中川(前)財務大臣が,G7後の醜態記者会見の責任を取って辞任した。本人の弁によればアルコールが入っていたせいではない,ということだったが,酒好きであることは確かであるらしい(J-CAST)。
このJ-CASTの記事にもある通り,今回の会見は別としても,これだけ酒による問題行動が傍目にも明らかで,しかも常態化しているとなれば,「アルコール依存(面倒なので,以下アル中とする)」と判断されても仕方なかろう。落語の枕じゃないけど,ろれつの回らぬ声で「おれはよってなぃい」と言うのが「酔っぱらい」の定義そのものだからだ。自分の判断ではない,他人から見てどうなのか,というのが重要なのである。
つーことで,アル中を理解するための本を三つばかり紹介してみたい。
まずは,医者の書いたものから。久里浜病院で長らくアル中患者と付き合ってきた,作家でもある,なだいなだの「アルコール問答」(岩波新書)。手始めとして読むには最適かと思う。仮想の患者(社会科の教師)が夫人に付き添われて来院するところから,医者と患者の問答形式で「アル中」というものがどういう病気かということを分かりやすく解説している。ワシはなだいなだの言説には信頼が置けないものがあると常々思っているが,ことアル中に関しては専門家として信頼しているのである。アル中から復帰した講談師・神田愛山との共著もあるそうな(その1,その2@お台場寄席)。
次はアル中の体験者のものを二つ。当然,中島らもは外せない。小説だが実体験に基づいたものとしては「今夜、すべてのバーで」(講談社文庫)がいいか。感動の押し付けみたいなところがあってワシはあまり好みではないけど,さすが(?)専門病院に入院しただけあって,久里浜式スクリーニングテストなんかも掲載されており,参考資料としてはいいんじゃないかと思う。
そして,これも当然だが,失踪から復帰してアル中になってしまってまた復帰した(こう書くとホントにすげぇな),吾妻ひでおの「失踪日記」(イーストプレス)も外せない。現在,月刊Comicリュウにて,中塚圭骸とのダラダラ対談記事「吾妻ひでおの失踪入門」が連載されているが,この中で中塚が吾妻の失踪はアル中寸前の状態からの遁走で,結果として「治療」になっていたという指摘をしている。これを読んで,なるほど,失踪から戻ってきた後にアル中になってしまったのは,「再飲酒」と呼ぶべきものだったのだなぁと,納得したものである。本書の中でも医者が解説している通り,アル中はHIV同様不治の病で,一度罹患してしまったら,一生アルコールとは縁を切るしか生きる道はない。再飲酒とは「再発」に他ならず,事態は悪化するのみである。
「アルコール問答」に登場する社会科教師は,酒を切らすことができない連続飲酒状態だった吾妻ひでおと違って,昼間は全く普通に生活しており,本人には全く病識がない。しかし夫人は,夜に飲んだ後は迷惑この上なく,しかも休肝日もなく毎日飲んでいるから,これはアル中に他ならないと主張する。両者の言い分を聞いた医者は,教師に対してこういう例えを使ってアル中という病気を解説する(正確な引用ではないので,間違っていたらごめんなさい)。
あなたは連続飲酒状態になったのをアル中と思っている。しかし奥さんは現在でもアル中だと主張される。
こう考えたらどうでしょう。
連続飲酒状態が大阪,全くの平常状態が東京とする。今のあなたは,東京から大阪に向かっている新幹線に乗っている状態なのです。確かに今はまだ小田原かもしれない,熱海かもしれない。しかし,現在の状態を続けていては,確実に大阪に辿り着いてしまいます。程度の差はあれ,治療を始めた方がいいことはお分かりでしょう?
ワシが一番感心した,アル中という病気の説明がこれである。正確なところは本で確認してくださいな。
で,中川前財務大臣だが・・・果たして彼はどの辺にいるのかしらん? 静岡? 掛川? それとも,もう既に米原を越えて京・・・。