[ Amazon ] ISBN 978-4-7577-4397-7, \780
ページ数の割に,読了するまでに時間がかかる漫画,は存在する((c)須賀原洋行)。例えば小田空。例えば西原理恵子。読みにくいわけでは決してないが,一コマ当たりの情報量が多く,それをきちんと読み取って次のコマへ移動するまでの時間がかかってしまうのである。但し,小田はチマチマと書き込む派(以下,チマ派と略記),サイバラは芸術的なギミックを詰め込む派(以下,芸術派と略記)であり,タイプは完全に異なっている。しかしどちらもエッセイ漫画であるという点は共通している。
かつてのアスキー,今のエンターブレインが出版していた漫画にも二系統が存在している。芸術派の代表は桜玉吉(今どうしているのやら~)だ。そして,小田空タイプ,つまりチマ派には,水玉蛍之丞,そして寺島令子がいる。この二人のチマ派が描く作品は,かのいしかわじゅんより「濃いマンガ」として認定されているぐらい,情報量が豊富なのである。それが水玉の「こんなもんいかがっすかぁ」(1994年)であり
今回めでたく新刊が6年ぶりに出た,寺島の「墜落日誌」
なのである。ちなみに墜落日誌は4巻目「ネットゲーム編」があるはずなのだが,ワシは買いそびれてしまった。ごめんなさい。
このチマ派の2シリーズは,長期に渡って連載されたということもあって,すっかりGUIにインターネットが当たり前になった昨今では,日本のITの歴史を語る貴重な資料となっている。水玉のものは1994年までのPC通信(インターネットじゃないのよ,ええ)について,寺島のものは1989年から2008年現在までのゲームの進化を知らしめてくれるのだ。特に後者は作者自身の体験日記(それを「墜落」と称しているらしい)となっているので,何とゆーか,エンタメにはついぞ縁遠かったワシとしてはそのバイタリティに感心させられてしまう。
この夏(2008年7月)出版された「墜落日記 社会見学編」は2002年から2008年まで,掲載紙のログインが休刊するまでの作品が,著者の注釈や編集者との対談記事と共に収められている。前作4巻と異なり,版型が細長くなっているため,タダでさえチマ派な見開き2ページのコママンガが更に縮小されており,そろそろ老眼になりかけている中年オヤジには写植文字がちと読みづらい。だもんで,最初の方はナカナカ内容に入れず,グズグズと枕頭に置いて少しずつ読み進めていたのだが,次第に慣れてくると一気に読了できた。つまりそれだけハマる作品なのである。そして一度このチマ派のマンガに慣れてしまうと,もう普通のスカスカエッセイ漫画なぞ,生ぬるく感じてしまうのである。恐るべし,チマ派の洗礼!
内容はというと,
・ネットゲームをやりつつ
・PCの不調に悩み,パーツをとっかえひっかえしつつ
・うどん会と称する編集者らとのパーティを定期的に催して料理や山登りを楽しみつつ
・e-Taxに挑戦しながらついぞ電子申告を果たせず
・様々な博物館を探訪する
というものになっている。これを毎回2ページに詰め込むんですぜ,ダンナ。チマ派の技巧ここに極まれり,となるのも無理はないのだ。
それにしても楽しそうな日常で,羨ましい限りである。バツイチになっても健全な社会生活が維持されているのは,本人のバイタリティもさることながら,うどん会を初めとする友人知人関係とのコミュニケーションの賜ですな。一人でシコシコ作業せざるを得ないマンガ家という職業なのに,あくまで創作態度はオープンに保ち続けている。そこが,20年近い連載を維持できている秘訣なんだろうな,きっと。