中野晴行「謎のマンガ家・酒井七馬伝」筑摩書房

[ BK1 | Amazon ] ISBN 978-4-480-88805-1, \1900

謎のマンガ家・酒井七馬伝
中野 晴行著
筑摩書房 (2007.2)
通常24時間以内に発送します。

 日本の戦後マンガは手塚治虫が開拓し,切り開いていった,という認識が定着して久しい。そしてそれは殆ど間違ってはいない。但し,それは大阪の出版社から出した単行本「新宝島」(1947年1月発行)がブレイクし,手塚が流行作家になって東京へ拠点を移してからの話であって,この実質的なデビュー作に至るまでの歴史は殆ど語られてこなかった。最近,ようやく夏目房之介らの研究グループによって,戦前の日本マンガは,子供向けの作品もかなり芳醇なものであったことが明らかにされつつある。BSマンガ夜話の手塚治虫スペシャル(第22弾 2002年4月1日~3日)において,夏目は「手塚治虫は,戦前の日本マンガをたくさん摂取していて,それを土台にして戦後の活躍があった」という趣旨の発言をしていたが,同時にその「土台」を我々が簡単に確認できない状況にある,ということも述べていた。
 本作は,「新宝島」の,もうひとりの生みの親である酒井七馬(さかいしちま, 1905-1969)の伝記であると同時に,緻密な資料探索と取材に基づいた,戦前から戦後にかけての日本マンガとそれを取り巻く状況を知らしめてくれる傑作ドキュメントである。これを読む限り,手塚治虫が一新していった戦後マンガとは別の,戦前マンガの流れを酒井七馬は死ぬまで抱えていた,ということがよく分かる。そして,殆ど都市伝説のように語られていた酒井の晩年の死に様が,どうも誇張されすぎている,ということも明らかにしている。確かに独身の老人が自宅で衰えていった,という状況は第三者には悲惨に見えるものだが,貧窮のうちに死んでいった,というのは言い過ぎであるらしい。
 本書を読むまでワシはそもそも酒井の名前を殆ど知らなかった。従って,当然,「新宝島」の原案・構成にクレジットされていた酒井の名前が途中で消え,最終的には手塚の名前のみが残った,という事実も本書で初めて知ったのである。大体,共著者がいることだって,殆ど知られていなかったのではないか。その理由は他ならぬ手塚が,オリジナルに基づいているとはいえ,後年,完璧にリライトしてしまった「新宝島」(手塚治虫全集に収録されている)の発行しか認めてこなかったからである。著者の言葉を借りれば,これは手塚による「抹殺」と言えるものである。そして酒井七馬の名前も忘れ去られていった訳である。
 しかし,本書に収められている酒井七馬の画業の素晴らしさは驚嘆に値する。戦前,アニメーターとしてスカウトされて腕を上げていき,戦後もカットや似顔絵の仕事をしつつも,赤本,紙芝居,絵物語,そしてまたアニメ・オバQの絵コンテ・・・と,一流と言えるほど突き詰めたものは少ないとはいえ,高水準の絵描きであったことは間違いない。これだけの腕があったからこそ,「新宝島」の共同執筆において,手塚の才能を一気に開花させることが出来たのであろう。そして同時に,プライドの高い手塚の神経をいらつかせる作品にもなってしまったのであろう。その結果,知名度の低さも手伝って,酒井の名前は手塚によって抹殺されることになったのである。
 そう考えると・・・才能のぶつかりあいという奴は,皮肉なモンだなぁ,と思えてならない。ぶつからなければ「新宝島」は存在しなかったし,ぶつかったが故に後にしこりを残す。酒井の「諦観」癖がなければ,間違いなく,この作品に関してゴタゴタが発生し,手塚の名を汚す最初の大事件になったであろう。
 ドキュメントというと,根ほり葉ほり情報をほじくり出さなければ優れたものにはならないから,どうしても著者の悪意がにじみやすいところがある。しかし本書にはそれが全く感じられなかった。それはもちろん著者の人徳によるものが大きいのであろうが,諦観の人・酒井七馬のサバサバした性格と,グロテスクなものを目指してもどこかユーモラスな雰囲気が漂う彼の画風に寄るところも小さくない筈だ。酒井の晩年はやはり一抹の寂しさは残るものの,何となく,こういう人生もいいかな,と思えてくるあたり,ひとりものとしての共感も手伝っているんだろうな,きっと。

