これは自分には無理」と思わせる自慢話ばかりだととても読む気にならず投げ出してしまうという失敗を踏まえてのものだろう。もちろん,鳥山明を見出し,ジャンプ黄金期を継承してのメディアミックス路線に尽力してゲームを取り込むことに成功するという目利きの良さはあるとは言え,伝統的な日本会社(JTC)において上司を説得し部下を引き連れつつ次世代を担う漫画家を育てたという精神力と体力があってのDr.マシリトであることは間違いなく,この点は誰でもできるというものではない。ではないが,しかしこの説明力の強さは読者を引き込んでやまない。本書は聞き書きだからライター・天野龍に例の「ボツ」を連発してのダメ出しの果てに完成したものらしく,それ故に大変分かりやすく,しかも「なーるほど」という説明の連続なのだ。この点,ワシみたいなスレっからしの中高年読者にはお勧めである。だが,現在20代後半から40代ぐらい迄の働き盛り伸び盛りのモーレツサラリーマンにはどうかしら?・・・という疑問も同時に覚えてしまったのである。

 SNS社会になってぱっと見の印象操作,いわゆるインプレ稼ぎのゾンビみたいな輩が跋扈するようになってしまったが,それも大分淘汰が進んでいるように見える。ネット初心者ならいざ知らず,それなりに場数を踏まえてネット社会を生きてきた「インターネット老人会」の一員たるワシには,リコメンデーションの積み重ねによるバリアがそれなりにできつつあり,陰謀論や反ワクチン,極端なネトウヨやパヨクはスルーする以前にその手のメッセージが届かない。たまに届いたとしても,少しばかり過去の発言を辿ってみれば「あーこれは・・・」となってあえなくミュートするかブロックすることになる。
 あのね,オジサンはね,「実績ゼロ」の輩を相手にしている余裕はないの。見てほしかったら強めの発言一発じゃなくて,小さいところからの積み上げでも,大当たりでもいいけど,あなたが何をできるか,今までの事績に基づいてプレゼンしてからにしてくんない?・・・ぐらいのことは言いたくなる。たまーに,メディアで目立つ評論家的な人が政府の中に入ってしまうことがあるが,さてどの程度お役に立っているのやら?という向きも結構いる。途中高転びしてしまったとはいえ,猪瀬直樹なんてのはそれなりに汗かいて実績出してきた方だと思うが,あのぐらいの提言力と実践力がある人材が,インプレッションゾンビから出るのかどうか,はなはだ怪しいと言わざるを得ない。

 JTCは大分変質してきたとはいえ,それでも新入社員を一から育ててやろうという気風があるところは残っていて,それなりに努力すれば積み上げ的に実績は残せるようになっている。その点,マシリトも上に反抗的とはいえ,果敢に「言った以上にやってみせた」だけあって,今に続く集英社のコンテンツ構築力育成に尽力している。それも偏に,実績に見合ったプレゼンパワーのなす技であり,一塊のビジネス書の中でも現役のビジネスマンには役立つこと疑いない。

 ・・・ないんだけど,さて,今も昭和的な漫画家育成のノウハウが使えるかどうか,そのあたりは大分怪しいと思わざるを得ない。それは「鬼滅の刃」についての本人の弁で,確かに漫画原作についてはもっと力量アップがあっても良いという指摘は当たっているものの,それが今でも可能か,吾峠呼世晴という漫画家に適切かどうかという点は大いに疑問を持った。良くも悪くも今のコンテンツ産業はクリエイター主導であり,かつてのような無茶な制作サイドからのごり押しは通用しない。鬼滅の刃については,むしろ原作の至らなさがあってこそのアニメ作品として極上のものとなったとは言えまいか。このブームを先導したのは原作よりもアニメだといいたいがための主導権争いとも言えるが,それをさせるだけの「隙」が原作にあったからこその今のブームであり,原作本の売り上げではないのかと,既にロートルに足を突っ込んでいるワシは思うのである。

 誰が何と言おうと時代は進むし,年寄りは引退し若者が次を担う。年寄りの提言は聞くに越したことはないとはいえ,次の時代の方法論は若者が作り出すほかない。その意味で,本書はマシリト成功の原動力を大いに知らしめる内容であると同時に,やはり次のブームは次世代が作っていくのだなと痛感させられる「年寄りの限界」を語っているものと言えよう。

T.Kouya

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T.Kouya

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