5/22(木) 掛川・?

 暑くなるという予想だったがそれに反して過ごしやすい一日であった。
 Windows XP SP3,本日から一斉にWindows Updateにて配布される。でかいし重いし好きこのんで入れたいとは誰も思わんだろうが,この先当分XPを使い続けねばならない環境では入れないという選択はあり得ないのである。で,手近なものだけ入れておく。
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 3月に引き払ったアパートの敷金,返金ゼロという報告が届く。何にもしなかった癖にその前年に支払った敷金も返ってこなかったことを考えると,少額訴訟を起こせばいくらかは取り返せるとは思うが,高々○○万だからなぁ。まあ今回はこの辺りで妥協しておこう。
 以下気になるニュース2件をメモっておこう。
小売業でセルフレジ拡大・専用機で客自ら決済」(日経新聞)
 買い物に行った時ぐらい,人様の厄介になりたいもの。なんでそこまでして自分の仕事を自分でやらなきゃならないのか,理解に苦しむ。ワシは行列に並んでも,バイトやパートのおばちゃんにレジを打って頂きたいと思う派である。
法科大学院、10校で定員減を検討…司法試験合格率低迷で
 それみたことか,という声が大学関係者からたくさん聞こえてきそうであるが,わしは本記事中の最後のコメントが一番気になった。

>  複数の大学院関係者は「目先の授業料収入より、優秀な学生の確保を優先しなければ生き残れない」と話した。

 今でも現にそうだし,この先も法科大学院に限らず,更に「優秀な学生」を囲い込む動きが加速するんだろうなぁ。で,優秀でない学生はもっと差別的な扱いを学校教育,いや社会全体から受けるようになる訳である。
 最近は特に親からのクレームを恐れて個別に学生さんを叱ることを躊躇する教師が多いから,小中高大,全体的に,学習目標未達成のまま進級させるようになってきている。となると,どこにしわ寄せが来るか。就職の際,学生さん自らでかい壁にぶち当たることになるのだ。この時点でようやく学生さんに,周囲からの生の評価ってのを聞かせ,納得させることができるのである・・・が,遅いんだよ,時既に。これをゆとり教育の弊害と簡単に片づけるのは虫が良すぎるよな。何でもゆとり教育のせいにする輩自身,ちゃんと若年者に直接意見をしてきたか,甚だ怪しいもんである。
 明日に備えてサッサと寝ます。

5/21(水) 掛川・?

 昨日は一コマ目の講義終了後,東京へ。NEC本社でHPC研究会である。
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運営委員会には間に合わなかった。むーん,かえって良かったかも。今後は座長を引き受けると面倒な書類を書かねばならんらしい。剣呑剣呑。
 個人的には,並列IDS法の最適化と並列タスクの理想配分問題の話が対照的で面白かった。前者は完全に経験論的なアプローチで,最適化の余地は大いにあるが,ユーザの立場としては分かりやすいやり方である。対して理論的に厳密な並列タスク配分問題の解を見つけるというアプローチは,議論の余地がない最適解を見つけようと言う話だから,目標設定には有効であるけど,「いいじゃんタコなアプローチで十分なのよ」というユーザに対してはあまり関係がないと思われるかな。しかし30年以上も費やされてきたのに実用的に有効なものがなかなかない,というのはちょっと放置プレイが過ぎる気もする。理論屋さんが極端に少ないHPC分野の事情なんだろうが,少しは飯の食い上げている数学屋(OR屋かな?)が乗り込んできてくれてもいいよね。
 白眉はやっぱりCudaを使ったGPUCPか。ふーん,CPU計算よか50倍ってのは凄いね。これから続々とこーゆーアプローチが出てくるんだろうなぁ。プログラマの手があるならワシも手がけたいが,ま,無理である。
 帰りは「靖国」を見て終電で帰宅。
 本日は給料日。支払い損ねていたNAS2008の参加費を振り込む。実行委員の癖にこれはいけません。いけませんたってないものはないのであるからしょうがない。職場のATMで財布を潤してからその足ではしかの抗体検査を受ける。子供の時に予防注射を受けているそうだが,まああれから40年近く経っているのだからなぁ,ワクチンも薄まるわな。結果がちょっと楽しみ。
 へ~,HPから魅力的なMiniPCが出た。最高でも8万円でVistaマシンが買えるのだからこれはいい。英語キーボードモデルしかないってのが玉に瑕か。これから続々とこの価格帯のマシンが出てくれると,一台ぐらい買っちゃうかもなぁ。
 風邪,ノドがナカナカ治らない。でもはしかでなくて良かった。風呂入って寝ます。