3/25(日) 掛川・雨後曇

 昨日は諸々の所用を済ませて散髪し,雨がポツポツ降り出したところで帰宅。シーツとタオルケットを干したまま出かけてしまったので,乾くどころか雨をすって重くなってしまった。面倒なのでそのままにしておいたら,夜中から朝方にかけて土砂降りにあい,さらに酷い有様に。午後には晴れてきたものの,乾くにはまだ時間がかかりそうなので,まだほったらかし。明日には取り込めるか?
 先週半ばにドタバタした疲労が出たのか,今日は一日中偏頭痛で動けず。買い込んだ本を,すっかり煎餅になった布団に横になりながら読むのみ・・・だったのだが,午前中,いきなり地震が。すわ東海地震か?と思ったら,能登沖地震とのこと。ワシが住んでいた穴水町もかなり被害が出たようだ。震度6だもんなぁ。高齢化と過疎化の進展著しい地域だけに,どうも映像を見る限りはそーゆー方々が住んでいた古い木造家屋が多いようだ。休日の午前9時過ぎという発生時刻のせいか,死者が少なかったのは不幸中の幸いである。
 しかし,地震なんぞ少ない地域でこういうことがあるかと思えば,巨大地震が来る来ると騒がれている地域は平穏無事・・・そのうちしっぺがえしが来るのかしらん?
 頭痛に加えて,青春の残滓の後始末以来腰は痛いし,尻のアナから出血はするし(座りっぱなしだからなぁ,ここんとこ),いよいよディスプレイが霞んで見えてくるし,すっかり中年の仲間入りである。来月は人間ドック入りなので,少しは中性脂肪を削るべく,それまで卵と牛乳断ちを敢行せねば。
 明日から頑張ります。

3/23(金) 掛川・?

 日本人一番乗りらしい・・・が,First nameとFamily Nameが逆だって指摘すべきかしらん?
 年度末恒例のデータバックアップ作業,やっと終了する。動画データなぞはいちいち保存できないので,全て削除。それでもDVD 3枚,約12GBとなる。もう数年来使い続けているデータが増えて,蓄積されてきたためであろう。ボチボチ,これはもうしばらく使わないな・・・というものはカットしていかねばなぁ。それと,DVD DL導入をそろそろ検討しなきゃな。やっぱりPC取っ替えしかないか。メインマシンはそうそう交換できないし,Vistaにしたくても職場の環境がそれをまだ許してくれないようなので,XPマシンにしなきゃならないのが悲しいのだが。
 タミフル製造薬品会社から寄付を受けた研究者を除外,とのこと。これって,この研究者がいるから有害性が主張できなかったのか,そもそも統計的に有意なレベルになっていないだけだったのか,どっちなのかしらん?
 どちらにしろ,政策決定には民意(つーか,マスコミの影響を強く受けた声高な人たちの意見)が反映される時代なんですな。
 サイバー大学って評判はどうなのかな? と思っていたら,結構人目を引いているらしい。さすが有名教員をかき集めて,Yahoo! Japanも動員しての広告を派手に展開しているだけあるなぁ。この調子でガンガン社会人履修生が増えていけば,生涯教育の成功例としてもてはやされるに違いない。東京サテライト校を作った稚内北星学園大学苦戦しているようだし,完全通信制の八洲学園大学なかなか・・・,サイバー大学はさて何年好調でいられるのか。しばらく注目しておく必要があるな。
 今準備中の計算の下調べのため,W.GautschiのWebページをあれこれ散策。ああ,なるほど,柳原先生が留学していたのか。
 で,自分の業績を解説した文を眺めていたらこんな箇所が。
2.2 An early survey of numerical methods for ODEs: [4]
This is the first systematic review of the theory of one-step and multistep methods known at the time. It has largely been overshadowed by Henrici’s book on discrete variable methods, which appeared in the same year.
 ま,誰しもそーゆーことはある訳でして・・・でも相手がHenriciなんだからたいしたモンである。Basel生まれってことは,2人は同郷なんだな。ふーん。
 明日も研究頑張ります。

