高橋由佳利「晶子の反乱」Queen’s Comics(集英社)

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-08-865332-7, \505

晶子の反乱
晶子の反乱

posted with 簡単リンクくん at 2006. 3.19
高橋 由佳利
集英社 (2006.3)
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 本書のタイトルにある「晶子」とは,明治から昭和にかけて活躍した実在の歌人・与謝野晶子のことである。つまり本書は与謝野晶子の伝記マンガということになる。一昔前なら,学習マンガとか歴史マンガとか伝記マンガというと学者さんが監修者に付き,どんな仕事をしたか知らないが,大概漫画家の持ち味をものの見事にぶち壊してくれた愚作とまでは言わないが凡作が殆どで,エンターテインメントとしてはまあ面白いとは言いかねるジャンルであった。しかし,80年代後半辺りからマンガを良く知った原作者が付いたり,漫画化本人が資料を漁ってしっかり構成した作品が増え,面白さはかなり改善されつつある。それでも玄人筋にはイマイチ気になる部分が残っているらしく,竹宮惠子御大の大作である「吾妻鏡」に対しては,評論家・村上知彦がこのような不満を呈している(「平安情瑠璃物語」解説より)。
 「・・・彼女か近年試みている,中世の武士たちを描いた歴史まんがには,実をいうとさほど関心を引かれないでいた。史実を踏まえようとする手つきの誠実さがじゃまをして,作者の持ち味である,主人公を孤高に押し上げてゆくエキセントリックなまでの精神の純粋な虚構性が,十分に広がってゆかないように感じたからだ。」
 実は本書を読んではたと気が付いたのは,この村上が指摘した「史実を踏まえようとする手つきの誠実さがじゃまをして」という文章であった。いや,面白いのである。高橋独特のコメディセンスは情熱的過ぎる与謝野夫妻のバトルからオドロオドロシサを見事に換骨しているし,平塚雷鳥らとの論争も陰険にならずに済んでいる。
 しかし,どーも不満なのだ。
 高橋の持ち味である「天空に突き抜けたユーモア」が十分に突き抜けていないように思えるのである。どーしてかな・・・と読了後に少し考えた結果,問題はこの作品のページ数の少なさではないかと思い当たった。180ページで,エネルギッシュな与謝野晶子にみなぎる「生きる力」を天空に放り出すには,いささか短すぎた。振りかぶって放り出すに至るタメや間を挿入する余裕がないのである。個人的にはこの倍あれば,もっと主要なエピソードを膨らませることが出来たのではないか,と思えて仕方がない。
 とはいえ,失敗作と断定するには至らない。その辺はベテランの強みであって,読ませる力は十分にある。与謝野晶子の生涯をうまくまとめて見せてくれているから,国語の副読本にも十分に使えるだろう。ワシは少し物足りなさを感じつつも,晶子の持つナニワの生きる力には共感できた。そーだよな,「生きる力」なんて教育でどーこーできる代物じゃねーんだよな,結局,と教師にあるまじき暴言まで吐いてしまうのであった。

西炯子「ひとりで生きるモン!2」徳間書店

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-19-960307-7, \657

ひとりで生きるモン! 2
西 炯子
徳間書店 (2006.1)
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 前作発売から5年,満を持して登場した傑作4コマ漫画の第2巻の発行を祝し,ワシはファンレターを送りたいと思う。曰く,

本書のおかげで不能になりました。
どうしてくれますか。

 西先生はお喜び下さるであろうか(遠い目)。

江口寿史「江口寿史の正直日記」河出書房新社

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-309-01741-X, \1900

江口寿史の正直日記
江口 寿史著
河出書房新社 (2005.12)
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 原稿落としの天才漫画家・江口寿史が自身のWebサイトで連載していた日記をまとめた単行本。オマケに,編集長を務めていたComic Cueに掲載された日記と,山上たつひこの復活漫画をアシストした記録漫画である「金沢日記」も収録してあり,その結果,全570ページを越える分厚さとなっている。発行されたのは昨年の12月で,ワシが購入したのもその頃であるが,「毎晩寝る前にでもチビチビ読ん」(あとがき)だ結果,読了したのは,論文下書きに気分が乗らず悶々として過ごしたこの土日にかけてとなった。ま,最後は半分以上一気読みだったが。それもそのはず,面白いんだもん。確かに自身でこれを「クズの日記」と称しているだけあって,飲んだり食べたりしている記述が多いが,そればかりではない。映画評あり,ショッピング評あり,ラーメン評あり,なんつーかこー,人生楽しく生きているということが良く分かる爽やかな空気が全編に漂っている文章なのである。
 おっと,ここで誤解してはいけない。江口寿史は,原稿落としまくっても楽しく生活できる見本,では決してない。
 逆だ。
 江口には,生活レベルをさほど落とさずに妻子を養っていけるだけの画才がある,ということを本書は見事に活写しているのである。
 勿論,江口はそんな露骨なことはストレートには言わない(ギャグでは言うけど)。しかし,「パパリンコ物語」も「うなじ」も「イレギュラー」も,長い連載作品はみーんな中途半端に終わってしまっているのに対し,一ページ漫画「キャラ者」や単発のイラストの注文は,編集者をきりきり舞いさせつつもほぼ完璧にこなしているのである。だからこそ,イラストレータとしての信用は落とさずにやっておれるのであるし,その実績と評価があってこそ,何度落とされても「やっぱり,長い作品にチャレンジして欲しい」という期待が続いているのであろう。
 本人がダメダメクズクズと連発するのは,当人に才能がないわけではなく,自分に対する要求水準が高い証拠(by いしかわじゅん@BSマンガ夜話)という,冷徹な事実を見据える必要がある。本書は決して,ニートやフリーターを甘やかせるための口実には使えない,プロの仕事と厳しさを伝える漢(おとこ)の書なのである。

