[ Amazon ] ISBN 978-4-06-364681-8, \952
あじ・・・あじ・・・。まあ8年前に買ったクーラーだし,所詮は8畳用だから仕方ないとはいえ,設置してあるリビングの窓を明け放しておいた方が風が通るだけいくぶんマシ,という状況はどうかと思うよ。だから電気屋を呼んでいるんじゃないか。時期が時期だけに忙しいので,今日の午後5時までに来訪する,という以上の約束はできない,というのも,まあ分かるよ。こっちも三十路後半の宮仕えの立場だからさ,お互い大変だねぇという感じで穏やかに「分かりました」と言いましたよ,確かに,ええ。しかし遅いよな・・・暑いのを我慢して待っているんだから,理性では分かっていても,この中年太りした脂肪層からにじみ出る中年臭い汗の不快さには我慢しかねるんだよなぁ。早く来ないかなぁ。分解掃除したところで効果の程はたかが知れているんだろうけどさぁ,早く来て欲しいよなぁ,ホントに。
・・・秋月りすは,好きですよ。うん。たぶん,今の日本でいしいひさいちと双璧をなす四コマ作家といえば,彼女しかいないんじゃないかな。
もちろん,毎日新聞で連載を持っている森下裕美や,北海道新聞の新田朋子もかなりのもんだ。静岡新聞の吉本どんども結構面白い。しかし失敗例もある。さくらももこが佃公彦の跡を継いで4コマに進出したけど,ありゃあ空前絶後の酷いシロモンだ。あれを見れば,エッセイで名をなしたプロ作家でも平均的に面白い4コマ作品を生み出し続けるのがいかに難しいか,よくわかるんじゃないのかな。
だから,いま名前を挙げた森下・新田・吉本は日本の新聞四コマのスタンダードと考えていいと思うのだけれど,秋月は当然そのレベルに達しているだけじゃなく,いしいが持っている冷徹な知性も兼ね備えているんだ。だてに手塚治虫文化賞を受賞していない。連載していたのが朝日新聞だったという事情を差し引いても,あの小うるさい審査員から特に反論はなかったというぐらいだから,実力は万人が認めていると言っていい。
その秋月が今も連載を続けているのが「OL進化論」だ。あの入れ替わりの激しい青年誌で生き残っているだけでも大したモンだけど,「OL」なんて言葉をまだ生き延びさせていることはもっと喧伝されていいと思うな。今時,まともなレベルの教育を子供に授けようと思えば,両親共働きが当たり前で,男女とも正社員なら,女性だけを「OL」と呼ぶことはないんじゃないかな。大体,僕の世代だと「OL = 結婚前の腰掛け」というニュアンスだったモンなぁ。未だにそーゆー目で女性を見る会社もあるそうだけど,少子高齢化が進むこの日本が移民政策をとらない限り,いずれその手の古い体質の会社は人材確保に苦労すると思うね。ザマミロ。
まあでも,2007年8月現在で27巻も出ている作品だし,秋月りすが面白いと気が付いたのはごく最近なので,僕が持っているのは「かしましハウス」(全8巻)と「おうちがいちばん」(1巻, 2巻)ぐらいかな。たぶん,「OL進化論」は往年の「サザエさん」のように,病院の待合室に鎮座していて,時間があればつい読破してしまう,というスタンダードな読み方をされているのだと思う。だから全巻揃えているという人は案外少ないんじゃないかな。で,多分,全巻読破しているような人は,この「35歳で独身で」シリーズをそれほど重要視していないのではないかと思うんだ。膨大な数の平均的に面白い4コマ作品集の中では,多分埋もれてしまってそれほど印象には残らない筈だよ。
だけどさ,それを今更ながらほじくり出してやろうという,偏屈な編集者が講談社にはいたんだよなぁ。もちろん同じ講談社から出てヒットした「負け犬の遠吠え」の影響が大きいんだろうけどさ,「我が社にはあれがあった!」と気が付いたのは大したモンだと思う。多分そいつも負け犬なんだろうけど(違ったらゴメン),いや,こうして一冊にまとめてみると,まーなんというか,秋月りす恐るべし,と誰しも,特に負け犬はそう感じるんじゃないのかなぁ。
初出が全く書かれていないのでよく分からないんだけど,ここに収められている10章・135作品はここ10年以内に描かれたものから抜粋したようだ。絵柄的に安定しているから,多分そう。で,このうちオスの負け犬が主人公の作品は13作品しかない。圧倒的に(メスの)負け犬が多い訳だ,この「35歳で独身」な連中は。まあ秋月が女性だからという理由なんだろうけど,それに加えて,オスの負け犬に対する世間のイメージが「おさんどんしてくれる人がいなくて可愛そう」と固着化されていることが大きいと思うな。つまり,同じ「35歳で独身」でも,男に対しての哀れみのパターンが少な過ぎるんだよ。逆に言えば,女性に対してはいろんな見方をされるということでもある。もちろん「伴侶が居なくてかわいそう」と同情される一方で,「ダンナと子供に縛られずに自由でうらやましい」という見方もされるワケ。後者は多分少数派だとは思うけどね,でも既婚者からはそう言われることが多いと酒井順子は書いていたな。それも表面だけのことで,内心は違うと酒井は断言してたけど,そーでもないんじゃないのかなぁ。それもまた偽らざる本心の一部だと,僕は思いますけどね。
だから,負け犬でも35歳でもない(もっと上)秋月でも,負け犬を主人公にした方がネタが作りやすいんだよ。本人もあとがきで「いつもネタ出しには苦しんでおりますが,このシリーズは案外スムーズにできあがります」って言っているモン。本人は「タイトルがよかった」せいだとして,「35歳で独身で」が「ぴったりくる,と思」ったそうだけど,このぴったりという感覚は,女性に対してのものだ,と僕は思いますね。世間が感じている「35歳で独身」女に対するさまざまな思いをすくい取ってネタにするのは,秋月の冷徹な目があればさほど不自由しないんだろう,きっと。
でまあ,このシリーズだけ抜粋された本書を読み終わって,つくづく「38歳で独身」の僕としては,つまらんなぁ,と思う訳ですよ。いやこのマンガは面白いよ。そうじゃなくって,さっきも言ったように,中年独身「男」に対する世間のステレオタイプなイメージが,だよ。
中年独身男ってのは,いろんな「ダメさ」の固まりなんですよ。そこんところを枡野浩一や小谷野敦が一生懸命布教してくれているのだけれど,結局,受け取る方はダメさの差違という奴にはからっきし鈍感でね。「ダメさ」は一つしかないと思っているんだよ。いや,「ダメさ」ってのは見習うべきモンじゃないから,そう深く考えたくないのは当然だろうけどさ,見方を変えればマーケティングにも使えそうだし,いわゆるエンターテインメントの多くが同情と憐憫と嘲笑をベースとして成立していることを考えれば,「ダメさ」の用途はいろいろあるんじゃないのかなぁ。だからもっと世間にアピールできるメディアを持つ人に「ダメさ」を喧伝して欲しいと願うワケなの。秋月さんなんかがもっとたくさんの「35歳で独身」ダメ男を描いてくれるとありがたいんだけど,まだ男尊女卑思想が根強い日本では難しいのかしらん?そうなると・・・どなたか適当な人,いませんかねぇ?
・・・とグダグダ書いていても,まだ電気屋さん,来ないなぁ。・・・暑い。うー,そろそろ麦茶,冷えたかなぁ。・・・暑いなぁ。