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栗原俊雄「シベリア抑留 未完の悲劇」岩波新書

[ Amazon ] ISBN 978-4-00-431207-9, \700

事実関係を調べるにはまずググってみる,というのが今のワシのデフォルト動作である。つまり,「検索バカ」になっちゃっているわけだが,少し有名なものであれば,たいがいWikipediaの記事がトップに引っかかってくる。で,じっくり読んだりちらりと一瞥を食らわせたりするのだが,最近はほとんど必要なところだけピックアップしておしまいになる。ことに長めの記事は全文読んでいると頭がくらくらしてくる。ワシの貧弱な日本語解読能力が更に破壊されそうになるのである。
これは,普段からまともな日本語を読み書きしていない学生の長文を読むよりたちが悪い。何故なら,学生の文章はダメなりにダメさが一貫しているのに対し,Wikipediaの文章は様々な人間が手を入れたせいだろう,文章の流れが一貫していないことが多いのだ。エディタが介在しているから,文の一つ一つはそこそこマトモなのだが,文同士の繋がりが微妙に噛み合っていないことが多く,じっくり読んでいると船酔いになったような気持ち悪さに見舞われてしまうのである。
この「気持ち悪さ」は,ワシが本を読んで知識を得て育ってきたという経験から来るものなんだろう。最初から断片的な知識をつまみ食いするように育ってきたのであれば,Wikipediaのぶっち切れ文体はかえって吸収が早いのかもしれない。その意味ではワシは完全にオールドスタイルの人間なのだ。ま,四十路ですからもう若くないですけどねぇ~だ。
そんなロートルであるから,今でもやっぱりまとまった知識を得たいときには,新書だの文庫だの単行本だのといった,旧態依然とした「本」に頼ってしまう。もちろん,対談本のようなものは別として,読みやすさでは単著がベストである。文章の「流れ具合」は一貫していることが望ましいからである。
つーことで,おざわゆきのシベリア抑留マンガの感想を書いてから,そもそも何故そんなことが起こったのか,という疑問に答えてくれる本を探していた時に見つけたのが本書である。もちろん,過去には様々な本が出版されていて,おざわの同人誌にも参考文献リストが載っているぐらいだから,そんなかからピックアップしてよさげなものを読めばいいのだが,何せほら,根がズボラだから,なるべく薄くてコンパクトで読みやすいものがいいな~,できれば抑留体験者の書いたものより,第三者の視点からまとめたものがいいな~・・・なとどわがままぶっこいていたところに本書がグッドタイミングで出版されたのである。本文が211ページしかなく,新聞記者の著者が書いたものだから,大変読みやすい。ワシとほぼ同年配の著者であるから,怨念でドロドロになった記述は皆無で,抑留の発端から,抑留体験と引き上げ後の悲劇,そして現在まだ日本国相手の裁判が続行中であることまで,時系列的に事実が淡々と述べられている。「岩波ぃ~? ど~せ左翼的偏向しているんでしょ?」という人にもお勧めできる中立的な内容である。
ワシが知りたかったのは,シベリア抑留の「そもそも論」である。ことにソビエト連邦側の言い分が知りたかったのだ。
まず,日本との中立条約を破って対戦末期に満州に攻め込んできたことは,まぁ日本側としては卑怯千万と批判することは当然だが,ナチスドイツ・ファシストイタリアと三国同盟を組んでいて,ドイツが降伏しても中立を守ってくれるなどと期待すること自体が間違いであろう。それ以前に,ソビエト革命の際には日本によるシベリア出兵があったことをソ連は忘れていなかった,どころか,「ソ連にとってもっとも苦しい時期に干渉戦争をいどんだ日本への恨みは,深く残っていた」(P.28)と栗原は指摘している。
更に,第2次大戦において最も死者数が多かったのがソ連であったことが,シベリア抑留の直接的な原因となったことも述べられている。失った3千万人もの労働力を補う目的で,日本人64万人も含めて24カ国,417万人もの戦争捕虜を「活用」したのである。これはポツダム会談でチャーチルに対し,スターリンが捕虜を活用して生産を上げればいいと言い放った(P.35)ことで裏付けられている。まぁ独裁者なら考えそうなことだ。しかしドイツ人は238万人も捕虜になってたんだなぁ・・・そう考えると,日本で声高に被害を述べ立てるだけでなく,ドイツも含めた被害国との連携も必要なんじゃないかと思えてならない。
本書では,国際法も持ち出して堂々としていたドイツ人捕虜に比べて日本人捕虜は従順だったということも,使い勝手のいい労働力としてこき使われた原因ではないかと指摘している。全く,東条英機の「戦場訓」なんぞ,負けてしまえば何の役にも立たないばかりか,害悪にしかなっていないことがよく分ろうというものである。東海村の臨界事故でもそうだけど,末端の兵隊だから知識が不要ってことはなく,むしろ自分の身を守るための手段として,今自分がどういう立場にいて何をさせられているのかを正確に認識し,無体なことは異議申し立てをしたり反抗したりするための知識は絶対に必要なんだよなぁ。
・・・とまぁ,コンパクトな新書であるが,読むとワシの知らない「事実」がいっぱい出てきて,目から鱗が落ちること落ちること。あ~,やっぱりこういうものはWikipediaには分量からして全部の掲載は無理だし,何より流れるように腑に落ちる文章は「みんなのWikipedia」には所詮無理だよなぁ・・・ということを再確認させられる。ロートル親父なワシではあるが,まだ当分は,「ちゃんと勉強したいなら本を読め!」と主張していかねばならんのだなぁ・・・と再確認させられた次第である。

T.Kouya

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