小川隆章「アンモの地球生命誌」双葉社

[ Amazon ] ISBN 978-4-575-30548-7, \1000

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 本書がどーいう文脈で双葉社から出版されたのか,ワシはさっぱり分からないのだが,夏休みの読書感想文のネタに困った時に役立ちそうなものとして本書を推薦したい,つまらん科学書より面白い漫画を読んだ方が何倍も勉強になる,ということはワシの40年以上に渡る読書遍歴によって証明(?)されている訳だが,本書に関しては,題材もさることながら,純粋に漫画として大変面白いのだ。躍動感のある古代生物描写は深海生物に胸ときめかせているガキどもにも面白がって貰えること間違いないのである。

 先日,「はだしのゲン」を語るTBSラジオ・セッション22が放送され,ワシはポッドキャストで聞いたのだが,呉智英先生が紹介していた手塚治虫と大江健三郎の評は,確かに「面白い漫画」としてのツボを言い当てていた。以前にも書いたけど,戦後70年になろうという時代なんだし,いい加減,語り口ぐらい工夫したらとワシはいつも思っているのである。
 学習漫画も同様だ。学研のひみつシリーズは描き手を更新しつつ,今だ続いていて重畳であるが,ちょっと語り口に余裕がないような感じも受ける。ページ数やらスポンサーやら様々な大人の事情があることは承知しているが,何よりストーリーへの縛りが描き手の自由度を縛っているような感があり,無理もないとは思いつつ,ベストセラーは難しいなと断じざるを得ないのである。多少荒っぽくても面白けりゃぁ,「目的」は達成できると信じているワシとしてはもっと冒険をしてほしいと願っているのである。学研には既に「まんがサイエンス」という傑作ギャグマンガもあるのだし,要は作家と編集者次第でどうにでもなるのである。

 実際,学習を目的としない普通のマンガ誌でも,「まるまる動物記」のような本格的な生物思想マンガが連載されていたり,「風雲児たち」のような大河歴史漫画が成立しているのであるから,つまりは作家の力量さえあればどんなジャンルだって面白い漫画になるはずなのである。ミリオンセラーは無理でも,そこそこ儲かる程度の作品としてこれらの作品が流通ルートに乗せられるんだから,送り手の編集者は良い方向に作家をリードして欲しいものである。

 それにしても・・・,本作は謎だ。自然科学系とはまるで無縁の双葉社が,よりによって古代生物マンガ,だと? しかも主役はアンモナイトのアンモちゃん。狂言回しとして饒舌にモノローグを吐き出しつつ,次々に襲ってくる古代魚やら同族の肉食アンモナイトにはスミを出して撃退する(効果ないことが多いけど)。実際に出す声は「ピィ」とか「ビィ」とか「ふぃ~」とか「美味」程度。一人孤独に「仲間」を探すべく,現代から古生代,中世期,新世紀を行ったり来たりしているのである。人間は一切登場せず,ただ古代生物が活写されるだけなのだ。まるでアンモナイト版「火の鳥」である。
 しかしこれが異様に面白い。古代生物である巨大アンモナイト,肉食魚,恐竜,初期の哺乳類・・・どの生き物も語らず,ただ生きているだけなのだ。捕食し,捕食され,本能の赴くままに生きつつ,自然界の劇的な変化にただ漂うのみ。しかしその生物たちの躍動感は素晴らしい。それは小川隆章の抜群の画力と画面構成力が面白い物語を紡いでいるからに他ならない。古代生物についての解説が随所に挿入されているが,それは読み飛ばしても構わない。ワシら読者はキュートで孤独なアンモの時間を跨いだ活躍ぶり(?)に付き合うだけで,古代の生物の生き様と進化の激しさが脳内にインプットされるのだ。学習漫画と考えると,これほどお得な一冊はないとワシは断言するのである。

 にしても,本書には学習漫画っぽい押しつけぶりな宣伝臭は一切ない。つーか,単なる怪獣漫画と思われるかも。しかしそれは小川にとっても双葉社にとってもふさわしい位置づけなのかもしれない。純粋に面白い少年漫画,単なるそういうものとして世に出した・・・わけじゃないだろうけど,別段これが少年ジャンプや少年マガジンに掲載されても不自然ではないとワシは感じる。それはきっと「ロン先生の虫眼鏡」等を包含して歩んできた日本漫画の懐深さの証拠なのである。