奥田祥子「男はつらいらしい」新潮新書

[ Amazon ] ISBN 978-4-10-610228-8, ¥680

 東京に出たときに必ず寄るのが丸善・丸の内本店である。東京駅北口から歩いて数十秒という立地の良さに加えて,早めに出かけることの多いワシにとって,朝には開店しているでかい本屋というのは大変ありがたい存在なのである。難点と言えば,ワシのメインターゲットである漫画・文庫・新書の新刊置き場のスペースが小さいことか。新書なんぞは幅1メートルぐらいの小さい平台と細長い表紙台に,話題になりそうなものがチマチマと載っているだけである。ワシはあまり「話題のなんちゃら」とゆー類のものは読まないようにしているので,この棚に置いてあるもの大部分はスルーしてしまうのだが,本書はちょうど岡田斗司夫の「いつまでもデブと思うなよ」と同時発売だったため,岡田本を取るついでについ眺めてしまったのである。
 第1章「結婚できない男たち」の最初の文章を追いかけていくと・・・うーむ,ワシは岡田本を抱えつつ,この奥田本に釘付けになってしまったのである。そして確信したのだ。「これはワシが読まねばならぬ本だ」と。

 最近気がついたのだが,どうもワシは軽いマゾ体質のようなのである。いや,ブラック師匠のように,女王様にムチで攻められるのが好きだということではない。そーゆー肉体的な痛みにはからっきし弱いのだが,精神的に「チクチク」というレベルで攻められるのが好みのようなのだ。最近は特に,日本社会の少子高齢化に拍車をかけている一因として攻められるのが快感なのだが,これは酒井順子に「調教された」結果であろう。つい先ごろも秋月りすに攻めて頂いたが,これはここに書いた通り女性がメインの作品なので,男のワシとしてはちょっと物足りなかったのである。
 しかるに! 本書は紛れもなく,中年男をメインターゲットにしている上に,読売ウイークリー編集部に在籍している著者が実地に調べた結果に基づくノンフィクションである。更に,本書の記述の多くはインタビューから成り立っており,ワシが思い当たる限りの「ダメさ」を抱えた中年男の生の声に満ちているのだ。これが痛くないはずがあろうか。ワシは丸善を出て東京駅の改札を抜け,宿のある蒲田に向かう京浜東北線の車中で本書をじーっと読み続けたのである。そしてワシの脳内では冷や汗をかきつつ,「これはワシに当てはまる・・・かな,いや違う,ああっ確かにそうだ,いやいやワシはここまでひどくはない・・・と思うけど・・・結果が結果だからやっぱり当てはまるかも」と自問自答の無限ループにはまってしまったのだ。
 この第1章を読了するまでの数時間は,ジェットコースターに乗りつつ,隣席の奥田から「アンタからはイヤ汁((c)酒井順子)が出ている」と囁かれているようなものであった。これは・・・快感である(バカ)。

 第2章「更年期の男たち」,第3章「相談する男たち」,第4章「父親に「なりたい」男たち」はワシにとってはまだ他人事の話題であったし,負け犬の著者が共感できる部分が少なかったためか,感心はしたものの「攻められる快感」は味わえなかった。ま,あと10年もすれば更年期ぐらいは体感できるだろうが,これは将来の楽しみとしてとっておくことにしたい。

 ワシが嵌った第1章に何が書いてあるのかは,皆様のお楽しみとして秘密にしておこう。しかしこれだけは言える。ここには結婚できないダメ男の良いサンプルが掲示してあり,奥田がたどり着いた結論は至極常識的だ。この点,安心して今の日本社会にお勧めできる良書であると言える。文章も大変読みやすいが,これは新潮新書全体に共通している特徴なんだろうな,きっと。