李纓・監督「靖国 YASUKUNI」

[ 公式サイト ]
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[警告]以下の文は,相当なネタばれが含まれますので,これから見ようという方は読まない方が得策です。
 自民党の一国会議員・稲田朋美が騒いだせいでかえって前評判が高まった,という皮肉な効果を生んだ映画である。ただそれだけならワシもDVDが出るまでは待っていようかと思っていたのだが,どうも見た人の反応を聞くと,左寄りの方々の評価が高いのは当然として,右寄りの方々の評価も悪くない。ほほう,それならウヨクなワシも楽しめそうだな,と,出張(旅費は自腹だよ言っとくがな)の帰りに渋谷の小さな映画館,シネ・アミューズで本作を見てきたのであった。
 で,率直な感想だが・・・なるほど・・・血沸き肉踊るという類の面白さとは真反対の,静かにジワリとくる荘厳さが感じられる作品になっていた。荘厳さの一因はバックグラウンドミュージックに重苦しいクラシック音楽が使われていたためだろうが,それ以上に,この映画が説明を極力排し,ノンフィクション映像を積み上げることだけで成立している,という事情が大きいと思われる。
 あ,いや,左右の方々,ちょいと「靖国論争」をする前に,映画の説明をさせてくれ・・・だめ? おっ,ちょっと暴力はいけません。手を出す前に,まず口で。じゃ,先に,えらく本作に対してご不満な様子の右の方から。・・・え,何? 映画の最後に長々と挿入される戦前・戦中・戦後のスチール写真の羅列は日本(軍)人の残酷さばかり強調していて偏向している? これも含めて後半は靖国反対論者の意見ばっかり集めて後味が悪いと。なるほど。
 左の方,何か言いたいことはありませんか? ・・・え,全体的にはいいと思うが,不満もある,と。もっと靖国神社の恐ろしさを延々と語れ,日本の将来の禍根はここにあるのだ,もっとマイケル・ムーアのように監督自身が出張って主張して突撃取材を敢行したっていいぐらいだ・・・あ~あ~分かった分かった,そのぐらいにして下さい。
 ・・・・何が言いたいかというと,本作前半に靖国神社を支持する人々の主張が,本作後半にはそれに反対する人々の主張が,バランス良く配置されている,ということなのである。もちろんこれはワシが映像をワシなりに「解釈」した結果,そう思ったというだけのことで,映画では何のナレーションも入らない。淡々と事実を伝えているだけなのである。
 そうなると,これらの映像からはまた別の解釈も可能となる。本作を貫くのは,靖国神社のかつての刀匠のカットであるが,所々に監督自身による刀匠へのインタビューも入る。これがまた黙して語らずというものが殆どで,監督の質問に明確な回答をしていないのだ。それをあえて使った監督の作意としては,戦争には反対だが靖国神社の存在は暗黙のうちに支持する,という日本人が結構な割合で存在している,ということを示したかったかな?・・・というように,この部分だけでなく,あのパトカーに乗せられた左翼青年の行動の意義はどうなんだとか,徒党を組まず一人夜中に参拝する軍服姿の兵隊さんの真意はどこにあるんだとか,ありとあらゆるカットについて,映画を観終わった後にあれこれ想像を膨らませることができるのである。
 これはつまり,反日とか反靖国という主張とは別に,映像そのものに芸術的価値があるということを示している。フィクションの映像が皆無な本作にして,多様な解釈を可能ならしめるものを作り上げた,ということは,何はともあれ右も左も国籍も関係なく,監督の力量を褒め称えるべきであろう。稲田朋美は,補助金をつけた文化庁にイチャモンをつけるのではなく,何故かような映像を中国人に撮られてしまったのか,芸術的な右翼映画を撮ることのできる日本人監督を養成すべきだったと嘆くべきであったのだ。
 ウヨクなワシとしては,まあ本作に日本の税金がつぎ込まれて成立の手助けをし,紆余曲折はあれ,本作が日本全国で公開され,こうして見ることができた,というところにちょっと愛国的に誇らしげなものを感じて満足しちゃっているのである。こんなワシ,非国民ですかね,稲田先生?

5/18(日) 掛川・?

 この週末は風邪と共に去りぬ。先週の水曜日の夜あたりからノドがヒリヒリし出していたが,金曜日の非常勤講義もいつも通りの不調だったので(不調なのが普通なのである),この調子で難なくやり過ごせるかな,と思っていたら,土曜日の午後から寝付いてしまったのである。
 ワシはずぼらな性格なので,洗濯掃除買い物という家事は週一,土曜日の午前中にしかやらない。ナノで,逆にこれはワシにとって,いや我が家にとって重要な定例行事なのである。それを全てこなして図書館に散策がてら雑誌と新聞を読みに行き,昼飯用のパンを買いに行って家に戻り,昼飯を食い終わってからしばらくした後,ベッドに寝付いてしまったのだ。虎視眈々と機会を狙っていたワシの体内のウィルスが,重要な定例行事を終了した後の気抜け状態になったワシを襲ったとしか思えない。
 暴れ出したウィルスは夜中に結構な発熱をもたらし,結果としてワシは日曜日の殆どをベッドに縛り付けられて終了したのであった。・・・ま,風邪でなくても似たような休日の過ごし方をしているんだが。
 で,やっと起きあがってモソモソと果物と枝豆と漬け物をつまむ程度の食欲が湧き,何かをせねばいかんという気力も出たのでこれを書いているという次第である。
 結局週末にやろうとしていた仕事は全てパーとなった(風邪という理由が付くと何とでも言い訳が出来る,便利)。この続きは火曜のNEC出張時に解決を図らねばイカン。それでも懸案だったMacBookのVista化は何とか終わったので良しとせねばなるまい。
 で,明日の準備も全く手つかずのまま,今日はとりあえず寝ます。・・・あ,久しぶりだこのフレーズ。