菅野彰×立花実枝子「あなたの町の生きてるか死んでるかわからない店探訪します」新書館

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-403-22049-5, \800

あなたの町の生きてるか死んでるかわからない店探訪します
菅野 彰文 / 立花 実枝子絵
新書館 (2007.1)
通常24時間以内に発送します。

 酒井順子が「負け犬どもよ,仕事に生きよ」と高らかに負け犬党宣言して以来,世の負け犬,つまり仕事持ちの独身女性達は,マルクス酒井の教えを忠実に守り,身の危険も省みず,勝ち組への道を歩んでいる。で,以前より更に負け犬達から相手にされなくなったオスの負け犬どもは,相変わらず日本の少子化に拍車をかけつつ,自らの不満をコメントもトラックバックも受け付けない無愛想なblogに書き付けるしか手がなくなってしまったのである。
 菅野彰(すがのあきら)と立花実枝子(たちばなみえこ)はそんな負け犬(と言うにはまだ若いのかな? 特に後者は)党の忠実なる突撃隊であり,正に身を挺して,この日本の社会問題に深く切り込む名エッセイをものにしたのである。この僥倖に接することのできたワシは,是非ともこの感動を全世界の日本語を解する方々と分かち合うべく,本記事を配信することを決意したのであった。
 日本の中小規模の市町村中心街における商店街の衰微は,地方と大都市との格差を象徴する視覚物としてメディアに取り上げられることが多い。実際,ワシが現在住んでいる静岡県西部の人口10万程度の小都市でも,ここ十数年来,駅前商店街の寂れ方といったら凄まじいものがあり,休日の昼間の寂しさといったら,オスの負け犬の寂しい神経を逆なでしちゃう程なのである。そこを散歩しながら,ああこれが有名な「シャッター通り」という奴なんだな,と妙な感心をした覚えがある。
 ところが,平日昼間に有給休暇を取って,同じ商店街を歩いてみると,これが何と,死んだと思っていた商店の半分ぐらいは煌々と明かりをつけ,営業しているではないか。かつてのスーパーらしき廃墟・・・と思っていたバラックが主婦の店しているのを見ると,まるで大東亜戦争後の廃墟から立ち上がって活況を呈している闇市のようである。つまり,殆ど瀕死状態と思われていたこの商店街はまだ半死半生状態であり,いまや絶滅危惧種たる専業主婦のライフスタイルに合わせて営業していたのであった。この21世紀のグローバリゼーションが進みつつある現在において,かようにドメスティックかつクラシカルな商売がかろうじて成立しているのは,いかなる事情によるものなのか?
 一言で言うと,彼ら商店主は

やる気がない

のである。山っ気がない,というと褒め言葉になるが,彼らは単純に自らの国民年金を補うぐらいの食い扶持があればいい,と思っているだけなのである。大体,ワシの居住するこの中程度の都市は,大企業の工場が結構集約されており,人口自体はわずかながらも増えているのだ。かつて駅前にあったユニーが国道沿いに移転してしまったことが商店街衰微の直接的原因であるのは確かだが,それなりに人口規模がある場所において,しかも駅前という一等地にあることを考えれば,商売が成り立たない筈がないのである。大体,この21世紀の日本において,土日は営業しなくていい,とふんぞり返る神経が信じられない。共働きのサラリーマン家庭に背を向けて商店街活性化など片腹痛い。やはりこれは
やる気がない

