奥森すがり「ねこ鍋 みちのく猫ものがたり」二見書房

[ Amazon ] ISBN 978-4-576007206-7, ¥1200

cats_in_earthen_pots.png

 ねこ鍋と言えば,今や猫好き女性の間では知らぬ者なしの無敵ベストセラー写真集である。元を辿れば岩手で農家を営む奥本すがり(HN: エレファント)さんがニコニコ動画へ動画を投稿し,そこから火が付いたものであるらしい。公式(?)本は既に講談社から写真集として出版されているが,本書はその火付け役の動画投稿人による元祖・ねこ鍋オリジナルエッセイ+写真集である。こちらが「元祖・ねこ鍋」とすれば,講談社本はさしずめ「本家・ねこ鍋」ということになろうか。どちらにしろ,小さな土鍋にまん丸く収まった三毛猫達は間違いなく「めんこい」ことに代わりはないので,純粋に猫だけを楽しみたければ本家を,「何故ねこ鍋なるものが出現したのか」というルーツを探りたい向きには元祖である本書を選ぶのがよろしかろう。とかくうるさがたの方々はオリジナルを尊ぶ向きが強いのだが,これだけ出版点数が増えた昨今,一つの事象を様々な方向から眺めたというだけの類書が存在することは自然なことで,その類書の中から読者一人一人に好まれるものが選択される,ということは別段悪いことではないと思うのである。その意味では,元祖と本家のみならず,もっと沢山の便乗本が出てもいいように感じるのである。出でよ,○○ねこ鍋本!今年のコミケのペットジャンルの一角を占めたって構わないぞ!(もう当選通知が届いているから手遅れか?)

 著者のエッセイによれば,岩手の(写真を見る限り)古い家屋に元々いた2匹の雌猫に,近所の川に捨てられていた4匹の子猫が加わったのが今年(2007年)の6月のこと。この6匹の猫が,鉢代わりに使っていた古い土鍋に入り込み,丸くなって眠ってしまったことで「ねこ鍋」が誕生したとのことである。それを見た著者はその「めんこさ」に打たれ,写真や動画をニコニコ動画にアップ,それからねこ鍋ブームが数ヶ月で訪れることになった。
 ここ20年程で,ペットを猫かわいがり(猫相手だから当然ではあるが)する様を描いた,いわゆる「親バカ」エッセイや漫画が多数登場し,読者を獲得して定着するようになった。ねこ鍋写真もそのようなものを受け入れる読者層があったからこそ,数ヶ月という短期間で出版までこぎ着けたのであろう。
 バカの力がヒットを生み出す,というのは,養老孟司じゃないけれど,いつの世にも普遍的なことなのだ・・・が,ま,一読者としては「うわ〜めんこ〜い」とねこ鍋写真にノックアウトされるとともに,著者ご一家のまったりした岩手弁の会話を堪能させて頂いたので,もう何も言うことはない。ヒット作なんてヘッ,と普段は高飛車なワシだが,たまにはいいものにもぶち当たるのだな,と反省させられました。もう少しメジャーな作品も読まないといけませんね。