N.J.Higham, “Functions of Matrices – Theory and Computation”, SIAM

[ Amazon, SIAM ] ISBN 978-0-89871-646-7, $59
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 四十年近く読書人を気取っていると,自分なりに構築した「著者名即買いリスト」なるものがガッチリ組み上がっている。ワシの頭脳のキャッシュメモリには常にこのインデックスが蓄積されており,これに引っかかった著者の新刊が出るのを知るとパブロフの犬より早く反射神経で買ってしまうのである。で,本書もご多分に漏れず,SIAM Newsに告知が出たのを見るが早いか,早速SIAM会員価格で注文をかけて入手した訳である。
 SylvesterとCayleyってのは,今の数値計算屋なら知らぬモノのない古典的な名前だが,この二人は19世紀後半のイギリス線型代数派のメンバーとして,生涯を通じたコンビで活躍した数学者である(森毅「異説数学者列伝」ちくま学芸文庫, P.154-160)。線型代数をかじった人間なら,行列Aの固有値を求める時には自然と|xI-A|=0を解くであろうが,これがHamilton-Cayleyの定理って奴である(斎藤正彦「線型代数学」東大出版会, P.198)。森によればこの二人が出会ったのは数学研究会とかではなく,法律家になるための学校だったというのだから,世の中どんな出会いがあるかわからんモンだ。
 で,本書のタイトルである「行列関数」ってのは,このCayleyとSylvesterに端を発する,というより,CayleyはA^(1/2),Sylversterなんてそのものズバリを最初に提唱したらしいのである。へぇ~・・・という所から本書は始まっている。
 一体そんなものが何の役に立つのか・・・といぶかる人はどのぐらいいるのかしら? exp(A)なんてのは線型常微分方程式の解の表現には必要だし,それを延長していけばsin(A)とかlog(A)とかも同様に考えられて,それなりに応用がありそうな気はしてくる。で,個々に関数を増やしてぐらいなら,いっそのことスカラー関数f(t)をそのまま拡張して行列関数f(A)を定義できないか,と考えるのは,ごく常識的な思考である。マン大のミスタースポック博士ことN.J.Highamはこの方向で3つのf(A)の定義方法を延べ,f(t)が解析的であればこれらが互いに同値であることを第一章(PDF)でキッチリ証明している。ふーん,まぁJordan標準形のは分かるとして,Hermite補間とCauchyの積分表示が繋がるとは知らなかったなぁ。って無知にも程があるってか?
 ワシが一番興味があるのが応用分野(第2章)と,exp(A)の話題(第10章)なんだが,この辺りを含めて本書を眺めてみると(読んだ,ではないからね為念),片っ端から情報を集めまくって書きまくった以前の著作に比べると,普通の数学書のように話題が積み上げられて展開されている印象がある。スポック博士によれば,最初の章以外は独立して読めると言っているが,最初からじっくり読んだ方が為になりそうな感じがする。話題として選んでいるのはO(n^4)を越えないアルゴリズムに落ち着くものに絞っているそうだが,この辺りは数値計算屋らしい,と同時に,具体的で構築的なイギリス数学の伝統(by 藤原正彦)にも忠実ということなんだろうなぁ。
 個人的には,もうちっと現状のコンピューティング環境についても言及して欲しかったな,という不満がある。今ではコンシューマ向けCPUでもマルチコア化やSIMD命令の充実がなされているので,メインメモリに入り切る程度に大規模な行列・ベクトル計算がかなり高速に実行できるようになってきている。数値計算性能を測る時には行列積計算を行うのが普通だが,きちんとチューニングされたATLAS(のDGEMM関数)を使えば,少し型落ちしたCPU単体でも数GFLOPSの性能が安定して叩き出せる(例えばこのPDFの16枚目のスライドを参照)。逆に言えば,共有メモリ内並列環境で十分な規模の計算なら,ちょっとぐらい計算量が増えても行列単位でまとめて計算した方が効率が良くなる可能性もあるのだ。近頃ではそこに気が付いた方々がいろいろやり出しているようである。
 このように,今のPC環境は行列計算に向いているのであるからして,本書で提案している行列関数の計算の実験にはもってこいである。本書の計算はMatlab(の倍精度計算)で行っているが,これだってこのような環境が整っていてこそ気軽に実験できるのである。
 つーことで,exp(A)どまりならともかく,f(A)まで広げて何の役に立つんだとかブーたれるより,折角の行列計算向きPC環境を使い倒して遊んだ方が,人生楽しくなるんじゃないかと,自分勝手に思う今日この頃であります。