と判断せざるを得ない。そしてそーゆー
半死半生な店

を多数抱えた商店街が本当のシャッター通りと化すのは,至極当然のことなのである。
 そこで疑問が沸くのだ。やる気のない商店の生死をどのように見極めることができるのか。特にそこが飲食店である場合,生き死にを判断する基準は,単に営業しているかどうかを見るだけではダメなのだ。
注文を出し,食ってみる

ことでしか,分からない真実というものが厳然として存在するのだ。日本には一応,食品衛生法なるものがあり,保健所の検査というものがある筈なのだが,それが有効に機能していないケースがあるようなのだ。更にいうなら,衛生的に合法的であっても
味覚的に非合法

なケース・・・これは相当存在すると思われる。そして多くの場合,これが原因となって客が引き,店主のやる気を殺ぎ,店の生死が不明確となるようなのだ。
 ・・・とまあ,かように文章にしてみれば,当たり前のことなのだが,この事実を身をもって証明した,奇跡の体験エッセイをまとめたのが本書,即ち「あなたの町の生きてるか死んでるかわからない店探訪します」,略して「生死探訪」なのである。これを読むことによって,ワシは自らを被験者としてこの事実を体験しなくて良かった,と心底安堵したものである。だから,読者に対して「生死不明の店をめぐるスタンプラリー」というキケンな企画を立てるのは,是非とも止めていただきたいのである。
 彼女らは,かような生死不明の飲食店の生死を決定すべく,立ち上がったのである。攻・・・じゃないBL小説家・エッセイスト・菅野彰,受・・・じゃない漫画家・立花実枝子は,ウンポコの締め切りを間近にしてエッセイの企画に悩み,友人・月夜野亮に助言を乞うたのである。そして,月夜野は恭しく御宣託を彼女らに下したのだ。
半死半生の飲食店の生死を見極めよ

と。後の始末は・・・読者自ら本書を購入され,確認されたい。
 恐ろしい・・・何と恐ろしいことをするのだ,この負け犬共は。ワシのような小心者のオスの負け犬は,このような行為が蔓延し,日本の少子化と地方商店街の衰微が更に進展しないことを祈るだけである。

3/21(水・祝) 東京->掛川・晴

 昨日・本日は神保町と秋葉原で久々に物欲が爆発し,一万円の図書カードと樋口一葉女史一名が行方知れずとなる。あんまりにも買い込みすぎたので,宅配便サービスを利用する。
 12時に浅草へ行き,久々にブラック師匠の独演会を堪能しようとするも,例の立候補に関して注目が集まったせいか,あのタダでさえ狭い小ホールに120名近くがすし詰め状態となる。ワシは運良く最後列の椅子に腰掛けられたが,中程の座椅子に座った方々は四方八方身動きが取れない状態になる。ま,ブラック師匠も気を使って2時間40分の熱演,古典3席(あの「桃太郎」を古典と言うべきかどうかは微妙だが)とこれから選挙活動に向けて封印するというネタを披露してくれたのでよしとしよう。・・・げ,もう今日の高座の音声がupされてる安達先生,仕事早いな~。
 16時過ぎに大師匠の所へ顔を出し,最近の仕事を報告。今年は大師匠の精神を少しは受け継ぐ研究を進める予定なので,その承諾も得させて頂く。
 さて,22時過ぎに掛川に帰ってメールをチェックしてみると,
 ・青春の残滓33箱を売り飛ばした古本屋から,到着の連絡メール
 ・青春の残滓の残りカス7箱を寄贈した所から,到着の連絡メール
 ・SciCADE07へのsubmit,あっさり通ってしまった。「だからサッサとregistしろよ」とだめ押しされる内容のメール
 
が届いていた。ふー,これで明日からは仕事に邁進せねばならぬな。ここ5年が勝負だと思っているので,気合いを入れて頑張ろう。とりあえず,3月中に論文一本仕上げて投稿せねば。
 うーん,鴨志田穣さん死去。最近,アル中治療が終わってサイバラ家に戻って幸せに暮らしていると思っていたら・・・。ご冥福をお祈り致します。今日のコラムの花道で勝谷さんが追悼していた。
 寝ます。