永田礼路「まどいのいきもの」1巻,小学館

永田礼路「まどいのいきもの」1巻,小学館

[ Amazon ] ISBN 978-4-09-8638246

 大体,国家資格である医師免許を持って居ながらにして,歌人になったり作家になったり漫画家になったりソフトウェア作ったりという人種がいること自体,人間の持つエネルギーや能力は不平等極まりないなということを痛感させられるのである。古くは斎藤茂吉から始まって息子の北杜夫,渡辺淳一,手塚治虫という超ビッグネーム迄居る始末。困ったことに,医療は自然科学から人間心理学から社会学までネタの宝庫であるから意欲さえあれば書く材料には事欠かない。エッセイ漫画から重厚な人間ドラマまで幅広の題材が選べるだけに,読者としては楽しみが多くなるわけだが,SF畑出身(?)の永田礼路はファンタジー路線に「ロン先生の虫眼鏡」とか岡崎二郎的な生物学蘊蓄的な方向で連載を持つに至り,今回めでたく商業単行本を刊行することができたのである。

 著者の永田がどういう遍歴を経て医者兼漫画家なったのかということを知りたければ著者のエッセイ漫画(前編後編)を読むのが良い。最近ではベテラン漫画家が自分の人生を振り返った作品を描くことが多いが,割と若いうちに,というか,まだまだ現役真っ最中でまだキャリアの半分ぐらいじゃないのという向きも,一息つきたいということなのか,はたまたこれからを見据えてということなのか,来し方を振り返った漫画を描いたりすることがある。古くはとり・みきの「あしたのために」というギャグエッセイ漫画があったが,やっぱりキャリアの合間にヒマができたりするとその手の吐露をしたくなるのかなと勝手に想像しているのである。

 永田の場合,手塚ほど漫画にのめりこんでそっちを本業にしたというほどではないにしろ,本業と並行してのデッサン教室通いをしたり,出版社に持ち込みしたり,同人誌を作ったりと,かなり漫画の方にも気合いを入れて取り組んだようである。そのせいか,画風はオーソドックスながらも画力は高く,それでいて上品なユーモアを醸し出しているあたり,ワシの好みの一端とフィットしている。もうちっとエロいと個人的には嬉しいのだが,そのあたりは教養が邪魔しているのか,正直前作はう~んという感じであったが,本作は自然体でオチの効いた読み切り短編としてまとまっており,しかも一口メモ的な生医学的エッセイ付き。エンターテインメントだけでは物足りない小うるさいオタク気質の読み手にはお勧めできるものとなっている。それでいて通底するSFミステリー的伏線を感じさせるところもあり,打ち切りになっちゃった過去作よりも良い着地になることを願っている・・・いやまぁ続きは同人でという手もあるんだけど,正直,売り上げと読者からの反応を気にする編集者が関わらない作品には「ゆるい」感じが付きまとうことが多くて,個人的には好んでも人様にはイマイチ勧めづらいところがあるのだ。いや,これは理工学書を書いた経験しかないワシも痛感するところで,好き勝手書いたものよりは読み手を気にした記述が多い方が格段に良いものになっていること間違いないのである。

 とゆーことで,2巻以降が紙媒体で出るかどうかは不明なれど,電書であっても商業連載作品としては一定の面白さを保つためにも続いて欲しいと願っている。胡乱な学者タイプの医者と謎な女性(?)看護師が紡ぐSFショートショートっぽいテイスト,今となっては天然記念物的希少価値のある作品なのである。