筒井康隆「巨船ベラス・レトラス」文藝春秋

[ BK1 | Amazon ] ISBN 978-4-16-325690-0, \1143

 なだいなだの「アルコール問答」を読んで以来,ワシはアルコール中毒という病気に興味を持つようになった。これは身近にそーゆー人がおらず,その被害にあったことがない上に,ワシが下戸であるため,罹りようもない病気であるが故に他人事として気楽に受け止めることが出来た,という無責任な事情があったためである。その後,某大学の某教授は完全にアル中で,ろくな講義も出来やしない(アル中でなくてもそんな大学教員はゴマンといるが(含ワシ)),という都市伝説らしき風聞を耳にしたり,アル中で入院経験のある中島らも吾妻ひでおの作品を読んだり,小田嶋隆さんがそれに近い状態にあったらしいことを告白ったのを読んだりして,ああ,結構はまっちゃった人って多いんだなぁ,いうことを感じるようになった。
 まあ,アル中になっちゃった原因というのは一概には言えないものだろうが,小田嶋・中島・吾妻の3人の書き手に関しては,彼らが書いたものを読む限りにおいては共通する性格的な因子があるように思えるのだ。
 それは「八つ当たりエネルギー」の欠如である。
 人間誰しも肉体的・精神的に攻撃されれば,大なり小なり防御態勢を取り,反撃を行ったりする本能を持っている・・・と思うのだが,どうもこの3人にはそれが薄いように感じる。多分,彼らは内省的なインテリであるため,自分が受けた攻撃に対して反射的に行動するより先に,頭であれこれ考えてしまうのであろう。そして,一定の合理的な結論が出るまで思考を続け,結果的に反撃をしないか,しても非常に弱いものになってしまうのではないだろうか。実際,ワシはこの3人の書いたものを読むと,時折,イライラしてしまうことがある。これはワシが全然内省的でない本能と脊髄反射だけから出来上がっているバカだからであろう。そーいや,一度,三島親父に「あんたは強いね」と言われたことがあるが,ありゃ褒め言葉じゃなくって,「あんたはバカだ」の同義語だったのだな。あ,また段々腹が立ってきた,今度どうしてくれよう・・・こういう反動的エネルギーに欠ける人が,なまじアルコール耐性を持っていると,いつの間にやら連続飲酒状態になるんだろうと想像している。
 だから,怒りのエネルギーに満ち溢れている,常に頭から湯気が上がっている人というのは,高血圧でぶち切れることはあっても,アルコールに逃避したりする必要が全くないのだろう。なだいなだしかり(医者がアル中ではどうしようもないが),藤原正彦しかり,小林よしりんしかり,佐藤愛子しかり,小谷野敦しかり(下戸のせいもあるだろうが),そして我が筒井康隆もまたしかり,である。そして彼らは,高血圧の持病がない限り,憎まれっ子,ならぬ,怒りっ子として,元気に長生きするに違いないのである。そーいや,佐藤も筒井も70越えているんだよな,確か。それでもまだハイペースで新刊を出し続けているんだから,全く持って感心する。
 その筒井の最新長編が本書である(やっと本題に入れた)。この小説が連載されている時から,これは「大いなる助走」の平成版だ,という下馬評をよく聞かされたものである。確かに,今の出版不況(出版点数が多すぎて,一冊当たりの平均販売部数が減っているだけの現象なんだが)と現代文学の迷走ぶりがテーマになっているから,同じく同人誌(といってもコミケのそれではなく,昔からの地方文芸誌)から文壇デビューした男を主人公にした前作と,似ているところはある。が,「助走」は後半,かなりミステリー仕立ての部分があるのに対し,本作は真面目に(著者なりに,だが)「現代日本文学の状況を鋭く衝」(単行本の帯のあおり文句)いているところが,文学論争や差別語論争をしてきた風格を漂わせるものになっている。
 もちろん,さすが筒井だけあって読者を引き込ませる力量は健在であり,「銀齢の果て」と同様,章分割が皆無の連続性は,巨船というより長いジェットコースターに乗せられているような感覚にワシらを陥らせてくれる。現代文学とやらに全く疎いワシでも,「ああ,そーゆーことが問題になっているのか」と教えてくれる親切さも備えているから,普通にエンターテインメントとして楽しむことも可能である。
 だが,「」もそうだし「銀齢の果て」もそうだし,本作もそうなのだが,やっぱり筒井も年を取っているんだなぁ,という感想は持ってしまった。これらの近作には,四十路代に大量に書き飛ばした(という言い方は,推敲に推敲を重ねる著者に対して失礼だけど)ドタバタ短編のような,突き放した鋭さが感じられないのだ。だから,結末を読んだ後に何かホノボノとしたものを覚えてしまう。それはもちろん良いことではあるんだが,これはやっぱり「老成」と呼ぶべきものなんだろうなぁ,と思ってしまうのである。
 ま,肉体的にはまだまだ役者としても活躍できるようだし,足腰が立たなくなったら,芸能界のあれこれを語ってくれると予告しているし,根性の悪さも相変わらずである。高校生の時に全集を読破して以来,その魅力に取り付かれたワシとしては,是非ともこの反動的エネルギーを持続させて頂きたいと,切に願っているのである。

