澤江ポンプ「パンダ探偵社」リイド社

澤江ポンプ「パンダ通信社」リイド社

[ Amazon ] ISBN 978-4-8458-6007-4, \670+TAX

 新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。

 2019年冒頭のぷちめれに相応しい一冊をご紹介したい。内容的には,手塚治虫の「きりひと賛歌」とつげ義春の「鳥男」をミックスしたような動物変化SFモノかと思い,ネットで見かけた第1話を読んでその意を強くしたのだが,今回,第5話まで収録した単行本を読んでみたら大分印象が変わったのである。もちろん,作者が意識したかどうかは不明なれど,本作の世界観は過去の大家の秀作に共通したものがあるが,現代社会を覆う閉塞感の中に清涼なユーモアをまぶしたファンタジー的ミステリー作品なのである。白さを生かしたセンスの良い画風は女性マンガを思わせる品の良さがあり,現代日本マンガがいかに高い峰を築いているか,世界に向けて印籠のように振りかざすに相応しい作品と言えるのである。

 リイド社といえば「さいとうたかを」抜きでは語れない。つーか,ゴルゴさいとうを支えるための会社であったものが,大御所の引退後を見据えたのか,単に経営陣がトチ狂ったのか,伝統的劇画路線とは真逆のマニアックな(かつての)ガロ的漫画作品を出しまくる「トーチweb」サイトを構築したのである。ネットで作品をバラまいてはTwitterで周知しまくるという地道ながらもウザい戦略で,正直,ワシの好む作品はそんなにない・・・つーか,本作以外にちゃんと読みたい作品と言えば佐藤秀峰と肋骨凹介ぐらいかなぁ。特段マニアな人間ではないワシは,作家の本能に忠実なゲージツ的作品ってのが苦手なのである。エンターテインメントに徹した,面白くて読み飛ばせる分かりやすいストーリー運びとコマ割りでないと,近寄りがたいものを感じてしまうのである。

 その点,この澤江ポンプの本作は,ギリギリ受け付けることができるゲージツ性を持ちつつ,しっかりエンターテインメントとして機能しており,マニアでない読み手でも面白く読めるだろう。画力の高さが目を引きつけるのか,読了までに時間はかかったが,それは,白いながらも「意味」を込めた優れた絵に魅了されるところが多いせいだろう。動物や植物にDNA的に変化してしまう奇病が蔓延る閉鎖的雰囲気漂う社会を描写しながら,だから何?と言わんばかりの運命の美しさを表象する。羽を広げた鳥少女(第1話),躍動する水泳アスリートの逞しい肉体(第3話)、ギガンテウスオオツノシカに変化しつつある半獣半人の老人の不気味さと完全に獣化した姿の神々しさ(第4話),抗えぬ運命の果てに現れる美は,エンターテインメントを越えたゲージツ的なものに昇華しているのである。

 主人公はパンダ化しつつある青年であるが,病気のために教職を首になった彼を雇った竹林も実は・・・というところで第一巻は終わっている。続きは今年の秋に出る2巻を待つか,Webで読むしかないようなのだが,ワシは単行本を待とうと思っている。今年の世界は混迷を深めるに違いないので,現実世界に不安を感じつつ本書の続きを読むべきと考えているからだ。マゾ? そう,本書はゲージツ的ムチを振るいながら読者の目を引きつけ,エンターテインメントの渦に放り込んでくれる傑作であるからして,リアル社会にきりきり舞いしていた方が,竹林の抱えている不安と伴走する楽しみが倍増するに違いないのである。