得能史子「まんねん貧乏」ポプラ社

[ BK1 | Amazon ] ISBN 4-591-09509-6, \1000

まんねん貧乏
まんねん貧乏

posted with 簡単リンクくん at 2006.11.18
得能 史子著
ポプラ社 (2006.11)
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 このエッセイ漫画を発見したのは,いや,正確に言えば,発見「させられた」のは,先日訪れた札幌の,程なく閉店するという書店においてであった。
 この書店は,2階が漫画専門フロアになっているのだが,ここの品揃えは全国的に見ても面白いものであった。今や落ち目になっている漫画家や,ほとんど無名と思われる漫画家の作品が妙に目立つ配置になっていたりして,高校生の頃からちょくちょくチェックさせてもらっていた。いや,勉強させて頂いていたのである。
 本書もそこでドカンと平積みになっていたのである。特等席ではないものの,一番店の奥の台に,この白い,それでいて何か惹かれる絵の表紙のこれが積まれていたのであった。
 不幸にしてその時ワシはあまり持ち合わせがなくてスルーしてしまったのだが,本日(11/18),紀伊國屋書店新宿南店にて本書と再び邂逅したため(平積みではなかった),無事ゲットして,帰りの新幹線車中で読了したという次第である。これは札幌の閉店書店がもたらした「縁」という他ない。
 札幌で本書を手にとって気に入った理由は四つある。
 一つは,著者の得能(とくのう,と読む)がワシとほぼ同年配の女性だったということである。大体,どーゆー訳か,自分の生年すら明らかにしない女性漫画家の何と多いことか。特にBL系は惨憺たるもので,そんなに三十路過ぎて男×男を描くのが恥ずかしいんだったら描くのを辞めたらどうか,というぐらい多い。それに引き替え得能のこの開けっぴろげな態度は素敵である。
 二つ目は,最近結婚した相手がNew Zealerにも関わらず,それを一切ネタにしていない,ということである。こんなおいしいネタを持っていれば,ポプラ社の小栗左多里にもなれるというのに,何と慎ましいことか。・・・最も本書がそこそこ売れて,続編が執筆されるとなれば変わってくるのかもしれんが。
 三つ目は,絵がうまいということである。今日日,女性のエッセイ漫画家は掃いて捨てるほど出版されており,絵の巧拙は,素人に毛が生えた程度から,西原理恵子黒川あづさ級まで,天と地の差がある。もちろん,それと内容の面白さは別物であるが,読者だってそう安くない金を払って本を買うのであるから,絵がうまいに越したことはないのである。
 得能の絵は,2~3頭身の丸くて簡素なものであるが,立体を立体としてキチンと捕らえており,それでいて適度な湿り気を感じさせる優れたタッチも備えている。本書が刊行されることになったのは,ポプラ社の編集者が偶然,Webページに掲載されていた得能の4コマ漫画を発見したことが切っ掛けとなったのであるが,編集者の「目に止まった」ということが,絵の魅力を物語っているとも言える(たぶん)。カラーページは皆無な愛想なしのエッセイ漫画であるが,多分それはこの描線の持つ魅力を最大限引き出すための仕掛けであって,決して得能がメンドクサがったわけではないと思いたいのだがどうなんだろう。
 しかし,最大の理由は,何と言ってもタイトルにある通り,自分のビンボウ暮らしを描いている,ということである。
 今日日,日本社会,いや先進諸国は「下流化」「二分化」が社会問題のパラダイムになって久しく,それを冠した書物は沢山出版されている。しかし,「下流」人間の当事者からの生の声を,2,3行のインタビューの抜粋ではなく,ごそっと固まりで差し出してくれるものを,ワシは見たことがなかった。本書は20代から30代を「フリーター」として,本人曰く「人生をなめてかかって」過ごしてきた下流人の生の声が詰まっている希有なものなのである。
 多分,編集者も著者も,ライトなエッセイ漫画を描いて出版したつもりなんだろうし,概ねそのような記述が多いのだが,結構,ちくちくと胸を刺すエピソードがちりばめられていて,三十路過ぎのフリーターに対する世間の厳しさが伝わって来るのである。その結果,ワシにとってはとてもライトエッセイ漫画と呼べる代物ではなく,得能の丸い自画像の,欠けたラグビーボールのような目の奥に潜む,マリアナ海溝より深くて暗い何かを見てしまったような,そんな大仰な形容詞を使いたくなるような感想を抱いてしまうのである。
 一番うるっときたエピソードは,小銭を貯めて美容院に行く話である。内容は本書を読んで確認して頂きたいが,ワシはこのユーモラスな記述の奥にある,悲しみの大きさに感動してしまったのであった。これって,勝海舟が貧乏だった幼少の頃,餅をもらいに行った帰りに落っことしてしまい,それを拾おうとして自分の惨めさに気が付き,餅を川に投げ捨てたっていうエピソードとよく似ているんだよなぁ。大金持ちでもない限り,誰しも似たような「惨めさ」は味わっているのではあるまいか。
 貧乏とは,金がない苦しさではなく,将来に対する不安だ,というのは誰の言葉だったか。簡素な絵でそれを背後に感じさせてくれるこの作品は,一定レベル以上の画力があってこそのものである。得能の「だらしない私を笑って」というへりくだった態度は日本の強固な伝統に基づくものであるけれど,多分,「だらしない私」を一番いとおしく,悲しみをたたえた存在であると知っているのは,得能自身なのだ。そして,それに共感している同世代の中年たるワシも,収入の違いこそあれ,「だらしない私」を抱えていること間違いないのである。
 ワシの考え過ぎなのだろうか? それは本書を御一読の上,各自で確認して頂きたい。

