10/30(木) 駿府・晴

 10月下旬になって急激に寒くなってきた。台風が去った後,大陸からの寒気がなだれ込んできたらしい。最近は秋がなく,夏から直接冬になると言われているが,もうそれが当たり前になってきた感があるな。風邪っぴきが増えそうだが,こうなるとエボラ出血熱が流行っても普通のインフルエンザと判別できないんじゃないのかな,初期症状のうちは。

 そろそろうちのサイトから画像だけを引っこ抜いて利用する悪質なサイトが増えてきたので,画像ファイルのみアクセス制限をドメイン単位でかけてみた。うちのサイトのドメイン以外からは直接画像ファイルの参照ができないはず。Googleやbingの画像検索ぐらいは許可してもいいのだが,まぁ画像だけ引っこ抜いて参照されたとしても殆ど益がないのでこれも許可していない。しばらくこのまま運用してみよう。

 本日はM出版のFさんが来訪,「LAPACK入門(仮)」の進捗状況をスパイしに来たらしいので,大慌ててできている処を張り合わせてみた。うろが来たので「ねねね年内には下書き上げますよ!」と宣言して自分の首を絞めて掻き切ってしまったのであった。つーことで年末までにガシャガシャ書いてみましょうぞ。ページ数制限があるのでどーなることかと思うが,まぁ下書きだからっつーことで気にせず書いてみようということに。年末には人の迷惑も顧みず,見てくれそうな人に走行を送りつけようと計画中につき,その時が来たら笑ってメールを受け取って下さいませ。>該当者様

 非常勤先の看護専門学校で統計処理の講座を頼まれてしまった。ボチボチ準備しないとなぁ。社会人の方々向けのExcel統計処理講座のテキスト,ざっと書いてみようかしらん。

 つーことで科研費申請書類も書き終わったし,ガシガシ執筆しましょうぞ。つーても,すでに週14コマモードに突入しているので亀の歩みより遅くなる予定。死なない程度に頑張ろう。

 死ぬといえば,とり・みき先生がTwitterアカウントを消去してしまって寂しいのであった。つられてワシもTwitter引退を考えたが,これってあれじゃん,まるっきり岡田○希子のあの事件以来の「自由落下がおっしゃれーになってしまった」と同じではないか。つーことで思いとどまって今日もTwitterをチマチマ触っているのであった。

 さて今日は風呂入って早めに寝ます。

吉本浩二「カツシン 1巻」新潮社,春日太一「天才 勝新太郎」文春新書

[ Amazon ]「カツシン」ISBN 978-4-10-771770-2, \580 (+TAX)
[ Amazon ]「天才 勝新太郎」ISBN 978-4-16-660735-8, \940 (+TAX)

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 何度か書いていることだが,迷惑な人間のやることなすこと伝聞で聞く限りは,この上ない娯楽である。自分がそういう被害を被った経験があれば,周囲の人々への同情を込めた共感を覚えるだろうし,自分が迷惑をかけた経験があれば,そういう別の迷惑モノへの共感を覚える。どちらにしろ,読み手を駆動させるなにがしかの共感の回路を開くこと間違いないのである。

 加えてもう一つ,人類社会が今のような進化をしてきたのは,こういう迷惑人間が,ともすれば安定した人間関係が作る平和だが停滞した世の中をひっくり返してきたからという事実がある。戦争しかり,革命しかり,テロしかり,そして,もっと卑小なレベルでメンドクサイ迷惑人間がどういう意図を持つのか知らんが面倒事を引き起こしつつ会社の業績を上げたり,学校の知名度を上げたり,何の取り柄もないど田舎を世界に知らしめたりする。もちろん大多数の迷惑人間は本人が反省しない限りいつかは始末されることになるのだが,その「寿命」は迷惑と共にもたらせた「業績」によって伸びたり縮んだりする。その一番分かりやすい例が芸人という奴で,一番著名な破滅型芸人・横山やすしは,苦労人の相方・キー坊(西川きよし)の助力で得た漫才の面白さのおかげで,少なくともキー坊の参議院議員立候補による実質的なコンビ解散までは命脈を留めることができた。「遊びは芸の肥やし」として家族を泣かしても借金してでも客を楽しませてさえいれば許されていた,そんな昭和までの芸人の典型として「勝新太郎」がいた。今回取り上げるこせきこうじイズムの申し子・吉本浩二が描いた「カツシン」は,日本の文化を彩った迷惑人間を描いた暑苦しい傑作であり,そのネタ本の一つとなった読ませる評伝が,熱血時代劇研究家・春日太一が著した「天才 勝新太郎」である。

