御手洗直子「31歳BLマンガ家が婚活するとこうなる」新書館

[ Amazon ] ISBN 978-4-403-671272, \850(+税)
[ Kindle ] ISBN 978-4-403-671272, \595(税込)

The_documentary_how_she_31_years_old_boys_love_comic_writer_act_for_her_happy_marrige

 本書は2012年10月下旬に発売されたコミックエッセイなので,すでに新刊書店からは消えている。近頃はだいぶKindle本が増えてきたが,どうやら売れ行きが止まった旧書から電子化しているようで,本書も今はKindle本として購入することができる。ワシは書籍版より300円ほど安くなった後者を購入して読んだのだが,この度,神さんより「妙齢(便利な言葉だ)の友達向けにお勧めの婚活(マニュアル)本はないか?」と問われて本書を思い出し,Amazon経由で書籍版を取り寄せて神さんのお友達にプレゼントすることになったのである。・・・怒られたりして。

 本書はどうもタイトルと出版社(ゆるいBL本出版が多いところ)から誤解されやすい面があるが,きわめて真っ当なネット婚活本であり,特に同世代の女性にとってはお役に立つ情報が分かりやすく述べられているのだ。確かに著者はオタクなBLマンガ家であるが,商業作家として荒稼ぎしているわけではないようだし,ファッションセンスが優れている超美人では決してないようだし(円山応挙の幽霊画に似ているそーな・・・そこそこ美人かな?),つまり普通に過ごしている三十路前後のスタンダードな女性なのである。その普通の女性がダラダラ付き合っていた彼氏に振られたことを切っ掛けに普通にネット婚活(サイト名は不明)を始めたところ,大変なこと(後述)になったものの,まぁ何とか当初の目論見通り1年で相手を見つけて入籍に漕ぎ着けた,というところはかなり多くのアラサー女性には参考になるところが多いと,ネット婚活経験者のワシも神さんも判断しているのである。

 どの辺が参考になるかというと,次の3点だ。

  1. ネット婚活は期限を区切って短期決戦で臨むべし。
  2. アラサー女性には大量の男性からのお誘いメールが押し寄せることを覚悟すべし。
  3. 高収入の売れ残り男性は何らかの問題を抱えていることを認識すべし。

 1については婚活に限らない話で,目的がはっきりしているなら,まず期限を区切って全力を賭けろということである。婚活の場合,いい相手と出会うには,メールだけでは分からない情報を引き出すべく,沢山の相手と直接会って言葉を交わす必要がある訳だが,いい歳の男女が落ち着いて話すならレストランか喫茶店が普通であり,さらにディープな話をしたければちょっとアルコールを交える居酒屋なりなんなり,ともかくショバ代を払う必要のある場所が不可欠だ。会うなら多少なりとも身なりに気を使う必要もあるし,とにかくコストがかかる。気合を入れて活動するなら短期決戦でドカンと金をつぎ込むことを覚悟せよということが,本書を読むとよく分かるのである。

 2については,メールを送る側(貰うこともあるが,かなり少ない)である男性には気が付かないポイントだ。つまり,ネット婚活の際のオファーのやり取りは圧倒的に「男性から女性」が多くなる。どっかの掲示板では「男は狩人」と形容していた女性がいたが,まさしく女性側は狩られる側,つまり獲物なのである。著者の場合,300通ものメールがサイト登録直後から押し寄せてきたということであるが,うちの相当妙齢(ホントに便利な言葉だ)な神さんですら,大量にメールが来たそうなので,サンプル数2なれど,それが普通の状態であることを覚悟すべきなのであろう。最初はメールの到着を喜んでいた著者であるが,大量処理のためにさっさと男どもを割り切っていくところなぞ,さもありなん,という気がする。しかしこの過程を経ることで,自分が意識していなかった「男性の好み」が分かってくるのだから,何事も経験しておくに越したことはないのである。

 3については,具体例については本書を読んでご確認下さい,ということに尽きる。非情なことであるが,「性格の良さを取るか,金をとるか」の選択が待っているということは覚悟しておくべき,ということが本書を通じて学ぶことができるであろう。これも「自分が結婚に対して何を求めているのか?」ということを考えさせられる良い経験に繋がってくるのであるから,婚活とは結局,「容姿」「性格」「収入」の3要素の「最適解」を探索する自分探し,ということになるのである。

 「BLマンガ家」にしてはシャープかつシンプルな画風で,とても読みやすい。時系列でその都度その都度著者が出会った・考えたことがまとめられているので読破するのに時間は要しないところもGoodだ。しかし何より一番感心したのは著者の確固とした「男選びの軸」である。「他人に敬意を払えない人とか」は「私すっごい嫌いなんです」(P.98)と,きっぱりした信念があってこそ,1年でbestではないかもしれないがbetterな出会いが実現できたのであるから,結局のところ,本書から得られる一番の教訓は,「一番嫌なところは断固拒否する」ということなのである。

 つーことで,ちょっと古いがKindleでも読める本書は,アラサー女性向けのスタンダードな婚活マニュアル本としてお勧めする次第である。