藤臣柊子「日本一 食べまくり&遊びまくり編」幻冬舎

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-344-00792-1, \1400

日本一 食べまくり&遊びまくり篇
藤臣柊子著
幻冬舎 (2005.6)
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 初めて読んだグルメ本は「恨ミシュラン(上)」である。フジオミの新刊である本書を読んだ時,「何故,ワシは,恨ミシュランではなく,これを最初に読まなかったのだろう」と後悔したものである。それぐらい,恨ミシュランは強烈であったのだ。
 それまでにも食を扱う漫画は読んでいた。「クッキングパパ」はたまーに荒岩一家の近況を知りたくて買ったりするし,歯医者の待合室に置いてある「美味しんぼ」に手が伸びたりするし,子供の頃に読んだ「包丁人味平」は結構ドキドキしながらラーメン対決を読んでいたりしたものである。これらの作品に登場するキャラクター達は,料理に対して真剣に取り組んでいたものである。うまいものはうまいと言い,まずいものはまずいと言う,真面目な求道者を扱った作品群である。
 恨ミシュランには,その名の通り,高級品に対する恨み,怨念こそあれ,食を極めるなどという高尚さはまるでない。「へー,あんたがたこーんなまずいモンをこーんな高い金取ってるわけ?いーショーバイしてんねー」ってな感じで,少なくとも客としてそれなりにきちんと遇されたであろう取材先の店を,気に入らない時には容赦なくコテンパンにけなしまくるのである。この著作以後,西原理恵子は税金をめぐって国に喧嘩を売るぐらいの大家となり,神足裕司はマイルドに物事を語る評論家としてブラウン管(この表現も通じなくなるな)の中から見事な頭部のテカリをお茶の間にお届けするようになった。いわば出世作なのであるが,さてグルメ本としてはいかがなものであったか。
 何せ,池袋のスナックランドが高評価なのである。対して神田の老舗がケチョンケチョンの低評価。まあ確かにスナックランドは安いしそこそこ食えるし,老舗の時代がかった対応は癇に障るかもしれない。しかしそこにはどー見ても,恨みというバイアスが掛かっているように思えて仕方がないのである。作品としては最高であったが,アンチグルメ本と捉えるべき本であろう。
 本書は「恨み」の全くない,スタンダードなB級グルメ・観光ガイド兼用のエッセイ漫画である。これは別段,著者が訪問先に対して気遣っているわけではない。気に入らないところはそう書いてあるし,しょぼいものはしょぼいと言う。しかし,サイバラとは異なり,フジオミには世間に対するルサンチマンというものがまるでなく,目を皿のようにして「まず貶してやろう」という姿勢は全く見られない。折角出かけるのだから,精一杯楽しんでやろうという至極善人的な観光者として,フジオミは大方,ポジティブに面白がっているのである。
 まっすぐな観光を楽しみたい向きには本書をお勧めする。
 「けっ,構造改革だか郵政解散だかしらねーが,むしゃくしゃするっ」という向きには,是非とも「恨ミシュラン」を読んで,「人が良かれと過ごしている所にやってきてクソたれる」(by パッポン博報堂さん)快感を味わって頂きたい。