4/1(日) 掛川・晴時々曇

 暖かくなったなー。桜も満開。これでもうちょっと雲が少なくて,風がなければゆっくり散歩したいところなのだが・・・。ま,これから午後に少しブラブラしようかと思ってはいる。
 なにせ,論文完成が本日の日付を跨いでずれ込んでしまったモンだから,先週後半からずーっとディスプレイとにらめっこ状態だったのである。ワシの仕事は,同じ理系の学者先生から見ても相当異様に見えるらしく,ワシの兄弟子の仕事をよく知っている前の職場のボス曰く,「数字だらけのディスプレイを睨みながら,数字だらけのプリントアウトをてんこ盛りにしている」そうな。ま,近頃ではデータ量が半端でなく,今回出力したデータをテキストファイルにして圧縮しても60MBを越えてしまったぐらいであるから,プリントアウトなぞ不可能であるし,ディスプレイでチェックするにしても,2000桁×1024行×2列の数表なんぞ人間業では把握できねーから,出力データを加工するためのプログラムも書く羽目になったりしたのである。
 でも久々に本格的な誤差の解析(つーても,先人の研究の後追いですがね)が出来て楽しかったなー。もっとも,文章の方はまだメタメタなので,これから4月下旬まで,一度頭から書き直した上で,5~6回は推敲する必要がある。今週は頭を冷却させて,来週以降に取りかかる予定。何とか投稿はできるでしょう,きっと。acceptされるかどーかは神ならぬ査読者次第ですがね。
 と,自分の研究でドタバタしている最中,先日クソミソに意見をつけまくった論文の再査読依頼が来た。ざっと見ると,ほぼ完璧にワシの意見を採り入れており(つーか,そんなレベルの突っ込みを入れさせるなよ),問題なくacceptされる感じに仕上がっている。最初っからもう少し推敲してくれれば,査読者の意見も割れることなく通ったろうに。
 でも,直し具合を見る限りは,やっぱりさすが天下の○大・○研究室の院生だけのことはあるよな,と感心する。偏差値ってやっぱり正しいなぁ,と思うと同時に,研究者を育てたいなら査読論文を書かせるしかないのだなぁ,と改めて思いました。はい。
 ま,明日以降,時間を取ってじっくり読んだ後,レポートを書きます。しばしお待ちを>編集委員&投稿者
 以前ここにも書いたが,ワシが今使っている電気釜は,大学に入学する時に,はるばる札幌から運ばれてきたものである。従って,えーと・・・もう20年近く使っていることになる。最近,さすがにガタが来たようで,飯を炊くと内釜の底にうっすらとお焦げができるようになってしまった。まあちょっと茶色くなる程度だし,飯が硬くなる程ではないのだが,もう寿命はそれほど長くなさそうな感じ。こうしてジワジワと電化製品と年を取っていくというのも,まあ,悪くはないかな。・・・はっ,仕事が一段落したせいか,「萌えるひとりもの」モードに入りかけてしまった。
 毎年4/1恒例のImOpress うぉっちスルー力ねぇ,ワシはまんまとスルーできずに引っかかっちゃったone of バカどもであるが,これって,渡辺淳一提唱の「鈍感力」より発想は早かったんだよねぇ? ほーんと,一流どころのソフト屋さんの発想センスって素敵。ワシみたいな川藤集合の要素人間とは考えるポイントが違うんだろう,きっと。
 あ,今気が付いたのだが,スルー力って,嘘つきパラドックスに似ているよな。この発想の最源流は老人力なんだろうけど,半分ジョークになっている,というところは同じである。
 今日も一日頑張ります。

3/29(木) 掛川・?

 わーん,Hermite多項式のバカーっ。こんなクソめんどくせぇ性質,どこにも出てねーじゃねーかよ。って,1024次のゼロ点計算しようなんて酔狂な奴,今までは居なかったんだろうなぁ。あ,でもH松先生ならご存じかしらん? ・・・さーて,どうやってまとめよーかな。
 ということで,明日はもう文章書きに入ります。