小林よしのり「目の玉日記」小学館

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-09-389056-0, \1000

目の玉日記
目の玉日記

posted with 簡単リンクくん at 2006. 3. 8
小林 よしのり著
小学館 (2006.4)
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 ここんとこ,ゴー宣ことゴーマニズム宣言とはご無沙汰である。ここでも何度か書いてきたが,主張がマンネリ化したため,エンターテインメントとしての面白みが薄れてきたからである。同じことは,愛読していた藤原正彦の著作にも言える。「国家の品格」がベストセラーに入ったのは,その筆力と主張の見事さ(正しさ,ではないよ為念)から当然と言えるが,ワシは一見して購読するのを止めてしまった。「情緒」と「国語力」の主張のないエッセイなら喜んで読んだであろうが,それの連呼ばかりでは「あーあー分かった分かった」と言いたくもなるのである。藤原といい,小林といい,どうして保守論者の主張はこうも同語反復が多いのであろうか・・・おっと,これはサヨクにも言えるね。兎も角,己の思想信条を声高に連呼し続けられれば,どうしたって飽きられてしまうのである。もう勘弁してくれと言いたくもなるのである。
 かようにして,ワシとよしりんは倦怠期の夫婦関係の如く疎遠になっていたのであるが,ゴー宣掲載誌をチラと眺める習慣だけは続いていたのだ。そんな折である。よしりんが目の病気になり,ゴー宣が休載となったのだ。
 ありゃぁ,こりゃ大変だ。復帰できるかな?・・・と心配していたのは杞憂も杞憂。転んでもただでは起きないエネルギーの持ち主であるからして,重度の白内障に罹って入院し手術,そして退院して短期休養,という一連の事件を作品にしてしまったのである。それも書き下ろし160ページ! ホントに病み上がりか?というぐらい,充実したテンションの高い作品に仕上がっており,しかも殆ど「いつものアレ」的主張がない。これはうれしい,国家主義者ではない,純粋なエンターテナーよしりんを楽しめるではないか。ワシが本書を購入してから小一時間で一気に読了してしまったのも無理はないのである。
 「えー,小林よしのりぃ~?右翼だろ~?」という向きにもお勧めの,無難かつ楽しめるエッセイ漫画本である。損はしない。どーせ年寄りになればみんな白内障になるんだから,予行想定演習のつもりで読んでおくと,いざ目が白くなっても,「白内障の手術?軽い軽い,わっはっは」と笑い飛ばせること請け合いである。

北道正幸「プ~ねこ」アフタヌーンKC

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-06-314373-2, \524

プーねこ
プーねこ

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北道 正幸
講談社 (2005.1)
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 北道正幸は困った漫画家だ。興味のない付録のフィギュアを溜め込みつつ,あの重たい月刊漫画雑誌アフタヌーンをワシが毎月欠かさず購読しているのは何のためだと思っているのか。もちろん,「もっけ」「るくるく」「神戸在住」「G組のG」「そんな奴ァいねぇ!!」「ああっ女神さまっ」「ヨコハマ買い出し紀行」「ラブやん」のためでもあるが,北道が途中で投げ出してしまった長編連載「ぽちょむきん」のためでもあるのである。つまりワシは少なくとも購読目的の1/9を北道の連載放棄によって失ってしまったのである。どうしてくれよう・・・そんな思いを持つ購読目的1/9欠落読者はかなりの数,存在しているものと思われる。何故なら,「ぽちょむきん」連載当時から連載放棄の現在に至るまでちみっとずつ掲載されてきた4コマ猫漫画を収録した本書が,2005年1月の発売以来,9回も増刷されまくっているからである。これは,「キタミチのハイブロウ過ぎるカルト4コマならこの程度じゃねーかぁ」という,購読目的1/9欠落読者を舐め腐った編集者の部数判断ミスという範疇を超えたキタミチの連載再開への期待が,「きゃぁこのねこかわいー」というミーハーパンピーに上積みされた結果といえよう。まったく証拠はないが。
 とゆーことで,キタミチの今後の労働意欲を高めてもらうべく,発売から一年も経っておせーぞバカヤロー的非難を覚悟しつつも,リストラパパの如く打たれ強いワシは札幌の紀伊国屋書店で本書を購入したのである。せめて\524中の印税分ぐらいは性根を入れ変えて働いてもらいたいものである。