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なかせよしみは,現在,残念ながらマイナーな漫画家である。ワシはComicリュウで安彦良和が推したなかせの「うっちー3LDK」が龍神賞を取って以来,それが単行本にまとまることを期待していたのだが,その前に出した「でもくらちゃん」の売れ行きがあまり良くなかったせいか,結局現段階では同人誌として頒布されるに留まっている。原因はいろいろあろうが,一つあげるとすると,どうも日本の漫画界では「科学的知見に依拠した面白さ」の受け皿が思いの外小さい,ということが大きいように思えるのだ。
なかせよしみの絵は線が多く複雑でストレートにかわいいとは言えないところがある。それも一つの理由だろうが,それよりは,かっちりした科学的知見というものの面白さを受け止める読者層が少ない,ということが大きいように感じる。手塚治虫「ブラック・ジャック」,光瀬龍・加藤唯史「ロン先生の虫眼鏡」,岡崎二郎「アフターゼロ」といった作品群は,人間の願望とは全く別の移相にある「自然」というものの理屈,つまり自然「科学」を漫画の面白さの中に取り込んでいた。基本的にはなかせよしみの,特に「うっちー」や本作「高速ぷるん」のような作品群にはそれらと同じ「理屈の面白さ」がベースになっていて,それを面白いと思う読者層の厚みが,今一歩,商業的に目立つレベルに達していないということが,マイナーである理由であるようにワシには思えるのである。Comicリュウ編集長がなかせの絵についての不満を選評で述べていたが,それは「理屈の面白さ」とは別の魅力で読者を増やさないと厳しい,ということを主張しているように思える。
で,本作「高速ぷるん」である。なかせよしみの作品はワシが読んできたものに限ると全てシチュエーションコメディである。他にもあるのかもしれないが,まぁ,SFラブコメ,という一言で済ませてしまうのが一番無難な説明だろう。しかしそれにしてもこの「シチュエーション」が一番ワシが面白いと思っているポイントで,本作は主人公「ぷるん」が体内に高速増殖炉細胞(?)を抱えた「理想的な原子炉」であるという点が優れている。
・・・時期が時期だけに悪趣味かね? いやもちろん本作は2009年,2010年に頒布されたものなので,2011年3月11日に起こった福島第一原子力発電所の事故を直接モチーフにして描かれたものではない。しかし,日本全国でこれだけの数の原発が稼働している「背景」はたぶん著者の頭の中に知識として定着していて,それがこの物語の設定に含まれているようなのだ。それ故に何かこの事故との関連を感じさせずにはいられないのである。
本作の語り部は高月大樹という小学生。新興住宅地に建て売り住宅を購入した両親と一緒に引っ越してきたという所から物語は始まる。まだハッキリと背景説明がなされたわけではないが,この住宅地には秘密があり,住宅ローンが割引されるという売りが,ある日突然,両親が住宅購入後に出現したのである。それは「新代替エネルギー研究所」という謎の研究所と関連しているようだ。どうやらこの研究所のヘッドである「町内会長」が長年研究してきた成果,つまり,体内に特殊な細胞を持つ小さな女の子「ぷるん」が「生きた高速増殖炉」として熱を生み出し,その熱で発電された電力を貯めて住宅地に供給しているらしい。そーいや鉄腕アトムも原子力で動いていたはずだが,あれは原子力がまだ「クリーンエネルギー」と思われていた時代の産物。ぷるんについては,町内会長が「60年かけて築いた」ものではあるが,その「エネルギー政策は結局実らなかった」ということになっていて,この辺の事情は続編で明らかにされるようだが,現在までの日本の原子力政策と妙にマッチしている台詞である。
スリーマイル島の事故があり,チェルノブイリが巨大な「石棺」となり,日本の原発でもいくつかの事故とそれに伴う不都合な真実隠しがあり,今ではかつての与党の国会議員までが日本の原子力政策の行き詰まりを指摘するようになっている。そのあげくに今回の福島第一原発の事故だ。「そろそろヤバイかも・・・」と全国民が感じ始めた矢先に「やっぱりヤバかった」と頭を抱えてしまう悲劇が起き,漫然と原発作らないと電力需要が賄えないんだよなぁ,と信じてきたワシら国民が猛省しなければならない事態となっている。
