長谷川武光・吉田俊之・細田陽介「工学のための数値計算」数理工学社

[ Amazon, 出版社のWebページ ] ISBN 978-4-901683-58-6, \2500
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 うはー,やりづれー。というのも本書は献本なのである。つーても献本してもらった癖にイヤミっぽいことを書いたという前例が既にあるので,貰いモンだから筆先が鈍るなんてことはあり得ないことは証明済みである。我ながらなんて「いい性格」なんでしょうねぇ。
 やりづらい理由はもう一つあって,よく知っている内容の,しかも初学者向け(かどうか?)のものであるから,ワシと著者らとの主観の相違が際立ってしまう,ということが挙げられる。つまりは学問論争に繋がってしまうので,本格的に論じ始めたら果てしなく続いてしまいキリがない。これについては著者(ら?)とダイレクトにやりたいと考えているので,ここでは割愛する(でもちょっと混じってしまったか?)。
 なので,ここではワシが個人的に数学を主専攻としない大学学部生向け教科書に必要不可欠と考えている以下の点についてのみ,考えていくことにしたい。
 1) 現代的な内容になっているか?
 2) 抽象的な議論に終始することなく,具体的事例を盛り込んでいるか?
 3) 学習して欲しい基本的内容・記法は本書内の記述で自己完結しているか?
 4) より深い知識を知るための参考文献は明示してあるか?
 5) アフターサービス用のWebページが用意してあるか?
 まず1)について。本書については掛け値なしに合格である。感心したのは
 第2章のIEEE754浮動小数点数の解説(丸めモードの解説も欲しかったけど)
 第3章のLU分解の解説(初学者向けの分かりやすいモノかどうかはともかく)
 第8章のClenshow-Curtis公式の解説(翻訳でない邦書初?)
 第10章の偏微分方程式の解説(詰め込みすぎのきらいもあるけど)
など。特に2章は現代の線型計算が,主として計算性能を上げるためにblock単位で行われていることを意識して記述してあるので,邦書としてはかなり「異色」,でも「現代的」であることは間違いない。LU分解の分かりやすい証明(P.34~36)はワシも使わせ頂くつもりである。
 2)については文句なしに合格。ただ,地方国立大学工学部で教えたワシの経験ではちと高度すぎる事例が多いかなぁと感じた。特に第10章については,これだけで半期を費やすぐらいの時間を掛けないと身に付かないのではないか。本書を使った講義がどのぐらいの時間でどのように行われているのか,興味深い。
 3)について。及第点ではあるが,3人の共著ということもあって,記法に不統一なところが散見されたのは残念。まあでも講義でフォローできる程度だから,大した問題ではない。
 4)はまあ妥当・・・ではあるけれど,古くて絶版になったもの(特に邦文書)が多いのは初学者向けとしてはどんなものだろう。[2], [a]は新版が出ているので,そっちを勧めた方がいい。文献の並び順がどうなっているかも不明なので(「数値計算のつぼ」「同わざ」が離れているのは何でだろう?),も少し気遣いが欲しかったところ。
 5)については,演習問題の解答もある親切なものができつつあるようなので合格。販売時には完成・・・しますよね?
 つーことで,全体としてはちょっと高度な数値計算入門書として,理系のまともな大学生にはお勧めできる内容と言える。これを使って学習した学生さんの中から優秀な研究者が輩出されれば,更に本書の価値が上がろうというモノである。今後大いに期待したい・・・と,著者らにプレッシャーをかけて,やりづらいぷちめれを締めることにする。