宮田紘次「ヨメがコレなもんで。」ビームコミックス

[ Amazon ] ISBN 978-4-04-727294-1, \620

oh_my_sweet_alien.jpg

 齢四十路にして,すっかりすれっからしの親父と化してしまったことに最近気が付いたのである。新人漫画家の作品をロクすっぽ読みもせずに「昔読んだあの作品と同趣向」とか「あの漫画家のデビュー時と比べて云々」などとウンチクたれするばかりで,普通に漫画を読めなくなっていたのである。
 これはイカン,このままでは漫画レビューとは名ばかりの,自縛的知識の羅列になってしまうではないか,もっと虚心坦懐に漫画作品を楽しもう! ・・・とゆーことで,最近のワシは書店店頭で行われている漫画家フェアにおいて各社がプッシュする,なるべく未知の作家の作品を読むようにしているのである。で,読んでみると,やっぱり一押しされるだけあって面白い作品が多いのである。「売れてる作品なんて,ケッ」という団塊世代左翼的態度は改めた方がいいな,と反省することの多い今日この頃なのである。

 そんな一押しフェアの中で目を引いたのが宮田紘次のこの作品,「ヨメがコレなもんで。」である。宇宙人を妻とする若ハゲ日本人男とのご家庭コメディ漫画,というふれこみだが,読んでみたらそのまんま。何のひねりもなくド直球のラブコメ(?)である。ワシ世代だとどうしても宇宙人vs.地球人カップルというと「うる星やつら」(ATOK2011辞書にも登録済みだ!)を思い出してしまうのだが,あちらが学園ラブコメで長々と,割と淡白な描き方をされていたのに対し,本作は,ちょっと懐かしい劇画調の暑苦しい作風で「奥さまは魔女」的なご家庭イチャイチャラブコメをごく短いページ数に詰め込んで描いている。新人さんの割にはワシら中年世代の漫画読みには馴染みやすい暑苦しく肉感的な絵柄なので,若い人に人気があるのかどうは,ワシにはちょっとわからない。まぁFellows!という読者層が絞られそうなムックに掲載されていた作品だから,最近の流行とはチトかけ離れているのかもしれず,その辺の分析については本職の漫画評論家の方にお任せしたい。しかし,エンターブレインからこういう「普通に面白い」コメディを描ける手練れな漫画家が出てくるというのは少し意外であった。

 地球人・真壁ノブオがUFOに拉致され,インプラント(何を?)される直前,一目見た宇宙人の女性に一目ぼれしてプロポーズ,少しの交際期間を経て結婚し,狭い団地暮らしで専業主婦となり子供も作り,日々家事に追われつつ幸せに暮らしている・・・というシチュエーションだけ書くと詰まらなそうだが,汗と愛がにおい立つ圧倒的な画力で攻められると,「いいなぁ,こういう生活」と洗脳されてしまうのである。奇をてらったストーリー展開は皆無で,それよりは宇宙人の嫁(名前が不明なまま,ヨメとか奥さんと呼ばれるのみ)の愛らしさを描くことだけしか考えていないのではないか?という作品なのである。そこが非常に良くできていて,何度も聞いた古典落語でも,名人の落語家が語ると面白く聞き入ってしまう,というのと同じく,画力に裏打ちされた「漫画力」にワシはすっかり魅了されてしまったのである。

 シリーズ短編で構成された全1巻の本作,非常に気に入ったので,ワシはフェアで並んでいた「ききみみ図鑑」も読んでみるつもりである。やっぱり注目されている新人さんは欠かさずチェックしておくべきだなぁと反省した次第。