 吉本浩二のマンガは既にここで手塚治虫のエピソードをまとめた「ブラック・ジャック創作秘話」で取り上げている。本書でも相変わらず主人公である人物の持つ「情念」を描くことを主軸としており,いつも変わらんなぁと安心して読むことができた。その分,時系列的なカツシンの人生の把握ができず,まだ1巻が出たばかりであるからして,この先どこまで続くまで分からない続刊の刊行を待つことができず,手っ取り早く読めそうな春日太一の評伝をAmazonで発注したのである。春日の力量は仲代達矢のインタビュー集でよく分かっていたので,安心して買うことができたのだが,読んでみたらもっと面白かったので,一気に読んでしまった。こうしてワシは吉本のマンガと春日の評伝を通じてカツシンを知ったつもりになってしまったのである。主演映画は「迷走地図」しか見たことがないくせに,である。それだけこの2冊の持つカツシン由来の情念が一読者に過ぎないワシの脳を掻き回したのであろう。

 カツシンと言えば,ワシのイメージではこんな感じである。春日の言を借りれば次のようになる(P.287)。

 多くの俳優たちが「タレント」としてテレビの枠に小さく収まっていく中,時代に迎合しない勝は規格外の存在だった。だが,だからこそ,その言動はワイドショーやバラエティ番組の格好の餌食になった。少しでも勝と関わった人間は,面白おかしく勝のことを語った。そのほとんどは,豪快で金に糸目をつけない酒の飲み方や遊びに関するものばかり。勝は生きながらに伝説の存在になり,人々がそれをデコレートして語ることで,その伝説は一人歩きしていった。

 小林よしりんも一度SPA連載時にインタビューしたことがあるようで,その伝説を裏付ける言動に付き合わされた経験を漫画にしている。だがしかしそれをまともに受け取ってはいけないようだ。春日は続けて次のように述べている。

勝に近づく人間はみな,その伝説を期待した。勝もまたそのことをよく知っていた。彼らに喜んでもらおうと,ブランデーを一気飲みし,金をバラまき,「世間のイメージする勝」という道化を演じた。

 まさによしりんもそんな「世間のイメージする勝」の保持の片棒を担がされたわけである。

 さすがに吉本は春日の著作を読み,春日本人にもインタビューしているため,そんな事情はすっかり分かっており,繊細で臆病,自身が出演する作品は脚本・演出・音楽・編集に至るまですべて自分でコントロールしたがる我儘な芸術家であるにも拘らず,役を通じて世間に持たれた豪快なイメージを維持することに腐心するカツシンのエピソードをうまく拾っている。時系列的にはバラバラなのだが,それは各話ごとに軸となる勝を知るインタビュイーの持つ「印象」を大事にしているためであろう。どんなはた迷惑で魅力的なカツシンであったのかを,動きの書けないヘタクソな止め絵でじっくりねっちり情念を伝える,それこそ,そしてそれだけが吉本作品の魅力であり,吉本が描きたいものなのだ。