11/15(水) 掛川・?

 用事が立て込んでパッツンパッツンになりつつあるので簡潔に。
 LAPACK 3.1がリリースされる。0.1のマイナーアップデートにも関わらず6年ぶりっつーことは,線型計算のベース部分はほぼ出来上がったと言うことか。線型な方々から総スカンを食いそうな発言だが事実は認めて欲しいものである。
 Quad-core が正式にリリースPC Watchのベンチマークは・・・何だか効果が出るとも思えないことを無理矢理やっている(比較対照のために必要なんだろうが)感があって気の毒である。つーか,アプリケーションのMulti-thread化が全然進まない理由の方が気になるな。
 1.金にならない
 2.速くならない
 3.Multi-threadって何?
まさか3ではあるまいと信じたい。
 情報処理学会から「情報」未履修問題に対する意見が出る。まーしかし,数学や理科の時間を削って情報をやれという意見は少数派なんだよな。言っても効果はなかろうが,言っておかないと存在が問われるから出したという感じである。本気さが感じされないのはその辺が原因か。
 明日は東京で研究会聴講。次週は広島行き,その次は京都・・・死のロードは佳境である。死なないように頑張ります。

「高橋敏也の動く!改造バカ一台」 Impress TV

[ Amazon ] ISBN 4-8443-7022-7, \2980

 旧・通産省,現・経済産業省の旗振りのもと,文部科学省が大学理工系学部が産学連携に邁進するのを黙認して以来,日本の科学技術は企業と大学を巻き込んでグローバルスタンダードに挑み続けている。その動きを苦々しく思っている大学教員もいるが,ワシ自身はそのこと自体は別段悪いことではないと思っているし,世界規模で技術競争が激しくなっている現状を考えれば,遅きに失したぐらいである。
 しかし,著しく欠けている要素がある。それは日本のサブカルチャーの伝統であり,特に

