TOBI「眼鏡とメイドの不文律」フレックスコミックス,アサミ・マート「木造迷宮」リュウコミックス

  • 眼鏡とメイドの不文律 [ Amazon ] ISBN 978-4-7973-5164-4, \560
  • 木造迷宮 [ Amazon ] ISBN 978-4-19-950076-3, \552

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 他愛もないラブコメは今でも好きである。読者としては「ああ,これはいつぞや読んだラブコメと同じだな」と思って安心してしまうので,逆に著者としてはその「期待」を裏切りやすい。その逆に,ストーリーが類型的であればあるほど,そこに埋め込まれているディテールの読み取りが容易くなる。著者が意識していようといまいと,それは個性という奴に他ならない。よって,こうしたblogのネタにしやすいのであるな。もっとも時間の無い時には「そんなコマけーこと,書いていられっかいっ!」となってしまうから,あくまで暇な時専用のネタではある。

 つーことで,純然たる「他愛もないラブコメ」2冊をまとめて紹介することにする。といっても,ストーリーがありきたりであることは面白くないということと同義ではないので,その辺誤解なきように。
 この2冊を取り上げたのは,どちらもデビュー間もない新人の作品であるということもある。何せワシは齢四十路を越えようという兼業マンガ読みであるから,近頃は新人を発掘している暇がなく,どうしても既読の作家のものばかり読んでしまう。だもんで,なるべく銭に余裕があればジャケ買い,ペラ買い(めくってみて自分との相性のみをチェックする)もするようにしている。といっても出版不況の昨今,少部数で膨大な点数の新刊書が出ているわけで,とてもじゃないが新人に限っても無作為抽出レベルのチェックもできやしない。従って,この2冊が選択されたのはホントに偶然,しかし殆どの漫画単行本はたぶん,どれをとっても数万単位の方々に気に入られるレベルのものばかりなのだ。それだけ,日本の漫画文化は古びてきたとはいえ,相当な厚みをもっているのである。

 まず,「眼鏡とメイドの不文律」から行こう。単行本はこれで2冊目,初単行本は「眼鏡な彼女」であるらしい。・・・前作はまだ読んでないけど,このベタベタなタイトル・・・いや,著者の眼鏡っ子に対する愛は分かる,分かるが,ふつー,もう少しひねるもんだろう。そして2冊目が「眼鏡っ子」と「メイドさん」である。ベタにも程があろうというものである。でも可愛いから許す。ま,著者も「いい加減にしろと言われそうですが」(著者挨拶)と自覚はあるようだし。
 この単行本の大部分を占める「MAID DE NIGHT! -- メイドでないと!」を強引に一言で言うと,「押しかけラブコメ」という奴である。短く収めた「ああっ女神さま!」みたいなもんか。早い話が,オクテかつモテナイ男が抱きがちのファンタジーである。そのせいか,どーも男の子が無個性過ぎて物足りない。絵のトーンがまだ固まりきっていないのか線がへろへろで,緩やかな雰囲気作りには役立っているが,全体的に軽い感じがする。まあそれを言うと「ヘタリア」なんて鉛筆書きだから尚更なんだけど,今風ではあるんだろうが,オッサンマンガ読みにはちと感情が込めづらいトーンではある。でも可愛いから許す(そればっかりや)。

 画風で言うと,真逆なのが,アサミ・マートの「木造迷宮」である。筆で描いたような,くっきりしたタッチの一本線で,画力は相当ある。コミティアからコミックリュウ編集部が引っこ抜いてきた新人の一人で,中野晴行さんお気に入りの坂木原レムも同様の経緯でデビューしたようだ。二人ともゲーム会社に勤務していた経験があるようなので,ひょっとして顔見知りなのかな? 社会人経験がある分,年齢はTOBIよりワシに近いぐらいであろう。ワシには大変しっくりなじむ描線は,古い木造建屋の表現とマッチしており,ストーリーより絵に興味のある人なのかな,という感じがする。一人暮らしの冴えない中年物書きオヤジのところに割烹着の可愛い女中さんがいて,あれこれ世話を焼いてくれるというストーリーは,もう独身男の妄想でなくてなんであろう。ワシはメイド喫茶ブームに対して,何故日本のよき伝統である女中(もう差別語ではなくなったのか?)を置かないのか!,と憤りを感じていたので,なおさら共感して読んでしまった。ヤエさん,可愛いです(バカ)。

 ということで,メイドと女中という和洋の違い,画風も正反対な新人作家の作品ではあるが,末永くご活躍して頂きたいものである。