・・・と言うと深刻な作品であるかのように受け取られそうだが,今のところ本作自体は軽めのSFコメディであり,一言もしゃべらない「ぷるん」も別段自分の存在に悩んだりせず,脳天気に高月大樹と戯れているのだ。だから,今回の事故と絡めてこんなところに文章を書いちゃうのは著者にとっては迷惑この上ないだろうし,ハッキリとご本人から取り下げを要望されたらそうするつもりである。
しかし,「高速ぷるん」には巻末に「「原子力」考察まんが」という漫画エッセイが付いていて,それが「・・・やっぱり色々問題あるんだな・・・」というぼんやりとした知識が付くようになっている。単なる「シチュエーション」として,原子力を「ぷるん」の設定に利用したにしては,この考察まんがの内容や,メイン作品の科学的考察がかっちりしすぎていて,逆にこういう事故の時に本作を紹介しないこと自体が,ワシにとっては罪であるように思えたのだ。さらに言えば,本作の続きが出ないかもしれない状況になったこのタイミングで,ワシが感心して面白がっていたこの「高速ぷるん」の存在を誇示しておかなければ永久に埋もれてしまうように思えたのである。
他愛もないSFコメディとして終わるにしては,土台とする科学的知見の正確さと着眼点の面白さが惜しい。故に,どうしても書かずにはいられなかったので,ここで紹介する次第である。
久住昌之(原作)・水沢悦子(漫画)「花のズボラ飯」秋田書店
[ Amazon ] ISBN 978-4-253-10452-4, \900
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えらい評判になっている漫画なんだが,秋田書店のレディース漫画雑誌に連載されていた作品というので買ってみたのだが,確かにこれはスマッシュヒット,人様がほめるだけのことはあるワイと感心した。そーいや,今日マチ子の「cocoon」も話題になったが,これも同じ秋田書店のレディーズ雑誌に掲載されてたな。夢路行の長期連載「あの山越えて」もそうだし,坂田靖子先生もご推薦の「嫁姑の拳」もここ。漫画家再生工場・秋田書店と言われるだけあって,他社から移籍組が多いが,それ故に計算外としか思えないような意外なヒットが生まれるのであろう。
で本作だが,なるほど面白い。どう面白いかというと,ちゃんとレディース漫画の特徴であるところの芳醇なエロスを意識した表現に満ちており,いちいち主人公のハナコが「うまい~」とグルメ漫画の決めゼリフを叫ぶ顔のアップが濡れ場のエクスタシー表情になっているのである。それでいて三十路過ぎの立派なオバハンも,お隣の40年前にタイムスリップしたようなネイチャーカップルも,離れて暮らすハナコの両親も全員5~6等親の可愛らしく,暖かみのある柔らかい描線で描かれており,料理も背景もみっちり書き込まれていて,雰囲気としては「レディース版クッキングパパ(女性だけど)エロス入り」なのである。これなら普段レディース漫画を読み付けない男どもにも抵抗なく読んでもらえる。久住昌之と水沢悦子のコンビを誰が思いついたかは知らねど,この相性の良さを見抜いてのこととすれば,かなりの慧眼の持ち主である。偉い。あ,今気がついたが,ワシが好きだった「ビンボー生活マニュアル」とも似ているよなぁ,この画風と雰囲気は。
ワシが購入したのは第4刷。こりゃ間違いなく秋田書店内部はおろか,漫画業界全体としてもヒット作である。久住昌之+谷口ジローによる「孤独のグルメ」に代わり得る本作,続編を期待して待ちたい。
3/13(日) 掛川・晴
金曜日午後2時45分以来,日本の日常が変わってしまったようである。震源地に近い岩手・宮城・福島は当然だが,東京も地震以上に輪番停電が決定されて影響大。電気がないではICTも役立たず。ケータイ通信にも影響が出るのかな?