 「座頭市」に関してはどうもワシは見る気が起きないのだが,多分,本人がかなり控えめに演じていた「迷走地図」は,原作の持つどす黒いものをうまく隠して上質な政治ドラマになっていてワシは好感を持っている。巷間言われているカツシンも,ちゃんと普通に演技していたんだなよなぁ。吉本のマンガが出続けているうちは他のものも見てみようかな,と,多分この先当分気になり続けるだろうな,きっと。

“Fast matrix multiplication is stable,” but…

 今年(2014年)の3月に応用数理学会連合研究会で多倍長Strassenアルゴリズムについて喋った時に,”Group-theoreticアルゴリズム”の話がちょろっと出たので,Strassenの件が落ち着いた時にちょっと調べてみたのである。・・・なるほど確かに「一時は」盛り上がっていたようだが,実装に絡む大事な論文が消えてしまって以来,どーも最近雲行きが怪しいようなのである。とはいえ,面白そうな話題ではあるし,ちょっとずつ勉強していくには良さそうなものなので,コメントいただいた方に対して「一応は調べてみましたよ」という報告がてら,この記事を起こしたという次第である。「実装に絡む大事な論文」のその後や”Group-Theoreticアルゴリズム”の動向をご存知の方がいらっしゃったら情報も頂けると幸いである。

 つーことで多倍長Strassenの論文掲載が決まったので,ソースも外に出した。ろくすっぽ整理してない代物なのだが,ちょろっと引き合いもあったこともあって,ちゃんと動いているという証拠物件なので早めに出すことにしたのである。
 ちなみにこれ,比較対象のため倍精度の行列積もIntel Math Kernel(IMKL)提供dgemm関数を利用して実装しており,その結果については紀要原稿に書いてある。ま,メインは多倍長行列積の方なので,あくまで比較用なのだが,存外実装が難しいなぁという感想を持った。特に2^nでない行数・列数の時の処理が大変で,今のところは多倍長に合わせてパディング(0要素を詰め込んで2^nの倍数の行数・列数にする)とピーリング(2^nの倍数をはみ出る部分はブロック化して別に処理する)処理を組み合わせて実装しているが,ATLASベースのStrassen実装報告にある通り,倍精度ぐらいだとパディングだけでサイズ合わせをした方が無難かもしれない。ちなみに奥村先生の「C言語によるアルゴリズム事典」「Javaによるアルゴリズム事典」にもStrassenのアルゴリズムの話題があるが,1988年のBailey論文での成果を元にしている「2048×2048の行列積で5割高速」という記述をそのまま真に受けるとバカを見る,ということはATLASベースの実装とワシのやったIMKLベースの実装,両方の結果を見てもらえばご理解いただけるだろう。現在までのStrassenアルゴリズムのサーベイについてはワシの紀要原稿にもちらと書いたが,スポック博士の分厚い本の23章が一番コンパクトにまとまっているので参照されたい。

 つまり倍精度計算だと,キャッシュヒット率・SIMD命令の活用・メモリ操作関数のパフォーマンスによる影響が大きく処理時間に作用することになるので,演算量を多少減らしたところで,Strassenアルゴリズムを実行するために必要となる前処理・後処理をも含めると,全体として処理時間が減らせるかどうかはやってみないとよく分からないところが大きいのである。その点,元々四則演算の処理速度がトロい多倍長計算だと,演算量の減少がダイレクトに処理時間の減少に繋がるので大変分かりやすい結果になる。つーことで任意サイズの行列積の計算がStrassenアルゴリズムで可能になれば,LU分解の処理時間も最大3割減となるのである。逆に言えば,今時倍精度計算でLU分解に適用しても,PC単体のオンメモリで収まるサイズの問題程度では殆ど効果はないのでは,と思えるのである。Bailey先生のCray-2と今のx86環境とでは,キャッシュやSIMD命令をサポートしたアーキテクチャも大分異なっているので,同一視してはいかんのである。

