犬上すくね「アパルトめいと 1巻」白泉社

[ Amazon ] ISBN 978-4-592-71059-2, \648

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 幸せなエロを描かせたら田中ユタカか犬上すくねの右に出る者はそうそうおるまい,とワシは断言しちゃうのである。で,年末から松の内ぐらいは愛情に満ち溢れた健全なるエロスに浸りたい,という方々に本書を推薦しておく次第である。著者の言葉を借りれば「こいつらセックスしかしていねぇ!」(おまけチラシより)カップルだけを描いたラブエロ漫画作品集なのである。ワシとしては少女漫画に慣れ親しんだ人なら犬上すくね,ちょろっと劇画テイストが入った方がいいなら田中ワタルをお勧めする。

 犬上の名前を初めて知ったのはコミティアのカタログ,ティアズマガジンだったと思う。ほどなく商業誌デビューを果たし,長く連載を持っていたようだが,ワシはあまり感心がなかった。複数あった長期連載を終え,短めの作品をあちこちのマイナー誌に描くようになってワシの視界に入るようになり,白泉社のエロ恋愛女性漫画ムック「楽園」に本作が載るようになってようやくじっくりお付き合いできるようになったのである。他にもほのぼの四コマ雑誌に載った作品なども読んだが,イマイチ読み続けるには弱いなぁと感じた。それは単純にエロの有り無しという以上に,読者の感情を引っ張り込む力がエロ込みの恋愛表現より弱いからではないかと考えている。

 表題作は,ビンボーなライター男を性欲のはけ口として使い倒そうとしているキャリアウーマンが主人公である。とはいえそこは犬上すくね,エロには愛情が付きまとい,両者を分離する困難さが物語の中心テーマとなっている。その辺りが純然たる少女漫画の系譜を継いでいるなぁと感じさせるのである。

 表題作以外にも二つの短編シリーズが収められているが,テーマ的には表題作と同じである。短いだけによりこの著者の持ち味が明確になるなぁと幸せな性欲に満たされる年末なのでありました。