中野晴行「謎のマンガ家・酒井七馬伝」筑摩書房

[ BK1 | Amazon ] ISBN 978-4-480-88805-1, \1900

謎のマンガ家・酒井七馬伝
中野 晴行著
筑摩書房 (2007.2)
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 日本の戦後マンガは手塚治虫が開拓し,切り開いていった,という認識が定着して久しい。そしてそれは殆ど間違ってはいない。但し,それは大阪の出版社から出した単行本「新宝島」(1947年1月発行)がブレイクし,手塚が流行作家になって東京へ拠点を移してからの話であって,この実質的なデビュー作に至るまでの歴史は殆ど語られてこなかった。最近,ようやく夏目房之介らの研究グループによって,戦前の日本マンガは,子供向けの作品もかなり芳醇なものであったことが明らかにされつつある。BSマンガ夜話の手塚治虫スペシャル(第22弾 2002年4月1日~3日)において,夏目は「手塚治虫は,戦前の日本マンガをたくさん摂取していて,それを土台にして戦後の活躍があった」という趣旨の発言をしていたが,同時にその「土台」を我々が簡単に確認できない状況にある,ということも述べていた。
 本作は,「新宝島」の,もうひとりの生みの親である酒井七馬(さかいしちま, 1905-1969)の伝記であると同時に,緻密な資料探索と取材に基づいた,戦前から戦後にかけての日本マンガとそれを取り巻く状況を知らしめてくれる傑作ドキュメントである。これを読む限り,手塚治虫が一新していった戦後マンガとは別の,戦前マンガの流れを酒井七馬は死ぬまで抱えていた,ということがよく分かる。そして,殆ど都市伝説のように語られていた酒井の晩年の死に様が,どうも誇張されすぎている,ということも明らかにしている。確かに独身の老人が自宅で衰えていった,という状況は第三者には悲惨に見えるものだが,貧窮のうちに死んでいった,というのは言い過ぎであるらしい。
 本書を読むまでワシはそもそも酒井の名前を殆ど知らなかった。従って,当然,「新宝島」の原案・構成にクレジットされていた酒井の名前が途中で消え,最終的には手塚の名前のみが残った,という事実も本書で初めて知ったのである。大体,共著者がいることだって,殆ど知られていなかったのではないか。その理由は他ならぬ手塚が,オリジナルに基づいているとはいえ,後年,完璧にリライトしてしまった「新宝島」(手塚治虫全集に収録されている)の発行しか認めてこなかったからである。著者の言葉を借りれば,これは手塚による「抹殺」と言えるものである。そして酒井七馬の名前も忘れ去られていった訳である。
 しかし,本書に収められている酒井七馬の画業の素晴らしさは驚嘆に値する。戦前,アニメーターとしてスカウトされて腕を上げていき,戦後もカットや似顔絵の仕事をしつつも,赤本,紙芝居,絵物語,そしてまたアニメ・オバQの絵コンテ・・・と,一流と言えるほど突き詰めたものは少ないとはいえ,高水準の絵描きであったことは間違いない。これだけの腕があったからこそ,「新宝島」の共同執筆において,手塚の才能を一気に開花させることが出来たのであろう。そして同時に,プライドの高い手塚の神経をいらつかせる作品にもなってしまったのであろう。その結果,知名度の低さも手伝って,酒井の名前は手塚によって抹殺されることになったのである。
 そう考えると・・・才能のぶつかりあいという奴は,皮肉なモンだなぁ,と思えてならない。ぶつからなければ「新宝島」は存在しなかったし,ぶつかったが故に後にしこりを残す。酒井の「諦観」癖がなければ,間違いなく,この作品に関してゴタゴタが発生し,手塚の名を汚す最初の大事件になったであろう。
 ドキュメントというと,根ほり葉ほり情報をほじくり出さなければ優れたものにはならないから,どうしても著者の悪意がにじみやすいところがある。しかし本書にはそれが全く感じられなかった。それはもちろん著者の人徳によるものが大きいのであろうが,諦観の人・酒井七馬のサバサバした性格と,グロテスクなものを目指してもどこかユーモラスな雰囲気が漂う彼の画風に寄るところも小さくない筈だ。酒井の晩年はやはり一抹の寂しさは残るものの,何となく,こういう人生もいいかな,と思えてくるあたり,ひとりものとしての共感も手伝っているんだろうな,きっと。

3/25(日) 掛川・雨後曇

 昨日は諸々の所用を済ませて散髪し,雨がポツポツ降り出したところで帰宅。シーツとタオルケットを干したまま出かけてしまったので,乾くどころか雨をすって重くなってしまった。面倒なのでそのままにしておいたら,夜中から朝方にかけて土砂降りにあい,さらに酷い有様に。午後には晴れてきたものの,乾くにはまだ時間がかかりそうなので,まだほったらかし。明日には取り込めるか?
 先週半ばにドタバタした疲労が出たのか,今日は一日中偏頭痛で動けず。買い込んだ本を,すっかり煎餅になった布団に横になりながら読むのみ・・・だったのだが,午前中,いきなり地震が。すわ東海地震か?と思ったら,能登沖地震とのこと。ワシが住んでいた穴水町もかなり被害が出たようだ。震度6だもんなぁ。高齢化と過疎化の進展著しい地域だけに,どうも映像を見る限りはそーゆー方々が住んでいた古い木造家屋が多いようだ。休日の午前9時過ぎという発生時刻のせいか,死者が少なかったのは不幸中の幸いである。
 しかし,地震なんぞ少ない地域でこういうことがあるかと思えば,巨大地震が来る来ると騒がれている地域は平穏無事・・・そのうちしっぺがえしが来るのかしらん?
 頭痛に加えて,青春の残滓の後始末以来腰は痛いし,尻のアナから出血はするし(座りっぱなしだからなぁ,ここんとこ),いよいよディスプレイが霞んで見えてくるし,すっかり中年の仲間入りである。来月は人間ドック入りなので,少しは中性脂肪を削るべく,それまで卵と牛乳断ちを敢行せねば。
 明日から頑張ります。