小林信彦「物情騒然。」文春文庫

[BK1 | Amazon ] ISBN 4-16-725616-9, \619
 まあ大体,「団塊の世代」以上の方々の言うことをいちいち真に受けて聞いていては身が持たないのである。こんだけ財政赤字を抱えつつ,今までどおりの年金支給額を維持することは無理。支給額を抑えつつ,年金受給者からも幾分かの負担をお願いするため消費税率のupをするか,どっかの補助金をカットするか,政府の機能を小さくして支出を減らすか,いずれは決断することになろう。どれから手をつけるかは政治的な力学に左右されるだろうが,「どれもこれも一切ダメだ!」という主張をまともに聞く必要がないことだけは断言できる。勝手に言わせておけばよろしいのである。「我々の既得権益を守れ!」という主張には「ワシらの権益はどーでもええっちゅーんかいっ!」という反論で十分だからである。
 故に,この方々のこーゆー主張は気楽に聞けるのである。聞き流せばいい話だからである。それを一切除いた後に,ためにする部分が残るのであればそこだけを記憶しておけばよい。最近のなだいなだや小林信彦の著作にはこの手の聞き流せばよい嘆き節が多くなってきて少々うんざりしている。が,それでも読み続けているのは,まだ「ためにする部分」があると思われるからである。
 本書は連載コラム「人生は五十一から」をまとめたもので,4冊目にあたる。ワシは文庫化されたこのシリーズは全部読んでいるが,一番の売りは著者が体験してきたエンターテインメントの歴史についての記述であろう。それも長く続けているためであろうが,「繰言」めいてくるとちょっとくどい感じがする。著者のお年を考えるとやむを得ないのであるが,愛読者としては著者の「老い」が感じられ,少し悲しい。解説の芝山幹郎に言わせるとこの点は優れたワインの「高原状態」を示す指標となるのであろうが・・・うーん。
 それでも,帰りの新幹線車中で一気読みしてしまったのは,やっぱり基本的には一定水準をクリアした「おいしいワイン」である証拠なのであろう。老いたとはいえ,著者の筆力はまだまだ健在,ということである。その点だけは保証する。