ギャグ成分

が足りない。決定的に足りないのである。
 間違っても,「ユーモア」ではない。そんなスノビッシュなえげれす風味の斜陽帝国人種が好む代物ではない。あくまでも「ギャグ」である。鴨川つばめが立ち直れなくなり,江口寿史が白いワニを出して遁走し,いしかわじゅんが海外に逃亡し,吾妻ひでおが失踪した原因となった,「ギャグ」である。
 困ったことに,かように偉大な先人たちが次々に討ち死にしていった結果,それに続く若い世代は自分大事とばかりに長持ち志向であり,自らをすり減らしながらの「ギャグ」に邁進する者は少ない。そのためもあってか,産学連携においてもギャグ成分に全く欠いており,サブカルチャー大国としてはまことに物足りないと外務大臣がお嘆きである。ワシも大いに同意する次第である。
 しかし,最近は堅苦しくマジメ路線を歩んでいた産学連携に熱心な方々も反省したらしく,つい最近,その成果が函館から発信されるに至った。残念なことに,今ひとつパンチに欠けるロボットであり,現時点ではみうらじゅん言うところの「ゆるキャラ」にカテゴライズされるレベルであるため,ギャグというよりはまだユーモアベースにとどまってしまっている。それでも日本のお家芸をハイテクノロジーを用いて取り戻そうとするその情熱には敬意を表したい。
 そんなギャグに欠ける技術世界に,ギャグをストレートに持ち込んだ唯一の例外がこの「動く!改造バカ一台」である。
 このDVDは,Impress TVの超人気コンテンツの第1話から第20話まで収録した「だけ」の,オマケ動画も説明冊子も何にもない,近頃の過剰オマケに満ち溢れたDVDとは一線を画するスッピンDVDコンテンツである。しかし,それはImpress TVのコンテンツに対する自信の現われであり,決して手抜きでも売れ行きに対する期待のなさでもないはずだと信じたい。
 
 ギャグに必要なのは正確なセンスと過剰さであり,ギャグセンスの示す方向を性格に目指して真摯な努力と体力を注ぎ込むことによって得られるものである。かのエジソンもギャグには「99%の汗と1%のセンス」が必要であると述べている通り,汗もセンスも欠けてはならないのである。
 高橋にはその両方が備わっている。さすが故・矢野徹御大が見いだした人材だけあって,科学技術の無駄遣いっぷりと,計画がものの見事に失敗したときの愚痴りっぷりには,文章だけからは分からない「ギャグ魂」が籠もっている。それを見事に引き出しているディレクター・トッポ松浦氏の飄々とした突っ込みには大阪漫才の息吹が宿っており,日本の民俗芸能の精神も伝わっており好ましい。
 個人的には第21話以降が好みなのであるが,それが収録された第二弾DVDが出版されるには,本DVDがImpress TVが予想する以上の売れ行きが是非とも必要であるに違いないとワシは確信しているのである。従って,産学連携に勤しむ技術者・研究者・教員の諸氏には是非とも本DVDを購入し,ギャグ成分を研究に持ち込むべく参考にして頂きたい。多分,文部科学省も本DVDを研究費で購入する分には税金ドロボー扱いにはしないはずである。ちなみにワシは私費で購入したので誤解なきように願いたい。

