「高橋敏也の動く!改造バカ一台」 Impress TV

[ Amazon ] ISBN 4-8443-7022-7, \2980

 旧・通産省,現・経済産業省の旗振りのもと,文部科学省が大学理工系学部が産学連携に邁進するのを黙認して以来,日本の科学技術は企業と大学を巻き込んでグローバルスタンダードに挑み続けている。その動きを苦々しく思っている大学教員もいるが,ワシ自身はそのこと自体は別段悪いことではないと思っているし,世界規模で技術競争が激しくなっている現状を考えれば,遅きに失したぐらいである。
 しかし,著しく欠けている要素がある。それは日本のサブカルチャーの伝統であり,特に

ギャグ成分

が足りない。決定的に足りないのである。
 間違っても,「ユーモア」ではない。そんなスノビッシュなえげれす風味の斜陽帝国人種が好む代物ではない。あくまでも「ギャグ」である。鴨川つばめが立ち直れなくなり,江口寿史が白いワニを出して遁走し,いしかわじゅんが海外に逃亡し,吾妻ひでおが失踪した原因となった,「ギャグ」である。
 困ったことに,かように偉大な先人たちが次々に討ち死にしていった結果,それに続く若い世代は自分大事とばかりに長持ち志向であり,自らをすり減らしながらの「ギャグ」に邁進する者は少ない。そのためもあってか,産学連携においてもギャグ成分に全く欠いており,サブカルチャー大国としてはまことに物足りないと外務大臣がお嘆きである。ワシも大いに同意する次第である。
 しかし,最近は堅苦しくマジメ路線を歩んでいた産学連携に熱心な方々も反省したらしく,つい最近,その成果が函館から発信されるに至った。残念なことに,今ひとつパンチに欠けるロボットであり,現時点ではみうらじゅん言うところの「ゆるキャラ」にカテゴライズされるレベルであるため,ギャグというよりはまだユーモアベースにとどまってしまっている。それでも日本のお家芸をハイテクノロジーを用いて取り戻そうとするその情熱には敬意を表したい。

 そんなギャグに欠ける技術世界に,ギャグをストレートに持ち込んだ唯一の例外がこの「動く!改造バカ一台」である。
 このDVDは,Impress TVの超人気コンテンツの第1話から第20話まで収録した「だけ」の,オマケ動画も説明冊子も何にもない,近頃の過剰オマケに満ち溢れたDVDとは一線を画するスッピンDVDコンテンツである。しかし,それはImpress TVのコンテンツに対する自信の現われであり,決して手抜きでも売れ行きに対する期待のなさでもないはずだと信じたい。
 
 ギャグに必要なのは正確なセンスと過剰さであり,ギャグセンスの示す方向を性格に目指して真摯な努力と体力を注ぎ込むことによって得られるものである。かのエジソンもギャグには「99%の汗と1%のセンス」が必要であると述べている通り,汗もセンスも欠けてはならないのである。
 高橋にはその両方が備わっている。さすが故・矢野徹御大が見いだした人材だけあって,科学技術の無駄遣いっぷりと,計画がものの見事に失敗したときの愚痴りっぷりには,文章だけからは分からない「ギャグ魂」が籠もっている。それを見事に引き出しているディレクター・トッポ松浦氏の飄々とした突っ込みには大阪漫才の息吹が宿っており,日本の民俗芸能の精神も伝わっており好ましい。

 個人的には第21話以降が好みなのであるが,それが収録された第二弾DVDが出版されるには,本DVDがImpress TVが予想する以上の売れ行きが是非とも必要であるに違いないとワシは確信しているのである。従って,産学連携に勤しむ技術者・研究者・教員の諸氏には是非とも本DVDを購入し,ギャグ成分を研究に持ち込むべく参考にして頂きたい。多分,文部科学省も本DVDを研究費で購入する分には税金ドロボー扱いにはしないはずである。ちなみにワシは私費で購入したので誤解なきように願いたい。