・・・と言う事情はTVでもラジオでも特番だらけでよく分かるのだが,ここは地震の被害もなく,60Hz地帯なので今のところは電力不足の兆候もない。関東エリアを含む50Hz地帯への送電も限りがあるようで,日本全国で電力を保持し合うということもできないようだ。いい機会と言っては語弊があるが,Smart Gridがこれほど切実に求められる事象もないと思うので,研究者はぜひとも実効性のある研究成果をあげてもらいたい。
そして,特にワシら西日本の人間は断固として普段の生活と変わらぬ日常生活を送らせて頂く。募金も出来るだけ体制が出来れば送るつもりだが,こちらの生活に支障のない範囲に限らせて頂く。このblogでは馬鹿げたことも下らないこともいつもと変わらず書くつもりだ。
とゆーことで,延び延びになっていたぷちめれ祭り(こんな時に不謹慎な語であるが)を今週続けて5作品,月曜から金曜日までお届けする。月曜日分はちと遅れるかもしれんが。
しかしまぁ,こんな時でもデイリーポータルZはいつも通りなんだな。さすがである。林雄二は一本筋が通っているな・・・って程でもないか。いつも通りの生活に戻ることが被災者全員の願いなら,いつも通りの生活が出来ている人間がいないと困る。はしゃぎすぎるのはイカンが,自粛しすぎて「いつも通り」を見失うのはもっとイカン。
つーことでワシはいつも通り風呂入って寝ます。
第129回HPC研究会「中止」/宿泊代金等返金手続きについて
SWoPP MLが止まっているようなので,ここに主査・幹事からの連絡事項を転載しておきます。関係各位には個別に連絡をしてあげて下さい。
※_atmark_ -> @に置換
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From – Sun Mar 13 22:41:13 2011
Message-ID:
From: =?ISO-2022-JP?B?U0lHSFBDIEthbmpp?=
Subject: HPC 研究会発表会≪中止≫のご連絡
Date: Sun, 13 Mar 2011 19:40:10 +0900
HPC 研究会にご登録のみなさま
主査の須田です.
3 月 11 日に発生しました地震に関連しまして,大きな被害が発生し,原子力発電所
の問題,交通の遮断,計画停電説など,さまざまな社会的問題が発生しております.
このため,3 月 15 日~16 日に予定しておりました第 129 会 HPC 研究会発表会は
中止とすることに決定いたしました.
宿泊をお申込みだったみなさまには,幹事の片桐孝洋先生より別途ご連絡があります.
なお,HPC 研究会の連絡に広く用いられてきました SWoPP メーリングリスト,また
HPC 研究会ウェブページが,いずれも現在機能しておりません.学生さんなど,研究会
登録されていない方々へのご連絡をよろしくお願いいたします.
また,HPC 幹事メーリングリストも機能しておりません.お問い合わせは
主査:須田 reiji_atmark_is.s.u-tokyo.ac.jp, reijisuda_atmark_gmail.com
担当幹事:片桐 katagiri_atmark_kata-lab.itc.u-tokyo.ac.jp
に直接ご連絡くださいますよう,お願いいたします.別日程で発表会をするかどうか
など,これから検討してまいります.
