テロの時代とささやかな回避策

 年金問題,医療問題で何かと騒がれることの多い厚生労働省の事務次官経験者の自宅で血なまぐさい殺傷事件が2件起きた。まだ事件の背景は全く不明だし,テロかどうかも分からないけど,少なくともこの事件に関して,この被害者達,特に次官OB本人に限りない同情が寄せられているという雰囲気ではないことは断言できる。「テロ許すまじ」という意見が,とりあえずはマスコミの表面では流されているが,さて,結構な数の世間の方々の腹の内は「・・・やっぱり」というところではないのか。もっとハッキリ言えば,溜飲を下げている人間も少なからずいるんじゃないのか?
 ワシ個人としては,次官OBに責任が皆無であったという報道だけは抑制すべきだと考えている。もし今回の事件がモロモロの不祥事に起因するものだとすれば,このような報道は火に油を注ぐようなモノであるし,実際,社会保険庁の長官まで務めておきながら責任がないなどと言えるはずがないのだ。責任はあったがその取らせ方としてテロリズムはよろしくない,ぐらいの言い方をして欲しいモンである。そして是非とも天下りを抑制する実効策を実現させろと論陣を張って頂きたい。テロの抑制には,徹底した取り締まりと同時に,その根幹となっている人々の感情を鎮めるための社会対策が必要であることぐらいは,賢明で高給取りのマスコミ陣の方が知らないはずがないでしょ?

 しかしまぁ,ヘタするとこの先,テロの時代が長く続きそうだな,という気がする。少し前に,ワーキングプアの若者が執筆した「戦争を欲望する」という文章が話題になったが,論の巧拙はともかく,共感する人は多いんじゃないか? 特に就労環境が悪化しつつある若い世代には,この先行きにイヤなことしか待っていない出口のなさそうな状況を脱する唯一の手段を,革命や戦争といった社会の不安定化に求める人も少なからず存在しているのだろう。実際,少子高齢化が進み,国の財政が国債の利払いに押しつぶされそうなこの日本は,全体としてダウンサイジングが進む他無く,その過程でさまざまなひずみが音を立て,よろしくない事件となって現れてくる。原則として,それは嘆息したり八つ当たりしたり自己内省したりして個々人がやり過ごしていく以外,どうしようもないことではある。
 どうしようもないことではある,が,この状況を少しでも良い方向,とは言わないが,更に悪化させることがないようにするには,今から徐々にでも年寄り世代から若い世代へ富を配分する仕組みを構築していくのが,ささやかではあるけどある程度の回避策にはなるとワシは考えている。具体的には消費税率のup,環境税の導入と,ある程度の累進課税の強化(しすぎると橘令みたいな奴が真っ先に逃げ出すから)を行って財源を増やしつつ,子育て支援の充実,高校までの教育費の援助(大学以上はある程度の自由競争を維持した方がいい),職業教育の拡充を行う。まあ民主党が総論では賛成しそうな案な訳だが,自民党でも共産党でもどこでもいいからまずは財源の手当をきちっと言ってから大盤振る舞いをして欲しいというのがワシの一番の願いなのである。そうじゃなきゃ,いくら個人にクーポン配ったって,誰も信用しねーって。そういう意味では選挙前に消費税導入を言い出した大平正芳は偉かったよなぁ。

 とまあ,ワシの政治に対する注文はありきたりのものだ。残りはワシら国民一人一人が行動を起こすことで微力な支援をするよう心がけることで担うしかない。とゆーことで,ワシら個人は,特にワシみたいにまだ仕事がある人間は,自分より若い世代のやることに対していくらかでも金銭的援助をすべきだろう。投資でも良いし,寄付でもいい,お小遣いでもいいし,アルバイトを頼んで対価を払うということでもいい。何でもいいから年寄りの抱え込んでいる金を若い世代に回すこと。これこそ真の米百俵って奴ですな。口先だけの精神的援助ってのは,火に油を注ぐだけだからダメである。
 実際,ちゃんと税金が免除される寄付の仕組みができて,「若者の教育や就労を助けます」と呼びかければ,額はともかくいくらかは集まるモンだと思うのよ,ワシ。数万でも数十万でも数百万でも教育ファンドとか就労ファンドみたいなモンに回れば,例え効果は薄くても希望の光ぐらいは灯せるはずだ。・・・何かマザーテレサみたいなこと言っていてこっぱずかしいけど,そんなこと恥ずかしがっていられないぐらい状況は切迫していると,ワシはホントに心配しているのである。

 なだいなだが相互扶助を言っても自分ら老人が存命中の年金福祉を確保する方便にしか聞こえないし,まー,あと定年まで十年未満になっちゃった連中の浮かれっぷりったら,見ていてホントに(不穏当すぎるので削除)と腸が煮えくりかえる思いがする。嘘でいいから,内心ほくそ笑んでいてもいいから,少なくとも自分より若い世代には「頑張れよ」と言って肩を叩いて欲しいモンである。それが世代を繋いできた人間としての,若い世代への礼儀ってモンだろう。礼儀をわきまえたら,その先に,わずかでもいいから次の世代への「投資」をお願いしたい,というのがワシの願いだ。金額は少ないけど,ワシはもう実践を始めている。その心がけが広まっていくことで,テロの苗床を増やさずに済むはずなのだ。

 普段からロクでもない言動と惰弱な頭脳で世間に迷惑ばっかりかけているワシだが,こと「若い世代への投資」となると途端に真人間になってしまってこーゆー文章を書いてしまう。それはワシ自身がかつて年上の世代から多大な恩恵を受けてきたという思いがあるからだ。ワシが齢40になるまで受けてきたような恩義を,皆さんも次の世代に還元していきましょうよ,と言いたいだけのことなのである。そうすれば,皆貧乏になっても刃物を振り回すことなくそこそこ平和な生活が送れる,とワシは信じているし,そこにしか希望はない,と確信しているのである。