クール教信者「旦那が何を言っているかわからない件」一迅社

[ Amazon ] ISBN 978-4-7580-1261-4, \952

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 あまあま漫画祭り,ラストを飾るのは妄想的かつ理想的なオタク夫&ツンデレ属性妻を描いた4コマ漫画である。かなり以前からネットの一部では評判になっていたようだが,ワシが本作を知ったのは中国嫁日記の作者・井上純一さんのTweetからである。だもんで,かなり遅れて公表されている作品を順次読んでいったのだが,気が付いたら完読していた。鉛筆画の荒っぽい絵だが,内容が抜群に面白い。「いちゃらぶ」と著者が呼ぶぐらい,あまあま夫婦生活ぶりが描かれるが,ギャグの切れ味は鋭いし,一話ごとにメリハリがまとめ方がされていて,デッサン力はともかく「漫画力」は相当高いレベルにある。一迅社の編集者が本作に目をつけて単行本化したのは,その人気もさることながら,この漫画としての完成度の高さ,ということも手伝ってのことだろう。

 精神科医・斉藤環が中国嫁日記の書評で「オタク的成熟」という表現を用いていたが,本作もまたその成熟を表現していること間違いない。オタク夫が2ちゃんねるのまとめサイト運営で生計を立てているとか,ダメ夫とはいいながら結構しっかり自己管理出来ていて,妙に達観したところがあるとか,一般人である妻がダメ夫のダメさ加減を叱りつけつつも,人間としては「オタク的成熟」を遂げていて愛するに足る人物であることを熟知している,というところが形だけではない内実を伴った「あまあま夫婦生活」になっている所以であろう。

 もちろん,著者の描く妻のかわいさ加減といったらもうキューっと抱きしめたいほどであるが,それは,ツンデレ属性を持っているというだけではなく,八重歯と三白眼が魅力的だというだけでもなく,オタク夫と夫婦になっている,ということだけでもない。全部まとめて乳鉢に放り込んですりつぶした結果,普通の夫婦生活(+オタクアイテム)を営んでいる,というところに昇華しているからこその魅力なのだ。

 我々21世紀の日本人が理想として頭に描いている,恋愛の延長上に成立した結婚生活が,「オタク的成熟」の結果得られる,ということをフィクションとはいえ,一冊の単行本として表現しえたこと,これこそが本作の最大の価値なのである。