内田樹「私家版・ユダヤ文化論」文春新書

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-16-660519-4, \750

私家版・ユダヤ文化論
内田 樹著
文芸春秋 (2006.7)
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 うーん・・・,敬愛するウチダ先生の力作であるが,力作過ぎて,ワシにはよく理解できなかった,というのが正直な感想である。正確に言えば,本書を構成する4章,「第一章 ユダヤ人とは誰のことか?」「第二章 日本人とユダヤ人」「第三章 反ユダヤ主義の生理と病理」「終章 終わらない反ユダヤ主義」のうち,終章の「5 サルトルの冒険」と「6 殺意と自責」の部分が,一度さらっと読んだだけでは分からなかったのである。とりあえず「7 結語」を読んで,まあ分かったような気分にはなったかなぁ,というところである。サルトルのユダヤ人論の中で最大の瑕疵と著者の言う,反ユダヤ主義者がユダヤ人を成立せしめた,という主張を,レヴィナスの論を引きつつ修正する,という作業をしているらしいのだ。たぶん。この辺りが「私家版」と銘打った一番の所以であろうが,悲しいかな,そこのところをすんなり理解する頭をワシは持ち合わせていなかったのである。
 それでも,他の3章は既存のユダヤ人関連の事項が要領よくまとまっていて,ためになる。特に第二章はトンデモ本では一ジャンルを築いているユダヤ陰謀論の出所が歴史的経緯を踏まえて語られており,その方面に興味を持つ人は必読である。本書の帯にある養老孟司の言う「自己と世界,両者の理解を深める」確信である終章部がよく理解できなくても,本書を通じてユダヤ人というものの概要を知ることは十分に可能である・・・とワシは自分を慰めているのであるが,どうであろうか?