11/12(日) 掛川・快晴

 朝の5時頃,寒くて目が覚めてしまった。毛布を一枚引っ張り出してかぶるとちょうど良い。再び浅い眠りに落ちるも,8時頃に自分のイビキで目が覚めてしまう。うう,睡眠時無呼吸症候群一歩手前か。ここんとこ,肥満気味だからなぁ。折角スポーツクラブに会費払っているんだから,寝る前に一運動するぐらいのことはすべきだろうなぁ。今週はちょっと頑張ってみるか。
 なんか職場の上の方から,うちのWebページの充実を図る方策を考えてくれという,非公式打診があった模様。そんなもん,うかうかと提言なぞしようもんなら,「じゃあ言い出しっぺがやってくれ」ということになるに決まってんじゃん。しかし,言いたいことは山のようにあり,それを黙っていられない性格でもあるので,ここでそれを吐き出し現実社会では黙秘を通すことにする。
 大体,Webページの保守管理なんてのは従の仕事であって,一生懸命やったところで自分の実になるものではないし,業績評価が上がるわけではない。そこがエライ人は分かっていないのではないか。
 更に言うなら,Webページも含めたIT活用術は既にMS Officeの扱いに長けるだけという段階を過ぎ,熟練(センスも重要だが)を要するものになっているという事実をまだ認識していないのではないか,と思えて仕方がないのである。
 今,個人のページが曲がりなりにも充実している連中はワシも含めて1990年代後半のInternetブーム(その時は「ホームページブーム」と呼ぶべきものであったが)に便乗して,シコシコとHTMLを手打ちしたり,機能の足りないAuthoring toolを苦労しながら操って自分のWebページを立ち上げた,いわば「Webページのベテラン」揃いなのである。やれデザインが悪いだの,やれ掲示板が貧弱だのと言われつつ,あーでもないこーでもないとコンテンツデザインをチマチマと修正しつつ,「自分の個性とは何か」を自問自答して今日の個人ページがあるのだ。
 つまり,充実した個人ページとは,年期を経た盆栽のような存在なのである。素人目にはAuthoring toolやCMSのテンプレートにはめ込んだだけの代物も,枯淡の味わいを醸し出している盆栽個人ページも同じに見えるかもしれない,いや後者の方がビンボー臭く見えるだろうが,前者はどこにでもあるデザインなので,あっという間に見飽きられてしまうのだ。もちろん,更新が全くされていない盆栽とは非なる「枯れ木Webページ」では仕方ないが,下手は下手なりに手を加え続けて十年も経てばそこには否応なく「個性」が醸し出されているのであり,それは他人が真似しようにもそう簡単には出来ない代物になっているのである。
 そんな「個性的」なWebページが,誰にでもすぐさま出来上がるものだと思っている人は,モノを知らない若造か,IT革命ともてはやされた数年前の感覚を未だ引きずっている年寄りだけであろう。少しは「ほぼ日刊イトイ新聞の本」や「ほぼ日刊イトイ新聞の謎。」でも読んで,その苦闘ぶりを骨の髄まで叩き込んで,反省しなさいっ!(「謎」本はまだ読んでないけど労作みたいだ,楽しみ。)
 そーいや,Mさんに教えてもらったVine Linux 4.0のリリース,トラブルで延期状態なんですな。楽しみにしてたのにー。今年度末までにVMwareでMPI clusterを作るマニュアルを仕上げたいのだが,間に合うのかしらん?
 おおもったいないぞ,CPU Tree! マザーボードに取り付けて電源を通せば,並列分散処理が出来る画期的なTreeになったところなのに。って何万W必要になるんだか。Celeron, Pentium 4, Pentium D等の混在環境だからちみっとHeteroになるけどね。穴あけて飾ってあるって事は,不良品だったのかなぁとは思うが,どうなんでしょうな。
 あー,完全な冬型気圧配置らしく,雲一つない空の下では乾いた寒風が吹きすさんでいる。これからゆっくり布団シーツ干しをして,買い物をして,出張連チャン地獄(自分で選んだんだけどさ)を乗り切るための英気を養います。

11/10(金) 函館->掛川・曇

 只今最終の新幹線で帰宅。いやー,今回の研究会は有意義だった。主催のS先生の努力で参加者数は過去最高(多分)だったし,将来の方向性も少し見えてきたようである。無理していい加減な講演をしなくて良かったとつくづく思う。おかげで自分の考えをまとめる時間も情報交換(つーか一方通行だな)できたし。帰りの新幹線車中でこれに出すネタも出来たし(数値実験が必要だが)。6月に喋るのがいいのだが,その前にイッチョ揉んでもらった方がいいだろうし(無視される可能性大だが,まあ一人か二人は相手してくれるだろう)。
 ホテルで寝冷えしちゃったので,ちょっと熱っぽい。早々に寝ます。