須田礼仁
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宿泊予約,弁当代の返金手続きについては下記参照。
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From: “KATAGIRI, Takahiro”
To: “Takahiro Katagiri”
Subject: 【重要・確認】HPC129の返金について
Date: Sun, 13 Mar 2011 22:24:57 +0900
HPC129に宿泊・弁当予約された方
幹事の片桐です。
HPC129の返金方法についてお知らせします。
わたくしの口座経由での返金になります。以下の手順で返金予定です。
なお現在、ホテル側からの返金がなされていませんので、
ホテル側からの返金確認後に本業務を開始します。
また、明日以降の東京電力の定期停電措置により、
関東地区のインターネットの不定期な切断が
予想されます。処理が円滑に進まない可能性があります。
あらかじめご承知ください。
本件を、日本語がわからない外国人学生がいる研究室は、
教員等の方において、十分にご周知をお願いします。
ーーーーー
1.申し込み代表者の方は、
以下の情報を katagiri_atmark_kata-lab.itc.u-tokyo.ac.jp に、
電子メールでお送りください。
メールの件名:HPC129返金請求
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お名前(ふりがな):
ご所属:
振り込み済み金額の合計:円
銀行名:
支店名;
普通口座等の種類:普通
口座番号:
口座名義(カタカナ):
————–
2.指定口座に金額を振り込みます。
名義:カタギリタカヒロ
3.口座に入金されたことの確認をお願いします。
4.再度片桐までメールをください。
なお、以下の件名をつけてください。
件名:HPC129返金確認
ーーーーー
以上、よろしくお願いします。
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3/6(日) 掛川->大阪->掛川・曇
どんよりな一日。何か,3月に入ってから寒いんだよな。4月第一週にうちの母親が静岡の桜を見に来たいと言っているのだが,さてどーなるやら。例年だと満開を過ぎて散り始めって感じだが,この寒さだと,満開時期にぶちあたるかも? ・・・そうなったら恐るべし,桜見たいパワーだ。
今日は青春18切符,初回の日。掛川駅から午前6時12分発岐阜行に乗る。
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IS03のカメラって,ちょっと薄暗くなると途端にピントが合わなくなるんだよな。
豊橋で午前7時16分発米原行に乗り換え,午前9時20分に米原から姫路行き新快速に乗り換え,大阪到着は午前10時43分,4時間31分の長旅~・・・と体感することなく,ほとんどグースカ寝こけてました。思ったより早く着いたって感じ。静岡~浜松区間では多数派の長いすではなく,座席が二人がけシートなのもよし。疲れも取れたし,さーて丸尾末広先生の原画にご対面である。TONO先生のTweetで知ったのねん。
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いや~,こぢんまりした画廊だったけど,モノホンの原画と対面できて感激したわい。写真のコラージュが一点あった他は全部手書きの鉛筆下書き(習作の一枚だとか)と着色原稿,額縁付きでお値段手頃。ワシはゼロ一つ多いもんだとばっかり思い込んでいて,どーせビンボー人には買えないんだろうから高みの見物としゃれこんだのだが,全然買えてしまう価格だったので,危うく手が出そうになったぜ・・・。でも欲しいなぁ。まだ買い手がついていないようだが,「夜叉ヶ池」は調度品としても色使いとしても完璧だったので是非とも欲しかったのだが,ワシみたいなずぼらな奴が購入して万が一日焼けさせた日には(表面アクリル板はUV加工しているとのこと),熱烈なファンの方に攻められ首ちょんぱされて屋根の上でワシの生首がわっはっはわっはっはと踊る一寸法師のオモチャにされそうである。故に危うく購入を断念したのである。誰かワシより熱烈かつ美術品(だよ,あのレベルは)の扱いに長けた人,よろしくご購入を検討されたし。詳細は述べないが,ふつーの正社員ならボーナス1回分で買える値段である。
しかし絵がうますぎると,変態的な構図でも清潔感抜群になるってのはすげぇな。突き抜けるってのはこーゆーことなんだな・・・。満足満足。
じっくり原画を堪能した後は,なにわ七幸の一つ,大阪天満宮にお参り。長ーい商店街を最初逆方向に歩いてしまった。道案内があまりよろしくないな(と,人のせいにする奴)。
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紀州みなべの南高梅が満開,香りも満開であった。
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本来なら上方落語を堪能したかったが,立ち見だそーで,早々に断念。
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思ってたよりだいぶん小さい小屋である。今の勢いならもっとでかい鈴本クラスの小屋でも十分やっていけるんじゃないかな?
つーことで,午後2時30分過ぎに大阪を発って,20時に掛川に帰宅。は~,たま~にはいいもんですな,のんびり普通列車の旅。再来週の東京行きもこれでチャレンジする予定なのだが,さてどーなりますやら。年に一度ぐらいはこの手の休養をのんびりしたいものである。
風呂入って寝ます。