[ Amazon ] ISBN 978-4-8211-3566-0, \1000 + TAX
内田春菊のエッセイ漫画に外れはない。流麗なペンタッチが白い画面に艶めかしい柔肌を描き出す。それでいて,内容はシビアで容赦ない。ダメンズを次々に恋人にして子供を作り,ダメと分かった時点で放り出す。内田本人の生命力・経済力が図抜けている分,割り切り方はスッパリしていて小気味良い。ワシはその力強い生き方を描いたエッセイ漫画である「私たちは繁殖している」は読んではいたものの,途中で脱落していたが,続刊が次々に出ているのを見るにつけ,このまま佐藤愛子か瀬戸内寂聴のように「完成」していくのであろうなと思っていたら,大腸がんになってしまったという。その顛末を,手術直後まで描いているのが本書である。その後については連載中なのでまた続刊が出るとのことである。
20年以上前,オストメイトの方と仕事をしていたことがある。当時は人工肛門をサポートする技術が未熟だったらしく,アンモニアの匂いが漏れてはた目から見てても気の毒であった。さすがに最近は匂い消しフィルター付きの排便袋になっているらしく,昔よりずっと活動しやすいようである。その辺の事情については,内田のインタビュー記事((1),(2),(3),(4))を読むとよい。本書を買って読む気のない人にはこちらを勧める。
しかし,ワシとしては,本書まるごと読まれることをお勧めしたい。ガン発覚のいきさつから,治療方針が決まるまでの医療機関とのゴタゴタ,そして最終的に人工肛門を形成するに至るまでの一部始終が流麗なタッチで描かれていることが,がん治療というものの真実を知るいい資料になっていると感じるからである。
内田春菊は我慢しない。言いたいことは言うし,やりたいことはやる。それ故に医者との軋轢もあったりするが,そのおかげで信頼できる医師とはしっかりしたコミュニケーションが取れており,家族(子息)からサポートも篤い。科学を無視した耳障りがいいだけの暴論がSNSに蔓延る昨今,客観的な科学の知識に基づき,自分の意志の表明を躊躇なく行うことの重要性を知らしめる本書は,がんを含めた病とともに生きていくワシら中高年にとっては,良い資料となるに違いないのである。