待田堂子「らき☆すた ゆるゆるでぃず」角川スニーカー文庫,坂田靖子「海に行かないか」朝日新聞出版,猫田リコ「黄昏バス」バンブーコミックス

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待田堂子「らき☆すた ゆるゆるでぃず」 [ Amazon ] ISBN978-4-04-474201-0, \476
坂田靖子「海に行かないか」 [ Amazon ] ISBN 978-4-02-214019-7, \580
猫田リコ「黄昏バス」 [ Amazon ] ISBN 978-4-8124-7061-9, \600
 現実逃避がてらに読む本は,ファンタジーがふさわしい。浮き世のめんどくさいモロモロを全く思い出させないシュールでリアリティが皆無な作品が最高だ。つーことで,逃避ライトノベル&マンガ三冊,まとめてご紹介します。
☆待田堂子「らき☆すた ゆるゆるでぃず」角川スニーカー文庫
 らき☆すたのノベライズオリジナル作品集。こなたのようにベッドに寝転びつつ読みながら気がついたのである。自分の面がぎぼぢばどぅい程,ニヤついているのを・・・。
 うーんさすが,TVアニメシリーズのシリーズ構成を担当していた脚本家(橋田壽賀子賞を取っているらしい)だけあって,本書に収められている4作品,どれもそのまま新シリーズに使っても違和感がない。語りはかがみん2本,ひより1本,最後の作品はこなたが担当している。あとがきは白石みのる語りによるらっきーちゃんねるで〆。うーん,これでOVA二本目,作ってくんないかな。一本目はちょっと内容が懲りすぎていて,TVシリーズのテイストを楽しみにしていたワシとしてはちょっと物足りなかったところがあったから。
 つーことで,らき☆すたファンのライトノベル好きなら楽しめること間違いなしの一作。おっさんの読書好きにはあっという間に読めてしまう文章のスカスカ具合(シナリオにト書きを入れたような雰囲気)が新鮮でありました。
☆坂田靖子「海に行かないか」朝日新聞出版
 小学館の老舗少女(?)マンガ雑誌,プチフラワーが衣替えしてフラワーズに変わっても,坂田靖子のショートコミックは変わらず掲載され続けていた。それが2006年を最後にぱったり掲載されなくなり,どうなったのかと気になっていた。ご本人のWebページも数年更新されないまま。さてはプライベートで何があったのかなぁと余計な詮索(妄想)をしていたのだが,2008年(だったかな?)からWebページも更新されるようになり,宙に浮いていた未収録作品もこの度元・ネムキコミックスの一冊としてまとまった。それがこの「海に行かないか」である。
 多分,1980年代後半から1990年代前半あたりまでのファンタジー短編が一番読者を獲得していると思われるし,ワシもそのあたりの作品集はばっちり揃えている(Juneに長期連載していたものがワシにとってはベストかな)。それ以後の作品は,特に短いものは物語も絵もシュールさが際立ってきて,かつてのファンにとっては好みが分れるところがあるようだ。でもワシは今の作品も別種のおもしろさがあって,良いと思っている。フラワーズに掲載された中では特に「カボチャラアンデッド」が大好きで,雑誌掲載時には感動を覚えたものだ。内容はと言うと,畑に取り残されたカボチャ達が人間達に自己主張を敢行しようという・・・書いているだけでシュールさが理解できようというものである。まあそこに「よくあるファンタジー」を通り抜けたベテラン・坂田靖子の真骨頂があるのだ。
 最近更新されたご本人Webページの弁によれば,この先次々に作品集が出るようなので,楽しみである。現実逃避にさらに磨きがかかりそうで,自分の仕事の生産性に影響がない程度に面白いものを期待している,自分勝手なカボチャラのようなワシなのであった。
☆猫田リコ「黄昏バス」バンブーコミックス
 三浦しをん「ビロウな話で恐縮です日記」(太田出版)をパラパラとめくりつつ,よくもまぁこんだけ仕事しながらBLなマンガやらそうでない作品やらを読んでいられるモンだと呆れてしまう。さすがに近頃は大量の本の整理が付かないらしく,「火宅」を御出て放浪の旅に出ているようだが,多分,持ち運んでいる荷物の中には必ず読みさしのBLが一冊以上仕込んであるはずだ。
 一時期は青磁ビブロス(知らんだろうな,この出版社名も)のコミックスを全冊コンプリートに揃えていた若き日のワシも,加齢による衰え(どこだ)には勝てず,今ではとんとBL漫画界には疎くなってしまった。新陳代謝の激しいBL業界の動向はすべて三浦しをんに教えを受けるほど落ちぶれてしまったのだ。年は取りたくないものである。今では二越としみとかえみこ山あたりを細々と読んで満足しちゃっていたりする。
 しかーし,そんな無知な年寄り(元)BL読みでも,たまぁに新人発掘をしたりするのである。直感的によさげと感じて買ったのが,猫田リコの「おつかいくん」だった。そしてお気に入り作家の一員となり,最新短編集である本書もデフォルト買いしたのである。
 初期の魔夜峰央を彷彿とさせる,白黒のコントラストがきつい独特な画風である。ワシはマンガを絵で読む方なので,こういう個性の強い,それでいて華麗なものは大好きである。内容はと言うと,これがまたリアリティのかけらもないシチュエーションで,ヤクザの組長の息子が猫耳つけたバニーガールならぬキャットボーイ(あ,いいなこのネーミング)で登場するわ(「黒田ロマンス」,落語家の兄弟弟子が恋愛関係に陥っちゃうわ(「世界一空気を読まない男」)で,こうして言葉にすると荒唐無稽以外の何者でもないのだが,すべて猫田ワールドの耽美世界に包み込まれているから,そんなに無茶苦茶には感じない。つーか,その辺に違和感を覚える向きは,BLには向いていないと言うべきだろう。
 独特な猫田ワールドだが,本書の中では「うらはら」は少し毛色が異なる。最初は明治・大正時代の物語かと思っていたら,「お屋敷」という存在が台詞中に現れてからは,中世ファンタジーのような展開になる。ま,BLの「お約束」を果たすための単なる道具立て,ではあるんだけど,それはそれとして面白いシチュエーションを持ってきたな,とワシは感心してしまった。
 竹書房としては,猫田に「ココロは錦」のような普通の4コマ作品も描かせているぐらいだから,将来性についてはずいぶん買っているように思われる。「うらはら」で見せたアイディア構成力をもう一歩飛び抜けたものにできれば,独特な画風と共に結構な大物になるかも・・・というのは買いかぶり過ぎかな?
 つーことで,日常から逃避したいあなたにお届けしたい三冊でありました。