 そんだけ,今の計算環境では高速だが前処理・後処理の複雑なアルゴリズムの実装は職人芸が必要であり,ましてやStrassenやWinogradアルゴリズムよりも複雑怪奇な”Group-Theoretic アルゴリズム”って奴の実装は相当な困難が予想される。これについてはオリジナルがこれで,それに対して誤差解析の観点から”Stable”という判定を下した(イマイチ疑問があるのだが)論文がこれであるらしい。後者については査読論文になっているようなので(これ),内容的にどうこういう気はないのだが,問題は後者の奴にある参考文献[8]。どうやら実装した結果についての報告らしいのだが,検索しても見つからないし,同様に実装した結果について記述したものが一つも見つからないのである。どなたかチャレンジして失敗したって記述でもあるなら分かるんだが,どーも今のところちゃんと実装した人が一人もいないんじゃないのかとワシは大いに疑っているのである。参考文献[8]が見つからないのは実装に失敗したか,作ってみたけど倍精度程度では高速にできなかったんじゃないのかな~,と今のところ考えている。ま,Strassenアルゴリズムの結果を見る限り無理もないかなぁとは思うのである。前処理と後処理にめんどくさそうなFFT?を使っていようだから,かなり難しいんじゃないのかしらん? まぁだからこそ「多倍長でやってみたらいいのでは」というご意見も分かるんだけど,さーて・・・?

 と,この先はワシが考えていけば済むことなので,少し時間をかけてアルゴリズムを解読してみるが,何分,かなり浮世離れした感のある研究テーマだし,その後の進展が聞かれないところを見ると,いろいろ実装上の困難もありそうである。だからこそのチャレンジングなテーマとも言えるけど,そういうのはもっと頭のいい人に取り組んでもらえないかなぁと思っているのである。もしどなたか既に着手されてそれなりの成果が出ているようでしたら,お知らせ頂ければ幸いなのである。あ,黙っていてくれと言われれば黙ってますのでこっそりでも結構でございます,はい。

10/8(水) 駿府・晴

 今週は月曜日から台風18号のあおりで急な休講日となり,どうも調子が狂っている。来週にはさらに強力な19号が来襲するというし,どうなっちゃうのかしらん? 富士~興津のJR東海道線が崖崩れでストップしているため,新富士~静岡の新幹線に振り替えており,朝方のラッシュはえらいことになっている。まぁワシはどっと静岡で降りた後に乗り込むので大した影響は受けていないのだが,大量に降りてくる乗客を待たねばならないのでちょろっとイラつくのであった。

 今週イマイチ調子が出ないのはもう一つ,論文掲載が決まって気が抜けたということもある。あっさり注文もなく通過したってのが初めてなので,「さぁどんな修正でもかかってこいっ!」と身構えていたこちらとしてはしおしお~になるのである。ありがたいのではあるが。
 それはいいとして,どうも掲載は数か月先になるよーな感じなので,かねてよりお約束の件をいつ履行していいのか困っているのだ。つまり,「この論文が載ったら髭を剃る」と宣言していた件である。
 つーことで,家庭内会議を開いた結果,結婚前の交際時以来,髭なしのワシを見たことのない(写真ではある)神さんとしてはイマイチ賛成しきれないようで,しかし怖いもの見たさでしぶしぶOKといったところ。まぁ年末~年度末あたりでバッサリスッキリいたしましょうぞ。しかしこの論文,いつ載るんでしょうね? 今年最初のaccept論文が今頃ようやっと載るって感じだと,年度内業績にはならない可能性大かしらん?

 あ,そうそう,「情報数学の基礎」第3刷決定しました。つーても900部だから,ボチボチ絶版が近いかなぁ? ご愛用頂いている大学の方々,お世話になっております。ゆとり教育が終わったとはいえ,高校数学の内容を把握していない学生は大勢居りますんで,一つごひいきに~。

 さてもう一つ書いておかねばならない話題があるのだが,これは別稿に回そう。掲載予定論文の内容にも絡む件なので少し長くなりそうだし。

 つーことでボチボチ寝ます。